運気0の虚数魔導書庫④
「な、なんで貴女がここに……」
「レベリング。ここのボスは私のレベルでも一人で倒せるし……何より魔法使い専用クエストのボスだけあって、経験値たくさんもらえるもの」
楽しそうに笑う女性は球体を肥大化させて、ボスゾンビを超えるくらいに大きくさせる。
「え……」
「安心して。私のスキルだから」
そう言った魔女は、ボスゾンビを見据える。すると漆黒の球体が赤く発光し、小さな火の球を魔女の指先に収縮される。
「【プロミネンス】」
魔女が魔法名のようなスペルを唱えたかと思うと、小さな火の球はボスゾンビへと飛んでいく。ボスゾンビは油断しているのか、避けようともせず立っているだけだ。そして火球はボスゾンビの鼻先へと当たり――
「――ッ!?」
大爆発。大炎上した。
渦状を描くように炎が立ち昇り、紅炎となってボスゾンビを燃やす。たまらずボスゾンビは逃げ出そうとするが時すでに遅く、魔女が操る紅炎の監獄に焼かれるのみだ。
「す……すごい……!」
今のジゼルでは、まだ出来ない領域の魔法に度肝を抜かれる。
いつか全ての魔法を操って、【万能の魔法使い】になる夢を持つジゼルにとっては、彼女は第一の目標となり得る。
「ねえ、貴女ってたしかジゼル、だっけ?」
「あ、は、はい!」
顔を向けずに聞いてくる魔女に、ジゼルは不意に問われた質問へ焦って返す。
「やっぱり! じゃあもしかして、ジェネシスってプレイヤーと戦ったことあったりする?」
「ジェネシス……」
誰かのプレイヤー名なのだろうがジゼルは覚えていない。そもそもZDOでプレイヤーと戦ったのは、水瓶座攻略後の対CK戦と、アヤメとのタイマンの2回切りだ。
もしかしたらCKのうちの一人だったのかもしれないが、本気状態となったジゼルは周りを見ようとはしないため、本当に戦ったかすらうろ覚えの状態だ。
「うーん……ごめんなさい。戦ったことはあるんでしょうけど、覚えてないんです……」
「そう。それじゃあしょうがないわね」
MPポーションを渡してくれた命の恩人だ。仮想世界の仮初の命とはいえ、その恩義には報いたい。いつか必ず思い出そうと心に誓い、業火の中で焼かれて悶え苦しむボスゾンビと向かい合う。
「こんな呑気に話しているけれど、一応はボスの目の前だし、ちゃんと戦わなくちゃね」
「はい!」




