運気0の虚数魔導書庫③
ハムスターのように頬を膨らませ、空洞のように大きな口から放たれる異色の溶解液。ジゼルは横へと回避するも、溶解液が当たった場所は、ジュワァ……と妙にリアルな音を立てて溶けている。
溶解液には『腐食化』のデバフが付与されていた。
『腐食化』というのは、その名の通り腐らせるデバフのことで、顔に当たれば即死。胴体に当たれば毒のようにじわじわとダメージを与え、脚に当たればAGI値ダウンの効果が付与される厄介なものだ。
ジゼルのVITならばどこに当たっても即死。そもそも攻撃を受けてはいけないという鬼畜ゲーが繰り広げられていた。
「【スピーダー】! 【スピーダー】! 【スピーダー】!」
アバターを一時的に敏捷値極振り状態にする。魔法の照準は定め難くなるが、今回ばかりは仕方ない。止まっていたらゲームオーバーに等しいのだから。
しかし逃げているだけでは終われない。このボスを倒さなければボス戦は終わらないのだから。
「……ここだ!」
跳びながら左手をボスに向けて【ファイアボール】を放つ。ボスのHPゲージがほんの少しだけ赤く変わって4ミリほど削れる。
「たったそれだけ……っ!?」
即死とは行かないまでも、良いダメージは入ると予想していた攻撃が、まったくダメージが通らなかったことに動揺する。
ジゼルの使える魔法の中で最高火力の魔法で、しかも相性が良い属性の魔法だったはずなのだが、削れたのがたったの数ミリだったのだ。
となると、やはり火力が圧倒的に足りない。
飛来する溶解液をすんでのところで横へと転がって躱す。
「【ファイアボール】! ……【ファイアボール】!」
ただでさえ少ないMPを絞って、2発の火球を生み出して放つ。火球はボスゾンビの眼球へと突き刺さるが、減っているゲージは見た目通りの火力ではない。
制限時間はない。頼れる【ファイアボール】の消費MPが10で、ジゼルの現在のMPは102。50回復するポーションの数は6本。MPが1回復するに必要な時間は1分。放った回数は3回。頼れる【ファイアボール】の最大装弾数はおよそ40発。
ボスゾンビのHPを削りきるには、ギリギリどころか全然足りない。2割削れるくらいだ。
「クッ……!」
1発。また1発と着実に火球を当てていく。しかし削れていくのは少しずつ。
「ダメ、か……」
MPを尽くしても勝てない。だったら、あとはもう諦めるしかないじゃないか。ジゼルが目を閉じようとした。――その時だった。
教会内に豪雷が轟き、ボスゾンビを押し戻した。
「大丈夫?」
扉の方から声をかけられた。
「は、はい……。あ、貴女は……!」
「あら、あの時の子じゃない」
魔法かスキルかわからないが、漆黒の球体をふわふわと浮かせたとんがり帽子の魔女だった。




