運気0と因縁のモブ
見渡す限り平らな平地の草原フィールドに、数多の青白い光が出現する。光の中から人が出現し、期待に満ちたキラキラした目で前を見据える。
その中に一つ、二つのくっついている光があった。
「……転移完了、かな?」
「うん。だと思うよ」
ジゼルは屈んで地面に目を向ける。
「ほら見て地面、これ芝生だもん……って」
ジゼルは周りを見渡す。見覚えがあった。
「ここって……」
「……うん」
ジゼルの無言の問いに、カナデもまた無言で返す。嫌な予感がした。具体的に言うと、いつもの不幸の予感。
脳裏に過ぎるのはカマキリの悪夢。二本の鎌をその手に携えた大量の虫型モンスター。
頭上に大きな数字が出現し、本当のゲームスタートのカウントダウンを始める。
《3……》
「カナデ……」
《2……》
「……なに?」
《1……》
「どんなことがあっても、一緒だよ!」
「うんアタシもそうしたいな!」
『スタート!』
プレイヤー達の目の前に、大量の赤い光が出現する。光は収まると同時に異形の姿を為していき、カマキリのような姿になる。大型、中型、小型に問わず、すべてのモンスターはカマキリだ。
「「ギャアアアアア!?」」
モンスポ大量発生事件の再来。ジゼルとカナデ、二人にとっては地獄のような時間が始まった。
「……っしゃァ! 行くぞぉおお!」
斧を持ったプレイヤーが、カマキリに向かって走り出す。いわゆる脳筋凸と言うやつだ。STR値特化型のステータス持っているプレイヤーに多く現れる人種だが、モンスターを一体でも多く狩らねばならない今回のイベントでは役に立つことこの上ない。
「俺達も続けぇええ!」
それに発破をかけられたように、プレイヤー達が我先にと駆け出す。
小型カマキリと戦うプレイヤー達を見ると、簡単に倒しているように見えるが、やはり大ボスのような存在の介入もあり、一筋縄ではいかないくらいに手強いらしい。
現に始まって数秒でHPが半分を下回っているプレイヤーもいる。
それら一部始終を見ていたカナデが、ジゼルに声をかける。
「……ジゼル」
「なに?」
おそらく自分と同じことを思っているであろう親友に、ニヤッと笑って問いかける。
「リベンジマッチ……行こ?」
「……うん!」
白髪金眼の少女は宝瓶の迷宮で手に入れた杖を構え、金髪翠眼の少女は剣を片手に駆け出した。カマキリとの再戦が始まった。




