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運気0と白日の毒竜

 ゴツゴツした岩が自分を囲んでいる。上には小さな黒い影。マップを開いても『マップは存在しません』と書かれているだけだ。

 突然の出来事に思考が止まり、取り敢えずカナデにメッセを送ろうとウィンドウを開こうとすると――


「……うわぁ!」


 ズウゥン! と、頭上の影が急降下してきた。ゴツゴツと突き出ている顎、白金を思わせるような白い鱗に包まれた軀、蛇のように長い尻尾。

 着地とともに、地震のような地響きを立ててジゼルの体を浮かせた。


「ド、ドラゴン……!」


 ファンタジーの代名詞とも言えるドラゴンだ。その白いドラゴンは突き出された角に太陽光を集めて収縮させ、光線のようにビームを出した。

 間一髪のところで避けるも、ドラゴンが頭部を動かせばビームも向いている方向へと動いていく。

 およそ摂氏1100度の熱を受けた岩は溶け、ジゼルはそれを見てゾッとする。


「ちょ、ちょっと待っ――」


 静止を促そうとするものの、理性のないドラゴンは光線を止めようとしない。


 この世界では、デスペナルティと言うルールが存在する。


 その内容は『デスした時にレベルが5下がる』と言うものだ。始めてからすぐの人たちはレベルを上げやすいから、ペナルティにあまり意味はないが、ある程度レベルが上がっていくとそうもいかなくなる。

 レベルは上がれば上がるほど上がりづらくなる。


 いまジゼルのレベルが下がると、所持しているスキルポイントが、下がったレベル分引かれるのだ。


 ジゼルはまだ新たなスキルを獲得していない。と言うよりも、レベリングをしている時は、そんなことを気にしている暇がなかったのだ。

 新スキルがない。それは大会での戦術の幅がかなり狭まることに繋がる。こちらのディスアドバンテージとなってしまうのだ。


「ここで死ぬわけにはいかない……!」


 撃ち出された光線を掻い潜って岩の裏へと逃げ込む。どうにかやり過ごすと、ドラゴンの光線は止まった。おそらくまた太陽光を集めているのだろう。


「ふぅ……時間がないってのに……」


 右上の時間は着々と進んでるっていうのに……、いくら不幸体質とは言え限度というものがあるだろう。レベリングしてたら知らない人にテレポートされて、さらにテレポート先でドラゴンと戦うことになるとは……


 流石に分が悪すぎる上に、此処が何処かわからないため、マップ上にいるであろうフレンドに救援を求めることにした。


 いま手が空いている知り合いのフレンドは……


 リィアンさんは何をやっているかわからない。おそらく試合を観戦しているだろうが、あまり迷惑をかけたくはない。

 ジゼルの対戦者であるアヤメは論外だ。


 消去法でカナデしかいない。というよりも、フレンド数が少なすぎた。


 悲しい気持ちになりながら、取り敢えず『たすけて』と打って変換しようとしたところで――


「――あつっ! 危なっ!?」


 ドラゴンの撃ち出してきたソーラービームが、ジゼルの隠れていた岩を貫通した。

 太陽光が集められた光線だ。近くにいるだけで物凄く熱い。

 灼熱の光線が頭一個分上を通過して、かろうじてジゼルは生き残った。


 貫通した箇所はドロドロに溶けていて、溶岩を作り出していた。周囲の熱量とは対照的に、ジゼルの背筋にはヒンヤリとした寒気が伝う。


 その光景を呆然と見ていると、視界がぐわんぐわんと回り出し、紫色のエフェクトが自分の体から発していることに気付いた。


 目を強く瞑って、再び開くと目眩は無くなったが、かわりに周囲に薄い黒のもやが漂っているのに気が付いた。

 何か変だ……、直感で嫌な感じを感じ取ったジゼルは、ステータスを確認する。

 案の定、ステータスには『毒』と書かれてあった。


「……っ! 毒!?」


 HPゲージが少しずつ削られている。気づかない内に始まっていたせいで気付くのが遅れた。

 意味がないことはわかっているが、手で口元を覆う。


「あの光線のせい……? 高火力のレーザーに、レーザーから放出される有機ガスをモデルにした毒ガスか」


 幸いにも光線は一直線にしか撃ち出すことは出来ないみたいだ。掻い潜ることは可能だし、剣や魔法を当てることは出来るだろう。

 しかし問題は、当てた剣や魔法が、白竜の堅そうな装甲に通るか否かだ。


「一か八か、やるっきゃないね」


 やることはいつもと変わらない。早期決戦だ。

 時間がない上に毒の継続ダメージも痛い。


 カナデに4文字の救援要請を送ってから、腰に提げていた剣を抜き放つ。緊張感が最高潮に達して、ジゼルの目が真紅に染まる。


「――行くぞ……!」



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