運気0の女友達
「おお……! すっごい……!」
真っ黒な部屋から転移して街の公園のような場所へと飛ばされる。初期装備のプレイヤーやかっこかわいい装備のプレイヤー、街の中を闊歩するNPCもいて活気付いていた。
異国の中世風な街並みで、まるで異世界にでも来たかのような感覚だ。
周りの景色を見回していると、鉄装備の鉄鎧を来た少女が、手を振って此方に走ってきていた。
「あ、やっと来た!」
「……え、どなたですか?」
「ふふん。見てわかんない?」
「…………え、どなたですか?」
「アタシよアタシ! カナデよ!」
カナデ。リアルの友達で幼馴染み。小中高まで同じ学校に在籍している親友。
しかし私の知ってるカナデは、黒い髪にメガネを掛けたテンションの高い普通の女の子だったはずだ。金髪ロングで翠眼のパリピそうな娘じゃない。
そうか、これが噂に聞く……
「新人狩りですか!?」
「違うわよ!」
ジゼルの推理に反論してくるパリピっ娘。
「エディットよ! エディットしたのよ! ほら、わかんない!?」
「冗談だよ。わかってる」
伊達に長年一緒にいるわけでもないのだから、幼馴染みを見間違えるはずがない。
「まったく……アンタの言葉は冗談か本気かわかんないってのに……」
「ごめんってば」
「……怒ってないし良いわよ。よくあることだしね」
本気で怒っていないのか、カナデはそっぽを向くだけで追求をしない。
「それじゃあカナデ先生のRPG講座を始めましょうか」
「よろしくお願いします先生!」
光の粒子のようなポリゴンが集まってオブジェクト化する。そして出てくるスーツのような女教師の服装と丸眼鏡。手元には学校の先生が持ってそうな棒を握っている。
「その服装は何?」
「この日のために買ったのよ。安かったしね」
わざわざ買ったのだそうだ。後からカナデに聞いた話によると、このスーツと丸眼鏡、アイテム的な効果は一切無いので完全にネタアイテムなのだそうだ。
「それじゃあ……えっと、ネームは?」
「ジゼルにしたよ」
「なんだいつものじゃない」
「別にいいじゃん」
ジゼルはフランスの女性名だ。初めてゲームを始める時に「カッコいいし良いんじゃない?」とカナデに言われて以降、このネームを愛用し続けている。
「それで職業は何にしたの?」
「魔法使いだよ」
「……もう一度言って?」
「魔法使い、だよ……?」
「……はあ。やっぱりそう来たか。ジゼル、私がいてよかったね」
「なんで? なんかダメだった?」
「魔法使いって職業はね……初心者向けの職業じゃないのよ」
装備欄に装着されていた『初心者の魔導書』を出す。能力は『INT+4』。INTというものがわからないが、強いのだろうか。
「初期段階の魔法使いは魔法でモンスターを一人で倒せないの。杖で殴るしか戦う方法がないのよ」
「……え、本当に?」
「マジよマジ。試しにステータスを見てみなさいな」
何かを掴むような仕草をしてから手を開くと半透明のパネルが現れた。『ステータス欄』と書かれてあるボタンをタップする。
「……何もない」
「でしょ? その状態から魔法スキルを習得していくんだけど……スキル取得に必要なSPは最低でも10。初期に配布されるSPも10。つまり最初は一つしか習得出来ないのよ」
ソロプレイだったら詰んでいたらしい。カナデがいなければジゼルのゲーム生命は尽きていたも同然だった。
つまり――
「珍しく幸運だ……!」
「幸運じゃないわよ必然よ。昨日アナタの思考を読んだ私がどれだけレベリングしたと思ってるの」
……れべりんぐ? 心の内で小首を傾げながら、ジゼルは親友の声に耳を傾ける。
「レベル13よ13。深夜まで頑張ってモンスターを倒してヘトヘトよ。……いやホントつっかれた……」
「あ、ありがとうございます」
幼馴染みとはいえ、思考を読まれるのは複雑な気持ちになる。以心伝心と言ってしまえば聞こえはいいが、やはり恥ずかしいものがある。
「……まあ、いいわ。取り敢えず実践授業を始めるよ。付いてきて」
先導するカナデの後ろを、ジゼルは久しぶりのダイブのせいで覚束ない足取りで、カルガモの雛のように付いていくのだった。