運気0の魔法のバトン
「ンで、共闘たってェどうすんだァ? 自由に斬って殴るだけじゃァ、オレが先行しちまうぞォ?」
「わたしが斬るだけしか出来ないと思ってる?」
手のひらに火球を作って見せる。
そう、ジゼルの本職は剣士ではなく魔法使い。
斬るだけではなく、燃やす、濡らす、土に埋めることさえ可能な万能職だ。
ジゼルに距離の問題は関係なく、対人戦闘ならお手の物。相手が人の形をしていれば無頼の強さを発揮する。
「近距離を補うために剣を使ってたけど、あなたと一緒なら魔法を使ったっていい。そうでしょ?」
「ダハハハ! お前マジかよ! いいンかァ!? ――ラストアタックは貰うぜェ?」
「上等だよ、受けて立つ。倒すのはわたしだ」
挑発に乗ってやる。
どうせ目指すとこらは同じだ。こんな時くらいは競争したっていいだろう。
「負けを見ない。ふん、やはりどれほど強かろうと人間は無謀よな」
「うるせェ、行くぞォ!」
ジェネシスの喝を受けジゼルは魔法を展開する。
放つ魔法は簡易な物。無詠唱だが連射可能な、DPS数値の高い魔法ばかり。
一発の火力にこそ期待は出来ないが、塵は積もれば山となる。百発打てば何発かは当たるだろう。
「豆マシンガンを食らわせてあげるよ!」
「豆鉄砲でいいだろうがよォ。なンだ豆マシンガンって……」
数撃ちゃ当たる。
エイム力はカナデに劣るが、得意武器はマシンガン。一発当たれば万々歳。
その一発を起点に敵を翻弄する。見えない恐怖の完成だ。
「厄介な……【ヒャクオウ】!」
突然、黒騎士の前に黒い壁が作成される。
漆を塗りたくったかのように真っ黒で大きな壁だ。
ジゼルの放つ魔法が壁に当たる。
火球、水球、風球。あらゆる魔法が黒い壁にぶつかると同時に消えていくが、その次の瞬間、
「カウンター……!?」
当たった全ての魔法がジゼルに向けて放たれた。
「気をつけろよジゼルゥ! またあのデバフが乗ってるかもしんねェ!」
「わかってる!」
手がなくなったら厄介だ。屈んで回避する。
背後から阿鼻叫喚が聞こえてくるが無視だ。
ジゼルの右手が赤く光る。
火属性、無詠唱の魔法。ジゼルのよく使う魔法と言えば、あの魔法しかないだろう。
「【ファイアボール】!」
ジゼルは火球を黒騎士に放とうとし――
「【ヒャクオウ】」
黒騎士は再び黒い壁を作り出す。
またカウンターをするつもりだ。しかしそうはさせない。
わたし達に二度目はない。
「軽装の機動力舐めんじゃねェ!」
「っ……キサマ、ジェネシス! いつの間に背後に!」
超機動で黒騎士の背後に回り込んでいたジェネシスの拳が、黒騎士の後背に炸裂する。
「耐えてジェネシス!」
黒騎士への肉薄に成功した共闘者に指示を出す。
そして手元に残った火球を近くのクローンに放ち、次の魔法行使へと行動をシフトする。
「『狂う孤狼。満月の夜。
孤独吠える狼は、
幽鬼となって彷徨い臨まん』」
クリティカル発生魔法【孤月妖狼】。
視界を奪ってクリティカル判定を生み出す。今の状況にはうってつけの魔法だ。
デメリットは使用者側も目の前が真っ暗になることだが、ジェネシスにとってはデメリットでもなんでもないだろう。
わたしとタメを張るなら、
視覚なんて無視して見せろ。
「『背後に霊。御前に幽。
濛々猛々しき魔物となって汝を噛み千がん』
――【孤月妖狼】!」
ジゼルを中心に発生する黒い霧。
この戦場にいるすべてのプレイヤー、クローン、そして黒騎……士までもを巻き込み視界という認証装置をぶっ壊す。
「わたしを超えて見せてね、ジェネシス」
「シャアッ! ナイスだジゼルゥ!」
見えなくなった前方から歓喜の声が聞こえる。
一寸先は闇なのに、目の前の光景が手に取るようにわかる。ジェネシスうるさい。
「こっちは何も見えないんだから頼んだよ。ジェネシス……」
思いのバトンは託した。
あとは待つだけだ。
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