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運気0の虚数魔導書庫⑥

「お疲れ様」

「お疲れ様でした。加勢してくれてありがとうございます」


 腰を折って律儀にお礼をするジゼル。それに対して魔女は「ううん」と少し首を振った。


「一人で倒しても二人で倒しても、貰える経験値は同じだから。一人よりも二人で倒した方がお得なのよ」

「そうなんですか」

「ええ……それよりもジゼルちゃん。貴女もレベリングに来てたの? それにしてはレベルが追いついてないような気もするけど……」

「わたしはレベリングじゃないてクエストで……『ピカトリクス』ってクエストなんですけど……」


 ジゼルの言葉に魔女は眉を寄せて、疑念の孕んだ一言を告げる。



「『ピカトリクス』のボスって、ここじゃないわよ?」



「えっ」


 思考凍結。


 MPを擦り削ってまで効かない【ファイアボール】を撃ち続け、魔女に力を貸してもらってようやく苦労して倒したボスゾンビがジゼルが攻略を目指していたクエスト『ピカトリクス』のボスではないと知るやいなや、体が固まり、思考が止まり、アバターが動かなくなってしまった。

 あれ、おかしいな……目頭が熱くなって……

 どこからか電気信号で脳内に送られてくる、妖艶な声のボイスチャットが聞こえてきた。


「もしもーし。大丈夫ー?」


 あれだけ怖がって醜態を晒した上に、教会内の天井や壁を駆けずり回ってスタミナを削りに削り、さらには危険を冒してまで近づいて剣で斬っていたと言うのに、これが本ボスじゃなかったと?


「……」

「も、もしかして泣いてる? だ、大丈夫だからね! 『ピカトリクス』のボスはここまで強く設定されてはいないからね!?」


 目の前の魔女がとても焦っているのがわかる。冷静沈着そうに見えた魔女が焦っていた。


「……はい」

「泣き止んだ? それならよかった。乗り掛かった船だし、私もそのクエストにお付き合いするわよ」

「い、いいんですか?」


「もちろん。泣かせちゃったみたいだしね。それにクリアしたクエストを見返すのも悪くはないし」


 そう言って魔女は苦笑する。別にこの人は悪くないのだが、優しいのか責任という言葉を重要視するたちなのだろう。謂れのない背徳感が募る。


「ありがとうございます! あ、今更ですが、わたしはジゼルです!」

「私はリィアン――本当に今更だけど、第一回イベント4位入賞おめでとうジゼル」

「あ、ありがとうございます!」


 二人はボロボロの扉を開いて外へと出る。空は相変わらず真っ暗な暗闇だが、何故だか心に不安はなかった。『ピカトリクス』攻略者である最強の助っ人を連れ、クエストのボスが待つであろう場所へと向かった。


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