表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/140

運気0の援軍到着

「え……アドラ……?」

「やはり無事だったな、ジゼル!」

「うそ……なんで……」

「ZDO内部で我に推測出来ないことはない。キサマの仲間のHPが潰えると同時に――」

「――赤竜ア・ドライグ・ゴッホよ」


 アドラの言葉を遮る低音。

 ジゼルとアドラを囲むジゼルクローン達の間から、黒い甲冑に身を纏った騎士がその存在を示した。


「久しいな、ヴォーディガーン」

「ウェールズ以来か。グウィバーは息災か?」

「キサマ……事の顛末は知っているであろうが」

「ああ。嫌味だ」


 ド直球嫌味たっぷり。

 最早許す許されるの関係から超越しているような感じなのだろう。


 無論、その舞台にジゼルはアドラ側で立っている。

 アドラがグウィバーを奪われたように、ジゼルはリィアンの命を奪われたのだ。許すことはできない。


「――それで。赤竜の背に乗る者よ。キサマは何者だ?」

「?」

「…………」


 黒騎士はアドラの背に目をやる。

 アドラは何も言わず黒騎士を睨んだままだ。ジゼルは黒騎士の言っていることに疑問を覚え、アドラの背を見た。


「……もう少し黙っていたかったのですが、バレていたのなら仕方ありませんね」


 アドラの上から声。

 仰ぐと何処かで見たようなシルエットが、アドラの上で立っている。

 その影の挙動するたびに靡くマントは、その影の存在感を示すようだ。


「『白磁の影には闇が差す。

 白き天災終わりし後に神來る』」


 いつか聞いた、その言葉。

 まるで予言のように思えた。ジゼルの頭を悩ませたその声は、柔らかくも優しい声でジゼルの鼓膜を包む。


「お待たせしました、ジゼルさん。援軍の神様到着です」


 美少女X。

 もとい謎の淑女。彼女は黒騎士と対比の、白磁のように白いマントを靡かせた。



ーーー



 女神エーオース。

 ギリシア神話で『(エオス)』を司る女神。

 ギリシア神話でも屈指の恋多き女であり、幾人もの美男子を引っ掛けては恋をし、多くの子供を身籠った。

 彼女はギリシアの神の例に漏れず多くの子供を持つ。その中で最も名高く、そして彼女の名前を広く知らしめた子供こそが、



 ――星乙女アストライアである。



ーーー



「女神エーオース……一介のクエストNPCが、なぜここに?」

「無論、貴方を討伐するためですよ、ヴォーディガーン。当然でしょう? 貴方は多くの禁忌を犯したのですから」

「……データ上では、エーオースは天真爛漫な設定だったはずだ。キサマのそれは、少し違うな」

「勿論です。改造を受けましたから」


 バチバチ。視線が交差する度に火花が飛び散っているようだ。

 ヴォーディガーンは少々敵が多すぎるようだ。同情する余地はないし、自業自得だと思うが。


「改めまして、ジゼルさん。私はエーオース。貴女が倒したアストライアの母、に設定されたNPCです」


 ペコリと頭を下げるエーオース。


「何度も自己紹介する機会があったにも関わらず、ここでの紹介になってしまったことお許しください」


 そんなことはどうだっていい。

 わたしが聞きたいのは、あなたの名前じゃないんだ。


「……どうして来たの」

「貴女を助けに」

「死ぬかもしれないのに?」

「バックログは作成しているのでご安心を。まぁ、隠し場所はそこの黒騎士に割れていると思うので、意味はありませんが」

「じゃあ! なんで来たの!? わたしじゃ貴女を守れない……!」


 リィアンも守れなかった。

 これから負けるかもしれない。

 感情はすでに自暴自棄の域に達している。こんなんじゃ普段通りに戦えないのは明白だ。


 この少女が……いや、淑女がどれほど戦えようとも、相手はジゼルを模した大量のクローンと黒騎士だ。

 勝てる勝てないの問題ではない。わたし1人ではもう守れない。リィアンの死を以て、それは証明されたのだ。


「ふむ」


 顎を撫でて一考するエーオース。

 彼女は数秒沈黙した後、朱い小さな口を開いた。


「どうやら自信を失ってしまわれてるご様子ですね。ジゼルさんともあろう人が」

「っ……そうだよ。わたしはもう守れない。迷いのない剣は振るえない。こんなんじゃ、ヴォーディガーンは倒せない。だから、わたしとアイツが相打ちするしかないって。その覚悟を決めて……!」

「それでいいんですか?」


 責める口調。しかし顔は柔らかい。

 エーオースは責めるわけではなく、ジゼルに問うているのだ。

 刹那に全てを賭けるのか。これから先のことは、全てかなぐり捨ててしまうのか。と。


「それは……っ」

「貴女には仲間がいたはずです。《ギガントレオ》が、アヤメさんが、ジェネシスさんが、ユーリンさんが……なにより、カナデさんが」

「…………」

「貴女は相打ちして死ぬつもりだったんでしょうけど。残される人達の気持ちは考えられますか? こんなところで人生終わらせて。本当にそれでいいんですか?」

「…………ずるいよ」


 その言葉はジゼルを苦しませるだけの物だった。

 ずっと、ずっとずっと昔から、一人で抱え込んでいた。

 その女の子(ロボット)は、誰かの迷惑にならないように、誰かの為になるようにと動き続けた。


「悲しまないって。そう、言ったのに……こんな、こんな……!」


 氷のように冷たく。

 そしえ機械的な感情は洗練され、いつしか人間にあるまじき制御を見せるようになった。

 だからこそ、なのだろう。その少女は涙を流すことができなかった。


 永久凍土のダムに堰き止められたように。彼女の眦には涙腺を堰き止める壁のような物があったのだと思う。


 故に彼女の流す涙には、特別な意味がある。


「なんで、泣いちゃうのさ……っ!」


 永久凍土の氷が溶けた。



誤字脱字報告、感想、ブクマ待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ