運気0の虚数魔導書庫②
突然だが、ZDOは西洋風の世界観が主流のゲームだ。街を歩いているNPCや、レンガ造りの街並みを見れば一目瞭然と言えるだろう。信仰されている宗教は知らないが、この世界で信仰されている宗教の開祖は、きっとイエスの復活に類似した伝説を持っているに違いない。
リアルの世界を見てもらえばわかるが、ヨーロッパで火葬が嫌われているのは、遺体が無くなっていたら復活が為されないからであるからである。
この世界でも似たような考え方があるのだろう。だからこそ、モンスター蔓延る世界の墓地では、ジゼルの大嫌いなモンスターが湧いて出てくるのだろう。
――街郊外にある墓地フィールド『闇色の墓地』。
《『緊急回避』が獲得可能になりました》
《『囮体質』が獲得可能になりました》
画面上に出てくるスキル獲得可能のログを無視して、ジゼルは整備されていない道をスキル『逃走者』を駆使して駆け回る。
『ガアアアアアアア!!』
「ギャアーーッ!?」
だらしなく垂れ下がった眼球。腐って緑色に変色した体皮。ボサボサになり、ところどころ禿げている頭。かつての原型を留めていないボロボロになったシャツ。土の中で干からびて体表から剥き出しになって出てきた骨。
誰であろう、みなさんご存知ゾンビさんである。
戦闘能力はたいして高くないのものの、その異様すぎる容姿と発達していない赤ちゃん並みの知能のせいで、ZDOプレイヤーの大半から嫌われている可哀想なモンスターだ。
ZDOの1プレイヤーであるジゼルも例外ではなく、ホラー系でかつキモすぎる容姿を持つゾンビさんから逃げ惑っていた。
「はあはあ……ふ、普通に出てくるならいいけど! 地面から手を出してから出てくるのはどうかと思――ひっ!?」
ガバッ! と勢いよく土を地中から掘り返して、第二第三のゾンビさんが湧き出てくる。
ゾンビは墓の下から這い出てくるかのように湧いてくるのが特徴的なモンスターだ。ホラー好きならいざ知らず、ホラー嫌いのジゼルからしてみれば嬉しくもなんともない。
ここのステージの作者絶対に許さない……
幸いにもゾンビは腐っているので火属性が効きやすい。ジゼルが使える火属性魔法と言ったら【ファイアボール】くらいのものだが、それでも効果的なのに変わりない。
どうにかこうにかゾンビ蔓延る庭園を切り抜けると、墓地フィールドの奥には寂れた教会があった。湿り気があるせいか苔が生茂り、ガラスが破られた窓には草木が纏わりついている。天辺に立つ十字架だけが、かろうじて原形を保っていた。
そんな考察はともかく逃げるの優先。ジゼルは教会の中へと飛び込んだ。
ところどころ穴が空いた扉をバタンと閉めて、木製のソファのように長い椅子の一つに座る。すると、塞き止められていた疲れがドッと押し流されてくる。
「はあはあ……な、なんでよりにもよってゾンビなの……」
いくら墓地のフィールドであったとしても、他にもモンスターが存在するのではないだろうか。ゾンビはホラーの鉄板キャラだ。ジゼルが嫌うのも無理はない。
「にしてもこれは……」
迷わず躊躇せずに飛び込んでしまったが明らかに怪しい。教会は日本風に言うと寺院みたいな物で、墓地に教会が――というよりも、教会に墓地があるのは珍しいことではないのだが、クエストを進める中で寂れた教会というのはクエスト進行に何か関係があるのではないか。
重い足腰を奮い立たせて散策を始めようとすると、目の前に火の玉が浮かび上がっているのが視認できた。
女性の形が象られたステンドグラスから、チカチカと灰色の光が漏れ込んできている。
思わずジゼルは口を痙攣らせた。
『――誰ダ』
重い口調に重い声のトーン。目の前に浮かび上がるのは血に塗れ、ボロボロのカソックを身に纏い、眼球がグロテスクに垂れ下がっているゾンビの神父だった。
アイコンには『Immorality priest zonbie』と書かれている。つまり相手は名前持ちの怪物と言うことだ。
しかもゾンビの……
『誰ダ。誰ダ、誰ダ、誰ダ誰ダ誰ダ誰ダ誰ダ誰ダ誰ダ誰ダ誰ダーーッ!』
「ヒャアアアアアーーッ!?」
教会のドアを開け放って逃げ出そうとするものの、鍵がかけられているかのように開かない。どうやら強制バトルの流れのようだ。
ZDO運営ゾンビ好きすぎでしょ!
《『巡り合わせ』が獲得可能になりました》




