運気0の勇気
「ここが『ギガントレオ』の……」
「はい。『勇士の館』です」
少数精鋭のギルドと言うから、想像していたのはこじんまりとしたログハウス。
アストライアの能力を看破し、その対策として暗殺者を打つける提案をする小細工者が所属するのだから、金銭管理や用途を含めて小さな家を買うのだとばかり思っていた。
しかし案内されたのは、陽光を反射するほど眩い白亜の宮殿。
城というには小さいが、並の家よりは大きな存在感を放つ豪邸だ。
これを見て想像できるのは、白馬の王子様でも住んでいそうな丘の上のキャメロットである。
「うん……なんというか、豪奢ね」
「ですね。カナデとジェネシスの提案なんですよ」
『ギガントレオ』のリーダーと最強戦力の片翼。
他にもサムライ染みたくノ一と、謎が多そうな胡散臭い魔法使いも所属している『ギガントレオ』。
他のギルドよりも圧倒的に数が少ないが、そんじょそこらのギルドと戦争させても圧倒しそうな戦力を持っていると言うのだから空恐ろしい。
「どうぞ中に入ってください。彼女は恐らく中にいますので」
「ええ。そうさせてもらうわ」
リィアンは一つ頷くと、『勇士の館』に招かれ歩を進めた――
「……?」
チリ、と首筋に小さな電流が走ったような気がした。
首を触ってみるが、特に何もない。不自然極まりない無の感触だ。
リィアンは首を傾げながら、しかし所在のない感覚を宙に放った。
ーーー
結論から言うと、目的の彼女はいなかった。
いつもの彼女を知っているわけではない。しかし、それでも自由気ままに動き回ることが出来るのか。
少なくとも彼女がNPCであるなら、こんなことはあり得ない。であれば既存のZDOシステムに組み込まれたNPCでないことは確かだ。
ならば他の可能性。
ウォーディガーンのような外部NPC。
ジゼルやリィアンのようなプレイヤー。
なんらかのバグを起こした内部NPC。
プレイヤーであるなら目的を持って、外部NPCであるならジゼル達『ギガントレオ』の目的阻害を必死にやってくるだろう。バグであるなら――いや、これは運営方法にケチを付けることになる。わたしが言うべき事ではなさそうだ。
なんにせよ、彼女とリィアンさんを会わせることに失敗したわけだが。これからどうしよう。
「……フリダシに戻ったんですけど、どうします?」
「そうねぇ……街に戻るわけにもいかないし……アストライアの迷宮に戻ってみる?」
「あそこですか? ウォーディガーンから連絡があった後に行ってみましたけど、何もなかったですよ?」
それを聞いてリィアンさんは頷いた。
「ええ。事前報告でそれは聞いてるわ。けれど、それは今日じゃなかったからかもしれないでしょう? いくら危険だからとはいえ、ここは所詮ゲームの中。いくらでも世界は弄れるのよ」
妙に納得してしまった。
そういえば、ここがゲームの中だと言うことを忘れかけていた。ゲームに命を賭ける、という意味がわからなかったが、もしかしてこう言うことなのだろうか。
あれ、てことはプロゲーマーの人って、万年デスゲームをプレイしてるってこと? ジェネシスすごい。
「……あれ……」
……と言うことは、ジェネシスよりも劣ってる発言をしたことになる?
一回確認しただけで満足して、もう調べなくてもいいんじゃないかと、わたしは言った。
調査、観察、推理。どのゲームにおいても必須事項であるこの三原則を、わたしは怠りそうになったということ。
…………………。
なんか、それは……
(……すっごい腹立った)
奥歯をギリ、と噛み締める。
単純なことも出来ない。最低限の補償も作れない。ジェネシスに劣る可能性も出てきている。
ジェネシスよりも劣るジゼル。
かつてはそれでも良いと自分を卑下して、世界最強の地位から遠ざかろうとしていたが、今や世界最強の名を背負ってウォーディガーンと戦う身だ。
「どうしたの、ジゼルちゃん?」
「…………」
突然黙ってしまったジゼルにリィアンが問う。
彼女は心底心配そうな声を出した。ウォーディガーンのことを伝えずに、人が死ぬかもしれない状況を作っていたわたしに向けて、だ。
彼女は割り切ることが出来る。悪いことをしたわたしと、共にウォーディガーンと戦うわたしを区別して、わたしのことを心配している。
彼女には責任感がある。事が悪い方向に向かっても、自己責任で償う覚悟だ。
わたしにはそれがない。何事からも逃げて逃げて逃げて。責任から逃げるために誰かの小判鮫になる。そのために己の才力を奮っていた。
不幸体質で身に付けた、失敗から逃げるという常套。故に何事も失敗すると思って責任から逃げ続けてきた。
そりゃあ鳥のフンが落ちてきたり、バナナの皮で転んだり、様々な失敗を重ねてきた。けど、命の危機に晒されるような失敗からは逃げてきた。
それが悪かったのだと思う。
大きな失敗から避けて、100%成功すると思った冒険だけをしてきた。
小さな失敗は何度でも、大きな失敗に耐えられるだけの力を身に付ける。それがわたしの人間形成だ。
だから、これがわたしの――
「……冒険、か」
強いだけの自分とは決別する。
もはやステージは後戻りできないところまで来ている。ならばここは誰かに付いて回るのではなく、後先顧みずに突き進むのが最善。
結末は泥臭くても構わない。
必要なのは勇気一つ。
既にジゼルに迷いはない。
「行きましょう、リィアンさん。状況が変わってるかもしれない」
「え、ええ。行きましょうか」
二人の歩みが再開する。
見知らぬ第三者が彼女達の動向を見ているとも知らずに――
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