最強の二人
拳技の応酬が黒騎士を襲う。
「『絶拳』! 『昇拳』! 『臥竜拳』!」
まるで一つの技のように繋がる3連コンボ。
繰り出される技の一つ一つが、一つのスキルだと言われて誰が信じるだろうか。
打撃を重ねに重ねるジェネシスの猛襲は、どんなに防御力や機動力があろうとも粘り切れるはずもない。
ジェネシスよりも強いと言われた立場から断言しよう。
「あれはヤバい」
付け入る隙がないというか、最早アイツ一人でいいんじゃないかとも思えるくらいには凄まじい。
そも黒騎士は大剣を使った火力重視の重装備に対して、ジェネシスは手数を多くした超軽装備。
強さ関係云々の前に、黒騎士の攻撃が当たらなければパワーバランスの理論は根底から崩れてしまう。
簡単に言ってしまえば、ジェネシスは黒騎士の天敵だった。
「『手巌』! 『絶拳』! 『雷寂』!」
攻撃を当てようとしても当たらない。その失敗は攻撃者にとっての最大の苦痛だ。
ジェネシスに攻撃が当たらなければ、しかしジェネシスは永遠と拳術スキルを打ち込んでくる。黒騎士にとっては地獄そのものだろう。
だからジゼルも、少し隙を見つけては追撃を加える程度にしか攻撃が出来ていない。
「……【ファイアボール】」
ジェネシスに近づくクローンに火球を見舞う。
あの勢いを止める物があるとすれば外部からの行動阻害くらいの物だ。そんなのジゼルが対応すれば問題ない。
「とことん合わないなぁ……」
ジェネシス単体での攻撃より、2人で連携攻撃した方がよりダメージを与えやすいとは思う。
だがジェネシスの動きはジゼルの攻撃速度よりも格段に早いため、ジゼルがジェネシスに合わせられない珍事が発生してしまう。
「ぐっ……【アルマゲ……】!」
「させっかよォ!」
魔法を使おうとする黒騎士に拳が炸裂する。
最早ジェネシスの独壇場と化していた。
「下郎が……我はキサマには用がない!」
「そんなこと言うんじゃねェよ! 楽しもうぜェ、なァ!?」
いつもよりも声が高い。
そんなに楽しいのかジェネシス。まぁ自分を下に見ていたヤツに一矢報いれたら楽しいだろうな、まったく……
「っ!」
黒騎士の背中が淡く光った。
拳を突き出すジェネシスがそれに気付いた様子はない。
黄土色の光だ。ジゼルの目にはしっかりと映った。
「【カリユガ】!」
「させない!」
ジゼルの詰めと魔法の発動。
どちらが早いかと問われれば勿論……
魔法の発動である。
「チッ……」
「ってェな!」
黒騎士を中心に衝撃波が放たれる。
魔法を許してしまったジゼルは舌打ちし、飛ばされないように膝を曲げて踏ん張る。
真正面から衝撃波を受けてしまったジェネシスは、強風に煽られ宙を舞ってしまうもすぐに体勢を立て直し、黒騎士から少し離れたところに着地する。
「……あァ?」
ジェネシスは右手に違和感を覚える。
見ると右手首がボロボロと崩れるようにポリゴン化していっていた。
「ンだこりゃァ」
「状態異常『終焉』。モロに受けたキサマの手は、最早使い物にはなるまい」
「はァ? ンなデバフ聞いたことねェぞ」
「…………」
(チートか)
ジゼルは状況を浅く読み取る。
聞いたことのないデバフ名。
見たことのないエフェクト変化。
これだけで断言するには十分だろう。
「【アルゴルモア】、【アルマゲドン】、【カリユガ】……まさかこれ全部に見たことのねェデバフが入ってんじゃねェだろうなァ?」
「ふん。受けたらわかる」
「受けたくねェから聞いてんだがなァ」
「――聞いてジェネシス」
ジゼルが閉ざされていた口を開く。
その声はいつにも増して重々しい。
「あなた一人じゃ勝てないことな今の魔法を受けてわかったでしょう?」
「うるッせェよはっきり分かったわクソがよォ」
「わたし一人でも勝ち目があるかわからないの。だから力を貸してほしい」
ジゼルから送る共闘依頼。
ジゼルとジェネシスは互いの強さを知り合っているが、しかしそれは互いの剣と拳をぶつけ合って得た知識だ。
決して共に戦って知り得た物ではない。剣と拳を平行線にするのは互いにド素人。ぶっつけ本番に等しい提案に、ジェネシスは真顔になる。
「――本気か?」
「わたしは冗談なんて言えるほど面白い人間じゃないよ」
「マジか。マジかよ。どの口が言ってんだ人間びっくり箱がよォ! いいぜェ乗ってやんよ、オレに付いて来れっかなァ?」
「誰に物を言ってるのさ、二番手さん?」
挑発も何もここまでだ。
ここから先は互いに信頼し合う、まさにヘドが出る共闘時間。ジゼルとジェネシスは少し離れた位置から、互いの視線を平行にした。
「……」
その先で待つ黒騎士は、静かに立っている。
青髪に立つその姿はまさに『無』だ。だが兜の奥に潜む顔だけは、兜の中に隠しきれないほどの狂気に満ちていた。
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