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運気0の詳細説明

 多数の観客が中央(アリーナ)で戦闘を繰り広げる2人の対戦者を囲むような円形のフィールド。ローマの円形闘技場(アンフィテアトルム)を模されたらしいが、コロッセオだのコロシアムだの言われていることしか知らないので、考えるだけ無駄だと言うことに辿り着いた。

 中央で戦っている片方の選手は、やや劣勢に追い込まれているのがはっきりとわかり、若干焦っているのがわかる。もう片方の選手は精神的な余裕が垣間見えて、自分が押しているこのに勝機を見出したのか、さらなる猛攻を仕掛ける。

 勝っている方のプレイヤーからしてみれば勝戦かちいくさだったはずだ。しかし勝利の女神は劣勢のプレイヤーに微笑んだらしい。


 ――バキィンッ!

 優勢だったプレイヤーの得物である剣の耐久値が尽きたのか、刃が割れて剣だった鉄屑はポリゴンと化す。


 『武器破壊(ウェポンブレイク)』。

 剣を握っている者ならば稀に体験するシステム上での出来事だ。

 勝負に準備は付き物だ。耐久値の尽きが早いと、こんなこともままある。ましてや勝機を得たりとばかりに適当に剣を振り回していた彼のプレイヤーの剣は、消耗が激しかったはずだ。


 そしてこのイベントのルール上では武器が破壊されたらゲームオーバーだったはずだ。武器が無くなった時点で彼の負けは確定。

 上空に『GAME OVER』と輝いている。


 ――にしても最後の……


 今の必然性に欠ける結果の試合を見て、魔女は首を傾げる。頭を回転させようとすると、背後から久しぶりの可愛らしい声に、声をかけられた。


「リィアンさん!」

「――あら。ジゼルちゃん」


 いぶし銀のように白く燻んだ銀髪。ウサギのように赤い紅の瞳。凛々しくも幼げな童顔。剣士のような風格を持つくせして、目指す職業が魔法使いと言う、誰が聞いても恥ずかしくない立派な矛盾を孕んだ少女が、なんだか妙に元気よくやって来た。


「なにか良いことでもあったの?」

「ふふん。わかります?」

「ええ。鼻歌を口ずさんでるもの。何か察することぐらいは出来るわ」

「……え、鼻歌は気づかなかったんですけど。わたし、そこまで機嫌がいい風に見えますか?」


 それは知らないけれど。でも鼻歌を口ずさんでいたのは知らず知らずのうちだったのか、小動物のように顔をポカンとさせている。


「それより聞いてくださいリィアンさん! わたしの友達が初めて我儘を言ってくれたんですよ!」

「……ワガママ?」

「はい! その子は我慢強い子なんですけど……何というか芯が強すぎるせいで、自分の欲に対して悲観的だったんですよ」

「ああ、そういう子はたまにいるわね」


 そう言ってリィアンはジッとジゼルを見る。しかしそれに気づいていないジゼルは、嬉しそうに言葉を続ける。


「はい。ですからその子が我儘を言ってくれたのがすごく嬉しいんです!」


 それを言うならジゼルも同じだ。芯が強すぎるせいで、自分のして欲しいことを滅多に言わない。『白銀の虚数魔導書庫(チートアイテム)』を受け取らなかったのも、それが理由の一端のようなものだろう。『ピカトリクス』の時に感じた思いを思い出したリィアンは、苦笑して小声で言う。


「……貴女も中々歪んでるわね」

「へ? なんですか?」

「気にしないで。なんでもないわよ」


 そう。なんでもない。人間には例え自分のことでも、知って良いことと悪いことがある。自身構成が行われている最中で、この子場合はその()()が鍵になっているはずだ。でなければこんな矛盾した願いなんて抱かないはずだ。

 ゲーム(これ)は夢だ。たかが夢で、たかが夢の登場人物(リィアン)が、人生設計を壊すことなんてさせるわけはいかない。


 夢オチで終わる物語が、主人公の人生リアルを変えるだなんて聞いたことがない。


「ところでリィアンさんって、どのブロックに出てるんですか? 応援に行きたいんですけど」

「私は出ないわよ?」

「出ないんですか?」

「ええ。運営公式イベントに白銀の虚数魔導書庫(こんなもの)なんてチートクラスのアイテムを出してみなさい。すぐに運営に目をつけられるわよ」

「わたし、その――スキル? アイテム? の能力を知らないん

ですけど……そんなに強いんですか? ていうか使わなければいいんじゃ……」

「ええ。なんたって……いえ、ここで言うのもアレね。今度パーティを組んだ時の楽しみに取っておいてもらえないかしら? それに、貰い物を使わないって言うのは、色々と失礼でしょ?」


 勿体ぶって言うが、これは両者のために必要なことだ。

 仕方ないと観念したのか、不満気なジゼルは身を引く。『白銀の虚数魔導書庫』の本来の持ち主だというのに、すこし申し訳ないことをしてしまった気になってしまう。


「そっかぁ……リィアンさん出ないのかぁ……」


 強敵の1人が出場しないことに喜べばいいのか、自分が勝手に師匠と仰ぐ人が出場しないことに悲観すればいいのかわからないジゼルは、なにをするでもなく天を仰ぐ。

 困り果てたジゼルに苦笑して、リィアンは励ますように言った。


「まぁ、貴女の試合なら楽しく観させてもらうわよ。なんたって()()ジゼルの試合だもの」


 自信満々に言うリィアンに、ジゼルは首を傾げて疑問を口にする。


「……その、いまパーティを組んでる人からも言われたんですけど、リィアンさんが知ってる『ジゼル』って何なんですか?」


 目の前の少女が自分の知名度を知らないのに驚き、ジゼルとパーティを組んでる者達の事情を知らない魔女は、知っていることをすべてつまびらかに語った。



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