運気0の初陣
《『逃走者』を獲得可能になりました》
「ねえなんで私達こんなに追われてるの?」
「私が聞きたいくらいよぉおお!」
背後には大量の緑色のカマキリ型モンスター。
スポットと呼ばれるモンスター達のスポーン源にレベリングをしに来たのは良かったものの、そこには大量のモンスターが集中して沸いていた。
最初期のうちは大量の冒険者が、自然にスポーンするモンスターを狩るよりも効率が良いとレベリングに来ていたのだが、時間が経つにつれて来る冒険者が減り、討伐されるモンスターも少なくなって溜まってしまったのだ。
そこへ少しずつモンスターを倒しながら、楽しそうにノコノコやってきた初心者プレイヤーが二人。プレイヤーを付け狙うモンスターにとっては格好の的だった。
――まあ、要は。
「今日も不幸体質は絶好調ー!」
「言ってる場合かぁああ!?」
AGI値が高いカナデがジゼルを脇に抱えて走る。まだまだレベルが低いジゼルとは打って変わって、13レベルのカナデの走りは綺麗な物だ。
だと言うのに当のカナデは相当焦っているらしく、ジゼルを抱えている手とは逆の手の爪をかじりながら、ぶつぶつと考え呟きながら、まさに女子高生らしからぬ動きだった。
「これじゃあレベリングも何もないよ! デスペナ覚悟で戦う!? うわレベリングの意味がなくなっちゃう! やっぱりジゼルのスキルポイント貯めてから来るべきだった!?」
「早口で何を言ってるかわからないけれど……私なら何とか出来るかもしれないよ?」
「どうやって!?」
「《ファイアボール》なら倒せるんじゃないかな?」
「絶対に! MPが! 足りなああい!」
魔法を使いたいだけだった。
最初に覚えた魔法スキルは火属性魔法の《ファイアボール》。手のひらの上に小さな火の玉を作り出して、対象に向けて放つという基本の火属性魔法だ。
初心者魔法使いが覚えられる魔法スキルの中で、一番火力が高い魔法ということで習得させられた。ただし火力が高い代わりに、有効範囲が小さいという欠点を抱えていて、多く見積もっても一体ずつしか倒せない。多くないじゃん。
「……ぅう、こうなったら……」
「なったら……!?」
「諦めよう!」
「……あ、やっぱり!?」
転移系の魔法もアイテムも持たず、非常事態時の緊急手段を持っていない初心者がイレギュラーに会ったときの行動は、イレギュラーに迎え撃って出来るだけレベリングをするのが一番だ。
デスペナを受けても元を取り返せるだけのレベリングをしていれば帳消しどころか、出会う前よりも強くなっている。
「行くよ! ジゼル!」
「ああもうしょうがないなあ!」
『初心者の魔導書』をオブジェクト化して、カマキリに向かい合う。迫り来る緑色の波に、作り出せるだけの小さな火球を放つ!
「【ファイアボール】! 【ファイアボール】! 【ファイアボール】!」
「よーし良いよジゼル! こら! お前たちの相手は私だぞ! 『デコイ』!」
カナデの体が黄色に発光し、カマキリ達の目線はカナデに向いた。一矢乱れぬ気持ち悪い統率に、カナデは鳥肌をたてる。
「ヒィッ!? キモッ!?」
カサカサと四本足で歩く様は、カナデの苦手な虫を思い出させる。というよりも、カマキリ達が普通にキモい。
一方、ヤケクソになって無心に【ファイアボール】を撃ち続けていたジゼルはと言えば――
「【ファイアボール】! 【ファイアボール】! 【ファイアボール】!……はれ?」
ポフッと音を立て、最後の一発は不発した。ジゼルは恐る恐ると言った感じで、右上の紫色のMPバーを見る。紫なんて無かったんだ……
「どうしようカナデ! MPが切れた!」
「逃げてぇええ!!」
カマキリ達に追い回されるカナデには、何処となく説得力のようなものがあった。魔導書をポリゴン化させてアイテムボックスに仕舞う。
その背後にはジゼルをヘイトに買ったカマキリの大群が。我がいや我こそがと追いかけるカマキリ達が、AGIの低いジゼルに追いつくのは容易だった。
そして一匹のドデカいカマキリが、キラリと光らせた鋼の鎌を振り下ろす。
「キャアア!?」
「ジゼルー!?」
ジゼルの華奢な体はポリゴンと化し、データ体の空気中へと流れていく。セーブポイントを置いた、始まりの街へと戻っていったのだろう。
「――クッソォオ! ジゼルの仇ぃいい!」
花の女子高生らしからぬ絶叫を上げて、カナデはモンスターカマキリへと切り掛かった――!
《『魔力増幅(小)』が獲得可能になりました》
《『蟷螂殺し』が獲得可能になりました》