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運気0と半端な才能

 今回は『第二回ZDOイベント』に参加しているジゼル達の話ではなく、ジゼルの親友にして幼馴染みの過去の話をするとしよう。


 カナデはジゼルよりも早くVRゲームを始め、ジゼルよりも多くのゲームをプレイしてきた。その種類は『STG(シューティング)』『ADV(アドベンチャー)』『RCG(レースゲーム)』『音楽ゲーム』と多岐に渡った。


 その中で一番ハマり、一番長い時間プレイしたゲームは何? と聞かれれば、カナデは即答で答える。

 『アンフェル・エルドラーダ』――『EED』と呼ばれているFPSゲームだ。


 VRゲームは基本的に一人称視点のゲームが多く、このゲームも例に漏れず一人称なので特色することが出来ないのだが、それでも他のゲームに負けない人気要素があった。

 他のFPSゲームよりも銃の種類が多く、戦略性が高いゲームなのだ。約100人が競い合うバトルロワイアルなのだが、多くのプレイヤーが存在し、同時に多くの作戦や思惑が交差するゲームだった。


 カナデは『AX50』と言う対物狙撃銃を愛用していた。自身の身長の3分の一くらいの大きさの長い銃身を持って歩くのは手間がかかっていたが、1発の威力は絶大。反動は大きいが改造すれば最大10発放つことが出来るのだから、EED内ではかなり強い部類に武器だった。

 カナデはマッチング中に、最大距離5km先を走っていた敵の頭を抜いたこともある。5kmも先だから、もちろん肉眼で確認することもできないし、EEDのスコープの最大倍率は15倍なので見ることは不可能だ。


 ならばチートか? 答えは否である。

 いくら着色を使っていても、いくらウォールハックを使っていても、いくらオートエイムを使っていても、いくらオートショットを使っていても5()k()m()と言う驚異的な数字には不可能が付き纏う。


 チートでは確実に不可能な――完全無欠に純粋な()()()()()()()()だったのだ。

 最大倍率100倍の双眼鏡で敵の戦闘を観戦していたら、「あれ、これ抜けるんじゃない……?」と思い立ち、双眼鏡を覗きながらライフルを構え狙いを定めて撃ったら、なんと頭に当たっちゃったのである。

 弾は減退しているとはいえ、あの『AW50』の次世代タイプと呼称されている『AX50』の火力である。他の敵と交戦し終わって疲弊しているところで、頭を狙撃銃で抜かれたら死んでしまうのも無理はない。


 とにかくカナデの叩き出した『5kmキル』は、他の誰にも引けを取らない最長キルと言う偉業だったのだ。この記録は未だに破られていないらしい。

 この後も流石に5kmは無いけれど、ポンポンと超長距離のロングショットキルを連発していた。そして付けられた通り名は『不可視の死女神(サイレント・リーパー)』。カナデは超長距離から撃つことで完璧な消音効果を持つ、絶命必死の弾丸を撃つことが出来るプレイヤーとして認知されていた。


 流石に終盤になると、マップに映し出された自分の場所を感づかれ、敵の方から近づいてきて近距離戦になってやられることが多かったが、それでもカナデの叩き出した記録は、叩き出した本人を天狗にさせた。

 最弱副武器と呼ばれる弓だけを装備して長距離キルに挑戦してみて足で纏いになったり、エイム練習のために移動で重宝する車のタイヤを長距離攻撃したりと、敵味方関係なく害悪プレイをするようになってしまった。


 いずれカナデとオンラインを介して遊んでいたプレイヤー達は、頼もしかったはずのカナデから離れていき、カナデは1人でプレイするようになっていた。

 しかしカナデはそれでも自分の才能に酔っていた。


 ある日、リアルの友達のジゼル自然月花がカナデのやっているゲームに興味を持ち、詳細を聞いてきた。

 ならばやってみた方が早いと言って、カナデは月花をEEDには入れずに、少し前にやっていた対戦格闘ゲーム――『ショートファイト・コロシアム』と呼ばれる、初心者に打ってつけのゲームで練習と称して戦った。



 自分が仮想さいのう化物かたまりを連れてきてしまったことに、最後まで気付かずに。



 ――少し手加減してやろう。そう油断したのが災いの元だった。

 一挙一動する度に技術を習得していく、剣闘士なのに軽装備のジゼルに、少しずつ押され気味になってきた弓使いのカナデは本気を出すようになってきた。完璧に基礎動作を会得したジゼルは、無意識ながらも応用技術の会得に乗り出した。


 ジゼルが会得したものはカナデでさえ未だ使うことが出来ない高等技術ばかり。流石にカナデは焦った。自分よりも後にログインした初心者に追い抜かされるなど、ゲーマーであれば恥晒し以外の何物でもない。

 多くの修練と親スキルの会得に乗り出し、後日またジゼルと戦った。



 ――そして完敗した。



 素人に負けたことにより、カナデの中に苛立ちが蓄積されていく。

 EEDでストレス発散を図るも、思うような結果が残さず、なかなか気持ちは楽にならなかった。そして、ついにやめてしまうことを決意する。かわりにSFCにのめり込んで修練の毎日を送っていた。

 基礎動作の確認を繰り返し、ネットのスレをサーフィンして新たなスキルを発見しては習得、オンライン対戦でのランダムマッチング。これが毎日のルーティンになっていた。


 自分が何かに怯えていることにいち早くジゼルは気付き、怠慢中の逃げれない状況で事情を聞いてきた。

 そしてカナデは自暴自棄に陥っていたことの次第を、妙なところで勘の鋭い幼馴染みに包み隠さず話した。


 それに対するジゼルの反応と言えば――


「なんだ、そんなこと?」


 淡白だった。苦悩していた自分がバカらしくなり、そんな自分が嫌になり、感情が狂ったカナデは怒り心頭になった。


「アタシはアンタのせいでおかしくなったの! アタシには才能があったし、誰よりも練習を重ねてたの! なのにアンタが来てからはどうしてもやるせなくなって……何も出来なくなって……! アンタさえいなければッ!」


 到底幼馴染みや親友にぶつける言葉では無かった。しかし自分の言いたいことは吐き出しているつもりだった。

 ジゼルはそれを見透かしているのか、目を細めて微笑みこう答える。


「練習をしていたって言うのもわたしは見てないから分からないし、才能がどうとかなんて初めたばっかのわたしには全然理解出来ないよ。それにわたしには才能があるのかは分からないけどさ。練習は誰よりもやってるつもりだよ」


 その矢継ぎ早に告げられる言葉群が、弱っているカナデの心を串刺しにしていく。自分もそうだが、ジゼルも相当言葉選びが下手糞ヘタクソだ。

 それよりも気になる言葉が一つ。


「――練習した? ジゼルが?」


「失礼な。そうだよ。暇な時にわたしも練習してるんだよ」


 才能の怪物のようなジゼルも、暇な時にログインしては練習を積み重ねている。当然のことのようで、これがなかなか難しいことだと知っているカナデは、その事実に驚愕した。

 ゲームをエンジョイしようとする初心者は、練習などせずに本番に臨む。自分の動作確認や、不自然なラグが生じていないか、もしくは新たなコンボ技の開発に勤しむかしてからオンライン対戦に臨むのが常道だが、初心者には面倒くさがりが多い。


 それでもジゼルは万全に万全を期して臨んでいるらしいのだ。およそ『素人ヌーブ』と呼ばれる部類の初心者ではない。


「……ジゼル」

「なに?」

「アタシも……ジゼルみたいに強くなれるかな?」


 聞く人が聞けば究極的な問いだ。一瞬だけキョトンとしたジゼルは、ふふっ、と笑って答える。


「わたしみたいに強くなっても、わたしはどんどん引き離していくよ?」

「……ふーん。そんなこと言っちゃうんだ。そんな悠長なこと言ってると追いついちゃうよ?」

「追いつけるものなら追いついてみてよ。わたしは待たないからね」


 その少女はかけがえのない親友であり、2人と存在しない幼馴染みであり、気を抜いたら首を取られる死神(ライバル)だ。



 その少女が今、得物を片手に携えてわたし(アタシ)の前に立っている。

 頭上では試合開始のカウント。円形の闘技場の観客席からは両者に向けた大声援。多くのモノが存在する闘技場内だが、しかし2人の少女を阻む障害物は、このアリーナには存在しなかった。

 カウントが『5』を指したところで、カナデの方から口を開いた。


「……ジゼル」

「なに?」

「アタシも……アンタみたいに強くなれるかな?」


 何処かで聞いた問いに、ジゼルは微笑んで答える。


「わたしは引き離してくけどいいの?」

「だったら追いついてあげるわよ――」


 2人が言い合ううちも、カウントの数字はどんどんと小さくなっている。ついに『0』を指したカウントを2人は見上げ、『Match Start!』と書かれた文字を見上げて、2人は相対する少女を微笑みながら睨んだ。


「「――ぶっ潰してやる」」


 ややっこしい因縁を持つ少女たちの戦いが、第3回戦でようやく幕を上げた――ッ!



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