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運気0の幼馴染

 目の前が真っ暗になった。

 ジゼルの魔法【孤月妖狼】だ。

 視界がなくなる大きなデメリットがあるが、ランダムで発生するクリティカル判定を確定で何回も発生させる大きなメリットのある魔法。


 しかし殆どの場合、撤退時の目眩し程度にしか使わない。

 というか確定クリティカル判定なんて副産物で、此方が本元の能力だ。

 あの実力オバケな2人しか、この副産物を能力として使わないだろう。


「チッ……見えない……」


 2人に実力が追いついていないカナデは無論、視界の悪さに苛立ちを覚える被害者側だった。


 前後上下左右。

 あのジゼルのナリをした偽物が、どこから奇襲を仕掛けてくるかわからない恐怖が心を侵食する。

 スキルと感覚で周囲に意識を張り巡らせながら、いつ来ても対応出来るように矢を弓に番える。

 ――と、


 コツ、と足音が聞こえる。

 人の多いこの場では足音が絶えないが、それでも爪先がこちらに向いているような音だった。


 この足音の向かう先は此方だ。

 敵襲か。カナデは足音のする方へ弓を構える。


 コツ、コツ、コツ。

 足音は段々と大きくなっている。

 此方へ向かっているのは確定だ。いつでも矢を放てるように指に込める力を緩め始める。


「カナデ殿!? 此方にいましたか!」

「――アヤメ?」


 足音の主はアヤメだったようだ。

 とりあえず敵襲ではなかったことに安堵し、間違ってもアヤメから離れないように弓を降ろして身を寄せる。


「状況確認をしよう。視界が暗転した時に、アヤメの近くに敵はいた?」

「はい。近くに5、6体はいたかと。しかしカナデ殿とユゥリン殿、後方支援組を守るために下がってきたので、今この近くに何体いるかは定かではありません」

「了解。こっちも接敵してないから、近くの敵は少ないんだろうね」


 ならば話は簡潔だ。

 この暗転が終わるまで待機する。それが最も安全かつ、最も次行動へ繋げやすいだろう。


「…………」


 本当にそれでいいのか?

 今もジゼルは戦っているのではないか?

 ジゼルを助けるために無茶をしたのに、その無茶を無駄にしてこの安全に居座るのか?


「カナデ殿?」


 何か考える素振りをし始めたカナデを不審に思ったのか、アヤメはカナデの顔を覗き込んで問うてくる。


「アヤメ、ごめん」

「え?」

「ちょっとアタシ、やらなきゃいけないことあった」


 ジゼルを助けに来たのだろう。

 ならば最後まで遂行しなければいけないではないか。

 ジゼルの幼馴染として、友人、親友として。助けを求めた彼女を救わなければいけないのではないか。


「やってやる」


 キリ、と弓を握る手から音がした。


「アヤメ! ジゼル達が戦ってる方角は!?」

「カ、カナデ殿。何を?」

「いいから早く!」

「は、はい! 不詳、このアヤメがカナデ殿の目となりましょう!」


 1秒のロスが惜しい。

 アヤメの指示に耳を傾ける。


「方向は此処から十二時! 位置取りと……は手……にあ……殿がい………………黒騎………………!」

「……っ」


 弓に矢を番え、固い弦を引く。

 しかし前が見えない。冷や汗が絶えない。視覚に次いで嗅覚も、聴覚さえも消えて無くなっていく。

 アヤメが必死に伝えてくれているが、それも聞こえなくなってきていた。


 感覚が研ぎ澄まされる。

 身体の振動がやけに大きく感じる。

 四感が無くなって触覚だけが研ぎ澄まされているのだろうか。


 こんな状況で弓を射て、間違ってジゼルに当たったりしないだろうか。

 その心配が弦を引く手を固くする。脳裏に過るのはカナダの放った矢がジゼルの背に当たる心象。


 頭がやめておけと叫ぶ。

 心がジゼルを放てと指を震わせる。


 ガチガチと歯がシバリングする。

 余計なことを考えるな。アタシは頭が悪いんだ。


 心に従う。覚悟は決まった。

 その瞬間、見えている世界が広がった。


 【孤月妖狼】が解けたわけではない。

 相変わらず目の前は真っ暗なままだ。

 しかし。カナデに見えるのは剣を構え周囲を警戒するジゼルと、拳と大剣をぶつけ合うジェネシスと黒騎士の姿だった。


「……? カナデ殿。目が……」


 その声は、カナデには聞こえていない。

 しかし今のカナデの状況を簡潔に現していた。

 今この瞬間だけカナデは――


「……赤い」


 ――実力でジゼルに届いていた。


「『スナイプ』」


 迷いを振り切り、カナデは矢を放った。



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