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最強の座

 ――とある日。

 いつも通りジゼルに勝負を挑み、いつも通り返り討ちにされたジェネシスは、地面に倒れ込みながら空を仰いでいた。


『ア゛ァァァ!! ンで勝てねェんダァ!? 絶てェパラメータはオレの方が勝ってンだろォ!?』

『そんな風に考えてるから勝てないんじゃないかな』


 冷めた目でジェネシスを見るジゼル。

 確かにパラメータはこの世界に於いて強さを示すための基準の一つだが、それ以上にジゼルにプレイヤースキルで劣っているのは明らかだ。


 仮にもNo. 1プレイヤーであるなら、それに気付いてないわけがないと思うのだが……


『技術で負けてンのはわかってンだァ! だから成長型をSTR(攻撃力)機敏性(AGI)にぶっぱして手数で勝とうと思ったんだがよォ……』

『ああ、確かに……』


 なんか手の動きがキモかった。

 なるほど。攻撃の手を倍にして、隙を作り出そうとしていたわけか。

 無駄じゃん。防ぎ切られたらどうするんだ。


『クソがァ! どうやったらテメェに勝てンだジゼルゥ!』

『仮に弱点があったとして言うわけないでしょ』


 ガアアアアア! と獣のように雄叫びを上げるジェネシス。

 その光景に()()()のジゼルは呆れを孕んだ溜息を吐き出す。


『まぁ、でも』



―――



 拳と大剣が火花を散らす。

 重い大剣を振るう黒騎士の攻撃の手は、ジェネシスの手数に頼った拳を防ぎ切ることは出来ない。


 しかし一撃の重みは断然に違う。

 押し押され、岩礁に打ち寄せる波のように拳闘士と黒騎士は攻防を繰り返していた。


「チッ、大人しく死んどけやァ!!」

「此方の台詞だ。只愚直に突っ込み、生きていられると思うな」


 まさに波状。

 押しては引き、また引いては押す。

 鼬鼠イタチごっこという言葉の方が相応しいだろうか。


「『臥竜拳』!」


 腰を据えた下方に刺さる拳。

 横に伏せる竜が突然暴れ出したように、ジェネシスの拳が黒騎士に牙をを剥く。


「チィ!」


 刺さった。

 強力な一撃が黒騎士に打ち込まれだが、しかし相手はジゼルとタメを張った剣士だ。

 ただではやられず拳の主であるジェネシスにカウンターを仕掛けようと、両手で持つ大剣を振り上げる。


 黒騎士の攻撃は肌で感じ取れる。

 まるで触覚が強化されたようだ。何処から攻撃されたとしてもわかる気がする。

 だがわかるのと避けられるのとでは感覚が違う。躱わせないなら防御一択。突き出した拳を引っ込め、腕を顔前にクロスする。


「シィッ!」


 蛸壺に打ち付ける滝の如く、黒騎士の大剣はジェネシスの腕に振り下ろされた。

 エゲツない打撃力の剛腕。準備をしていなかったら、簡単に受け切ることはできなかっただろう。


 実際、今の一撃でかなりHPは削られた。

 反撃を仕掛けようにも、数値的に次の攻撃を受ければ苦境に立たされるのは必定だ。

 ゲームにも引き時という物がある。今のような決闘中では、プレイヤーが最も大事にする決断だ。


 迷わずジェネシスは黒騎士から離れる。


「逃すと思うか?」

「チッ!」


 しかし流石の黒騎士。

 撤退しようとするジェネシスを逃がすまいと、振り下ろした大剣を逆手に持ち、ジェネシスの胴体目掛けて振り上げる。


 当たっても死にはしないだろう。だが一気に形成が崩れてしまうことになるのは間違いない。


 当たるわけにらいかない。

 ジェネシスは宙に浮かした拳を握る。


「『空拳』!」


 拳術技には珍しい中距離攻撃技。

 ジゼルも驚いたその技は、威力は低いが技の特殊性故に拳術家には重宝される。

 ジェネシスは勿論、幾度もこの技に頼ってきた。そして今回もまたこの技に頼る。


 黒騎士は振り上げた剣を己に寄せ、剣の腹で防御する。


「もういっちょォ!」


 2連目の『空拳』を黒騎士に放つ。

 しかしこれもガードされてしまった。だが稼いだ時間は十分だ。立て直しは出来た。


 左脚に力を込めて大地を蹴る。

 ブレーキを掛けるために残した右脚を前に。力強く前進した身体で黒騎士に肉薄する。


 ブレーキを掛ける。

 踏ん張った右脚から波紋するように右へ力を伝播させ、慣性の法則で左手を突き出すように操作する。


「オラアアァァァ!!」


 繰り出した拳の威力は絶大だ。

 モロに受ければ吹き飛んでしまうだろう。

 だが黒騎士は流石の耐久力だ。ジェネシスの拳を受けて蹌踉ける程度で踏みとどまった。


「最早……致し方ない」


 黒騎士の大剣が黒く光り始める。

 不穏な黒が剣を包み込むように発光し始めるが、ジゼルによって生み出された霧に遮光されたジェネシスの目には、その光は入らなかった。


 故に、反応が遅れるのも致し方ない。

 その攻撃に気付いたのも、黒騎士の剣がが呟く輝いたからだった。


「【ラグナロク】」


 唱えられる終末論。

 剣に纏ったその光は、ジェネシスを絶たんと光度を増した。


「チィ……ッ!」


 もし仮に消えた右手と同じ惨状になるデバフが付与されるなら、付与された胴体はどうなってしまうのだろうか。


 そんなものわかりきっている。

 残らず消滅。すなわち即死だ。


 その攻撃を受けてはならない。

 だが受けなければならない。身体に残った慣性の反動が、ジェネシスを窮地に追い込んでいる。


「やってやらァ!」


 死ななきゃいい。

 死ななければ、次がある。

 この局面で為すべきことは延命だ。例え両腕を渡してしまおうとも、この命だけは渡さない。


 両腕をクロスし、剣を受け止める体勢に入る。

 死んだらそれまで。だが生き残れば次がある。


 剣が腕に触れる、その刹那――



 ヒュン、と風を切る音がした。



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