運気0と太陽
「征け、そして蹂躙せよ。偽造品共よ!」
「ジゼルに遅れを取るな! 戦闘開始!」
先頭を駆けたカナデが号令を掛けると同時に、後続のプレイヤー達が雄叫びを返す。
けたたましい大地を蹴る音が戦場に木霊する。数えきれない凄い数のプレイヤー達が走り出したのだ。
その中でジゼルは先陣を切って、己の偽物を掻き分けヴォーディガーン目指し一直線に駆ける。
ジゼルの目に映るのは黒騎士のみ。
今は一人じゃない。仲間がいる。カナデがいる。雑兵は他に任せてしまおう。
黒騎士を倒そう。決着を付けよう。
「ヴォーディガーン!」
「来たか、ジゼル!」
黒騎士はジゼルを視認すると、すぐさま得物の大剣を持ちジゼルを睨みつける。
「『銀戦士』!」
スキルを展開。
銀のオーラに包まれたジゼルは右足を踏み込むと同時。爆発音のような音をその場に残し、音速を変えて前方へと跳躍した。
クローンには目もくれない。
合間を縫って黒騎士へと一直線。駆け抜けることができる最短距離、そして自身に振り抜かれる攻撃を予測しながら黒騎士へと直走る。
幸い、今のジゼルに攻撃できる偽物はない。
否、いたとしても追いつけない。いくらジゼルを模して作られていようと、偽物が本物に辿り着くことなど不可能なのだ。
「『対人無双』」
2つ目のスキル『対人無双』。
プレイヤー、或いは人型のモンスターに対する通常攻撃の威力を上げる能力。
効果は1.2倍と高くはないが、打ち合う時間を少しでも減らせるなら使うに越したことはない。
――さらに、
「『兜割り』、『型破り』!」
対重装スキル『兜割り』。
重装備の敵に対して与える通常攻撃の威力を1.5倍上げる。
装備貫通スキル『型破り』。
発動から10秒間、敵の装備から加算された防御力を無視してダメージを与えることが出来るようになる。
時間が許す限りスキルを使用する。
「『悪魔の烙印』!」
スキル『悪魔の烙印』。
正義の女神アストライアを倒した際に入手したスキル。通常攻撃の威力が3倍になる代わりに、被ダメージ量が2倍になる。
諸刃の剣という言葉を具現化したようなスキルだ。だがジゼルにとって、そんなものはデメリットでもなんでもない。
(攻撃が痛いなら……当たらなきゃいい!)
受ける攻撃全回避。
人間業ではないように聞こえるが、やろうと思えば理論上誰でも出来る。
ありとあらゆる攻撃方法において、その攻撃が始まった瞬間に攻撃軌道は確定する。その軌道を瞬時に見抜き、予測すれば自身に向けて放たれる攻撃を回避することが出来る。
視野を広くし攻撃軌道を予測すれば、どんな相手であろうと回避しつつ合間を縫って走ることも可能となる。
無論、これは理論上の話である。
軌道予測をするための頭の柔らかさと、全方位に向けて常に注意をし続けられる忍耐力、そして並外れた動体視力がなければ机上の空論だ。
ジゼルはそれら全てを持っている。
戦闘の天才。最強の剣士。
ジゼルがそう言われる所以は此処にある。
「フッ……!」
下段に構えた剣の切り上げ。
黒騎士の胴を縦に断たんとする下方からの一閃。
だが黒騎士はその剣尖に対抗し、黒い大剣を上段から振り下ろす。振り下ろされた大剣と交差しそうになるが、ジゼルは僅かに剣を右へと逸らした。
ジゼルの振るった剣はするりと黒騎士の大剣の横を抜け、黒騎士の装甲縦に裂いた。
「ぐっ……」
苦悶の声は黒騎士のものだ。
鎧の防御も鋼鉄の装甲も、全てを貫通した攻撃が黒騎士を襲う。
一瞬のダメージで怯んだ黒騎士に、銀髪の剣士は畳み掛けるように剣の軌道に続きを作る。
「ヤァッッ!!」
上へ振るった剣を一瞬手放し、鯉が滝を登るようにジゼルも黒い宙を跳躍。
逆手に持ち替えた剣を、今度は上から下へと切り裂くに黒騎士の甲冑目掛けて振り下ろす。
息つく間もない連撃。
黒騎士の胴体を×に斬った。
「まだまだ!」
振り下ろした剣の勢いをそのままに左方向へ一回転。振りまき様に更に剣を叩き込む。
「ぬぅ……」
スキルにも稼働時間がある。
ジゼルに許される時間はスキルが発動している時間。リミットを超えたら今のようなダメージを継続して与えることは不可能だ。
またスキルのクールが溜まるまで待たなければならない。そんな待ち時間を作れば何をされるかわからない。
「倒す!」
「……厄介な!」
黒騎士がジゼルに腕を伸ばす。
捕まるまいとバックジャンプでジゼルは回避する。
しかしその瞬間にジゼルは避けたことを後悔することになった。
「【アンゴルモア】」
黒騎士がしようとしたのはジゼルの捕縛ではなく、手のひらからの魔法行使だった。
着地したジゼルはすぐさま攻勢へと反転し、黒騎士の魔法行使を止めようと駆ける。
「っ!」
「遅い」
黒騎士の手が紫色に発光する。
光の強さは初級魔法を放つ時以上だ。広範囲、かつかなりのダメージ量を誇る魔法が放たれると予測できる。
「逃げろ――!」
ジゼルが大声で叫ぶと、プレイヤー達が此方を向いて状況を把握する。
しかし把握したところで、あるいは理解したところで、この状況に対応できるものでもない。
大半のプレイヤーは巻き込まれることが必死だ。
――無論、例外となるプレイヤーもいるが。
「『空拳』!」
大抵のプレイヤー達がジゼルの警告に身を竦ませる中、その間を縫ってジゼルよりも速く黒騎士に接近する影があった。
「止めろやゴラァァァ!!」
黒騎士の側面からぶっ飛ばす一撃だった。
解放されようとしていた魔法も、この一撃に動きを麻痺したのか次第に光を弱めていく。
「ありがとう、ジェネシス! 助かっ――」
「今のは流石にヤバかったよなァ!? 貸し1だぞジゼルゥ!」
「……うわぁ。助かってなかった……」
主にジゼルが。嫌なやつに借りを作ってしまった。
後々控える面倒事に頭を悩ませながら、ジゼルはジェネシスの横に駆け寄り剣を構える。
「ンで、どうすんだァ? あれはそのまま倒してもいいンかァ? ウイルスとかばら撒かねェよなァ?」
「いいと思う。そこらへんの指示は出てないし、何よりアスラが黒騎士討伐に積極的だからね」
「オーケー。ヴォーディガーンだったかァ? じゃあこっちゃアーサー王の立ち位置だなァ」
ジゼルは肯定も否定もすることなく黒騎士を見据える。
視線の先の黒騎士は膝に手を当て立ち上がり、忌々しそうに此方を睨んだ。
「ジェネシス……ジゼルにも及ばぬ男が小癪な……」
「ハッ! こちとら戦う度にジゼルに一泡吹かせてるってんだァ! テメェとは一味違ェんだよ!」
「そうだっけ……そうかも……」
覚えのない虚勢を隣で聞くジゼルの心境や如何に。
第二回イベントの時に空を跳んだのは確かに驚いたが、それだけだったような……まぁいいか。
「キサマが加わったところで結末は変えられん。退け、我が欲するのはジゼルの首のみだ」
「偉そうぶってるやつのお眼鏡に敵わねェのは気に食わねェなァ。テメェをぶっ飛ばせば少しはこっちを見てくれるンかァ?」
「……だろうね。手伝うよ、ジェネシス」
「つーわけだ。ジゼルに勝てるなんてほざいてるんだ。まさか卑怯とは言わねェよなァ?」
子供みたいに元気が有り余っているな。
頼もしい。ちょうど疲れ始めていたところだ。ジェネシスがいるなら大丈夫だろう。
「第二ラウンドの始まりだァ!」
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