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運気0の第二回戦

 カナデの一方的な蹂躙が終わった後、ジゼルの出番はすぐに来た。緊張で気持ちは落ち着かないままだが、気分は段々と下がってきているのがわかる。カナデのあんな顔は見たくなかった。

 俯きがちなジゼルの眼前に、『闘技場へ移動しますか?』と書かれているウィンドウが現れる。


「……空気読んでよ」


 無機質なゲームシステムに空気を読めと言うのも可笑しな話だが。濃い赤のボタンには『YES』が。濃い青のボタンには『NO』と書かれている。

 一瞬の躊躇もせずに『YES』のボタンをタップする。


 個室は淡い光で満たされてジゼルは目を閉じる。耳鳴りのようなBGMが聴覚を刺激して、やがて鳴り止む。耳鳴りが鳴り止んだと思ったら、今度は四方八方からの大声援が響く。


 ジゼルは目を開く。目の前には枝の形をした魔法杖クレストを持った少女プレイヤーがいる。薄桃色と白が基調の可愛らしさが強調される魔法使いのローブ。清らかさが強調される薄茶色の長めのスカートが付いたレギンス。腰まで伸びているの金髪を後ろで一括りに束ねているポニーテール。

 一言で表すならば『妖精』か『精霊』だ。


 そんな可愛らい少女ま、一回戦目の自分の戦いを見ていたのだろう。すっかり怯え切っている。


 頭上でテンカウントが始まる中で、ジゼルは疑念に駆られて悶える。

 ――わたしって何したんだっけ?


 たしか首の筋を切った後に、左脚も切り落として、極め付けに片腕も斬り飛ばしたらゲームセットしていたはすだ。剣を引き抜かせないばかりか、追い討ちまでしていく外道ぶり。そりゃ引くわ。

 剣士なら腕を斬り飛ばされるわけで、魔法使いなら何をされるか分かったもんじゃないと怯えているわけか……


「……なんか……ごめん」

「……え? いえいえ」


 開幕のゴングが鳴っていると言うのに、ジゼルは謝罪して後悔の念に暮れて、少女魔法使いはそれを受け入れると言うMMO含むゲーム史上初の珍事。

 観客席から「なにやってんだー?」「戦えー」と困惑と非難が混ざったヤジが飛ばされ、飛ばされている当人であるジゼルは何故か落ち込んでいて、おそらく観客よりも困惑しているであろう少女魔法使いはオロオロとしている。混沌カオスはここに極まった。


 いち早く立ち直った少女魔法使いは、ジゼルの隙をついて小声で詠唱を口ずさむ。


「【ソリューション・レイン】!」


 蒼穹が広がる空を曇天が覆い、橙赤色の液体がジゼル目掛けて降り注ぐ! 近くに落ちた液体が地面を溶かしたのに気づいたジゼルは、ようやく事態の急変に気づく。ヒュッ、と息を飲み込んで逃げ始めた。


「……ふわぁああああ!?」


 痛い痛い痛い痛い痛い!? 液体が体に当たる度に激しい痛みが体全体に波紋のように広がっていく。ダメージも半端ではない。

 逃げ惑うジゼルに気を配りながら、次の魔法を唱えようとする少女魔法使いに視線を向けたジゼルの体は、凄まじい熱気と蒸気を発していて、目は赤く変色している。


「――【パワード】! 【スピーダー】!」


 ジゼルの躰が橙黄色の淡い光に包まれる。付与魔法を重ね掛けた体を利用して溶解液の雨を躱しながら一歩、二歩と近づいていき、三歩目で体を捻って跳ぶ!

 横に()()()()()()少女魔法使いに接近したジゼルは、勢いをそのままに二回斬撃を叩き込むッ!


「ふッ……!」

「くっ……!」


 斬撃を叩き込まれた衝撃で吹き飛ばされた少女魔法使いは詠唱を中断してしまう。見ると少女魔法使いのHPは4割ほど削られていた。

 持続時間が切れたのか溶解雨が止む。雨は止んで少女魔法使いはひるんだ。千載一遇の好機を逃すほどジゼルは甘くはなかった。


「ハァァアアアア!」


 ジゼルが振り下ろした剣と、少女魔法使いの短杖クレストが交差して、ジゼルと少女魔法使いの間に小さな接点が生まれる。少女魔法使いの短杖は生半可な硬さではないのか、なかなか折れそうにない。


「――貫くは巨人の肢体……煌くは一条の光!」


 逆境時での魔法詠唱。至近距離での魔法使用となると、確実に自分も巻き込まれてしまうはずなのだが、それ込みでの()()()()か……!

 逃げようとするジゼルの腕を少女魔法使いは逃すまいと力強く掴む。よく見ると少女魔法使いの体からは赤い魔力光が漏れていた。妙に力が強いのは付与魔法がかかっているからか。



 ――逃げられない……!



「偉大なりし火精霊サラマンダーよ。

 我が魔導の力を授けん。

 爆炎の力をもって、

 その愚鈍なる者を灰塵に帰せ――!」


 完成してしまった詠唱。紡ぎ終わってしまった力を持つ言霊。2人の少女の頭上に出現した巨大な魔法陣。万物を破壊する爆発魔法! 消費MPが尋常ではないことから使う者が少ないとされるZDO最強の巨大な上級魔法が、円形闘技場アンフィテアトルムに撃ち込まれた――!




 瓦礫が散乱する闘技場内には沈黙が流れていた。片方の魔法使いの自爆攻撃により戦っていたプレイヤーの生死を固唾を飲んで観客は見守る。

 やがて瓦礫の中からボコッと手が出てきて、白混じりの銀髪を腰まで長く伸ばした金眼の少女。


「――けほっ、けほっ……はぁ、死ぬかと思った……」


 瓦礫の下から這い出てきたのはジゼルだった。ジゼルが出てきた瞬間に『WINNER ジゼル』と書かれた通知が、開場にいたプレイヤー達に表示された。

 開場が熱狂に湧いて、熱気が開場を包む。開場中が銀髪の少女の生還を喜ぶと同時に、何故彼女は生還出来たのかに疑問を抱いた。


 あの爆発魔法が唱えられる前に、ジゼルは咄嗟に地属性の初級防御魔法【アースウォール】を三重に張ったのだ。防御力の低い防御魔法なのだが、相手が魔法使いとなれば話は別になってくる。

 元々のVITが低い魔法職は爆発魔法を食らえば即死だし、なんなら剣士に4回ほど弱めに斬られても死ぬ。しかし【アースウォール】の効果は攻撃の被ダメージを10%軽減だ。三重に重ねれば30%軽減だ。

 爆発魔法を使用したことで防御魔法を使用出来なかった少女魔法使いよりは少ないダメージをジゼルは受けた。


 不幸体質で咄嗟な判断を下すことには慣れているジゼルからしてみれば、少女魔法使いが詠唱を始めた時点で、するべきことは脳内で決めていた。

 つまり勝因は『咄嗟の判断』。いつもの不幸体質に鍛えられた『判断力』に物を言わせた、まったく計算外の勝利なのである。


(まったく勝った気がしない……)


 これがジゼルの感想だ。しかもラストアタックが自爆って……。そんなアレやコレやを知らない観客は、今もなお盛り上がっている。

 目の前に現れたウィンドウの赤い離脱ボタンを押すと、ジゼルの体はポリゴンとなって砕け散った。



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