人類とAI
「プレイヤー達が……アドラ! どういうこと!?」
「見た通りだ。この場にプレイヤーを集結させた」
「どうして……いや、どうやってそんな!?」
「プレイヤーに対するZDOの影響力は絶大だ。メンテナンス明けにレ・イ・ド・イ・ベ・ン・ト・が・あ・る・なんて嘯うそぶけば、集まらないわけがあるまい?」
余裕する感じられるアドラの言葉。
「プレイヤーは巻き込まないって話だったんじゃ……一羽さんもそう言ってた……」
「ゲーム内デスが現実に響くのであればそうだろうな。だが、ZDO内のシステムは元々アスラの開発した物だ。ハッキングされただけで何も手を加えられていないのであれば、奪還など容易だろうな」
「じゃ……じゃあ、リィアンさんも……?」
「無論、生存している」
暗く沈んでいたジゼルの顔が、一気にパァと明るくなる。
リィアン生存の報告は、重石のようにジゼルの背に乗っていた罪悪感を軽くしたのだ。
「い……生きてる……リィアンさんが……」
「泣くほど嬉しいか。人の命など無限に減り、無限に増えるものだと言うのに」
「その感情はきっと、人間固有の物でしょうからね。無理もありませんよ」
「そういうものか」
エーオースの言葉に納得するアドラ。
一方で、奪ったシステム権限が取り返されていることを知ったヴォーディガーンは苛立ちを隠さないでいた。
「何処までも……何処までも我の邪魔をしようというのだな、アスラ社よ!」
発狂にも近い絶叫。
機械音からは遠く離れた声・が、ヴォーディガーンの喉を震わせていた。
「いいだろう、ならば戦争だ! 貴様ら人間如きが、物理を超越した我らAIに勝てると思うなよ! ちょうどいい、この際だ。我の考案した計画の礎となってもらおうか!」
「なにあの騎士。すごい悪役っぽいこと言ってる」
「つかあの黒騎士の周りにいる兵士っぽいの、モデル/ジゼルじゃねェかァ? 対ジゼルのシミュし放題ってわけだよなァ!?」
「……あまり気乗りはしませんね。実物ではないとはいえ、姿が主様と同じ敵を斬るなど……」
「まぁ所詮はエネミーですから。ジゼルさんっぽいって言ってもほら、あそこに本物のジゼルさんが……」
アヤメを奮い立たせようとユゥリンが指を指した先。
タイミングが良いのか悪いのかジゼルクローンが、嗚咽しそうになるのを必死に堪えるジゼルを襲い掛からんとしていた。
しかしアドラが尾を振るい、ジゼルクローンを吹き飛ばす。
その光景を見てアヤメが一言、
「あの人形をぶっ壊す!」
「うーんチョロい」
怒気を孕んだ声を一喝。
ユゥリンが呆れるように呟いた。
なんにせよ、アヤメがやる気になったのはいいことだ。
怨念やら憤怒やら色々な物を綯ない交まぜにした言葉は重い。覇気のなかった半眼が開き、ギラギラと怪しい光を放ち始める。
「さて、【ギガントレオ】はやる気十分だよ。ジゼルはどうかな? まだイケる?」
「…………」
「理解が追いついてなさそうだね。まぁそれもしょうがないか……」
「イケるよ、カナデ」
言うと同時、ジゼルが立ち上がる。
瞳の色は鮮やかな赤。迷いも戸惑いも、未だ胸の内にある。しかし今この時だけは、機械的なジゼルではなく。
カナデの友達の、『ギガントレオ』のジゼルとして振る舞う。表情を顔面に縫い付けた表情カオではなく、本当のジゼルとして笑っていたい。
「クライマックス、行こうか。ヴォーディガーン」
「……生きるか、死ぬか。此処が存在定義の瀬戸際よ」
三途の川みたいなニュアンスだろうか。
それなら本当にその通りだ。ヴォーディガーンがこの戦いを経て何を成したいのかは知らないが、碌なことではないのだろう。
「最後の正念場だ。此方から行くぞ、ジゼル!」
「臨むところだ、ヴォーディガーンッ!」
互いに剣を利き手に持ち替え、己の闘魂を震わせるように大地を蹴る。
キィンッ! 刹那の間を挟むことすらなく、2人の剣は火花を散らした。
「オレ達も行くゾォ!!」
ジェネシスの号令が掛かる。
プレイヤー達が湧き立つと同時に、役目を取られたカナデは声に上げようとしたやり場のない感情を押し殺して苦笑した。
「……やれやれ。仕方ないんだからさ」
「最強な相方を持つと苦労しますね」
本来ストッパー役であるアヤメですらも脳筋あちら側に回っている。
あの最強共が無茶、無謀をやらかす前に、此方からストップを掛けなければいけないな。
人類vsAI。
世界史でも類を見ない前代未聞の戦争が、ゲームの世界で開戦の狼煙をあげた。
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