運気0のパーティメンバーは…
ジゼルが『ピカトリクス』を進めている頃、カナデはZDOへとログインした。ジゼルに追いつくために、少しでもレベルを上げるためだ。
いくら親友。いくら幼馴染みと言えど、負けっぱなしなのは存外ツライものだ。
カナデは自分の無才に苦悩している。
ジゼルに負け続けていたら、あの娘はどんどん先へと突っ走って行ってしまう。そうなれば彼女は孤独になってしまう。頂点となった者は、周りと力が見合わずに孤独となってしまう。SFCでNo. 1となっている今も孤独そのものだ。だから再びSFCを始めずにZDOへとやってきたんだから。
「クッソォ……!」
腹が立つ。沸点が下がる。自暴自棄になる。
あの娘は一人にしてはいけない。
――ジゼルを動物に例えるなら『ウサギ』だ。
空気を読むのが得意で、しかも視界も広く状況判断が早い。人と接するのが上手く、親しみやすくて誰とでも友達の関係を始められてしまうほどのコミュ力の持ち主。誰かのために自分を犠牲にする英雄的行動が簡単に出来てしまう胆力の持ち主。
しかしウサギは孤独になると死んでしまう。カナデはジゼルを――月花を一人にするわけにはいかなかった。
思い更けながら我武者羅にモンスターを斬る、殴る、押しつぶす。ポリゴンと化して消えていくモンスターのリソースは、再びモンスタースポットへと還って行く。
「カナデ殿」
一通り狩り尽くし、次なる狩場へ赴こうとするカナデを、古風な口調の女声が呼び止める。
振り返ると漆黒の忍び装束を身に纏い、その上に白磁の羽織を羽織ったくノ一がいた。戦国の暗殺者を思わせるその女性は、腰に蒼い満月のような鍔を付けた刀を提げている。
誰であろう彼女こそ、ジゼルの付き人にして従者であるアヤメだ。第一回イベントの終盤でジゼルと戦い、戦国の忍者よろしく自分より強い主人に仕えるためにジゼルを訪ねてきた変人だ。
「アヤメさん、なんでここが……?」
「パーティを組んでいたら、メンバーの位置はマップ上に反映されるのですよ」
言われてからメニューを開いて『MAP』という欄を押す。自分の現在位置である青い矢印マークに、黄色い矢印マークが重なっていた。
なるほど……
「……それにしても、こんなところでレベリングとは精が出ますね。しかし精を出すのは良いことですが、程々にしておいたほうがよろしいのでは? 疲れて倒れては元も子もありません」
「……別にいいですよ。疲れるのはアバターだけですし。現実世界には何も影響はないです」
ゲーム内で疲れるということは、つま。隠しパラメータの体力ゲージが減るということであって、現実世界の佐藤花奏にはなんら影響は出ない。
ここはいくら疲れても良い世界なんだ。精一杯疲れなければ……いや、一杯以上に頑張らなければ、凡人は天才には追いつかない。
――アタシは戦わなくちゃいけないんだから。
悔しさと決意を込めて拳を握るカナデの横で、アヤメは一人納得したかのように頷いた。
「――なるほど、そう考える御仁でしたか」
「……どういうこと?」
数度頷くアヤメに、睨みをきかせて振り向く。
「いや何。貴女も主人と同じく出来る方なのだなと思いましてね」
「ジゼルと……?」
「ええ、はい。詳しくは言えないのですが……とても似ていると思います。……いえ、すみません。この場合は似て非なりと言いますか」
「……そう」
詳しくは聞くまい。ジゼルと似ていると言われても嬉しくない。ジゼルの隣に立つには、ジゼルと一緒ではダメなのだ。
違うからこそ隣に並び立てるのだから。
「……ああ、そうだ! そういえば主人をお見かけしませんでしたか?」
「ジゼルを?」
「はい。ログインしているのはわかっているのですが……マップ上に反映されてないので……何かあったのかなと」
心底心配そうに言う。アヤメもカナデとは違う方向で、ジゼルのことを気にかけているのだ。あの娘は壊れやすい子だから……
「安心して。ジゼルならクエストに行ってるよ。魔法使い専用のフィールドのね」
「なるほど。『闇色の墓地』ですか!」
意を得たりとポンッと手のひらに拳を当てて、アヤメは思いついたように目を開く。
「それじゃあ私はカナデ殿のレベリングに付いて行ってもよろしいでしょうか? 主人がいなければ、私のすることがないんですよ」
「……ジゼルには何をやってるのさ」
「もちろん護衛です。これでも私はZDO有数の斥候なんですよ」
「斥候て……」
偏見かもしれないけど、少し古い言い方をするアヤメに苦笑して、二人で次の狩場へと向かった。




