運気0の初ボス討伐
「月花! 一緒にゲームやんない!?」
全てはこの言葉から始まった。二人であのゲームを始めたのも、この【ZDO】を始めたのも。この花奏の一言から始まった。
ゲームに興味が無かった月花は、「不幸だな……」とぶつぶつ呟きながら渋々といった感じでゲームハードを購入し、中身が無くなってスッカラカンの財布を見ながら嘆いた。そして花奏が貸してくれた【ショートファイト・コロシアム】と言う対戦格闘ゲームを始めた。
最初のうちは【カナデ】のアカウントでやっていたが、少しずつやっていくうちにのめり込んでいき、自分用のアカウントでプレイするためにパッケージを購入した。
ある日、【ジゼル】という、まだランクの低い剣闘士アバターを作った月花と弓士アバターのカナデは対戦した。そして――
手も足も出せない状態で敗れた。
始めたての初心者に、自分は負けた。その事実があるだけでショックだった。
カナデはゲーマー気質で、ジゼルに負けたその日から、何回も何回も何回も何回でも修練を積んで、ジゼルと再戦した。
しかし何度やっても結果は同じだった。
恐ろしいほどの先読み能力に、固定された動きではない完全なプレイヤースキルから繰り出される剣技の数々、そして到底人の域とは思えない反応速度。
ジゼルは明らかに格が――いや次元が違ったのだ。
「…………デ」
カナデの心が折れたのは、その時が初めてだった。
「……デ…………ナデ」
カナデは当時を思い出して苦笑した。あれは自分と一緒にいて良い存在ではない。それこそ世界レベルの存在なのだ。
「……カナデ!」
意識が覚醒する。
心配そうな顔をしたジゼルが、自分の顔を見て、自分の体を支えている。萎れていた花が再び咲き誇るかのように、安堵と喜びの笑顔を咲かして抱きついてきた。
「カナデ! 良かった……!」
ギュウッと抱きつく腕に力を込めるジゼルは、STR値が低いからか痛くはない。むしろちょうどいい。
「……ジゼル? ……あれ、ここは?」
「ボス部屋だよ。モンスターも湧かないし、カナデを看護するにはちょうど良いかなって」
玉座の方を向く。ボスの姿がない。玉座の前に威風堂々と立ち、自分達を苦戦させていたはずの風使いの王の姿が無くなっていた。HPバーは三つほど残っていた筈だ。
「……ボスは?」
7割の興味と3割の恐怖を抱きながら、恐る恐るカナデはジゼルへ問いかける。
「倒したよ?」
ジゼルは呆気なく言ってのける。まるで当然のことのように。「たった一人でボスを倒した」と。ジゼルの側に錆びた短剣が落ちていた。
見上げると《Congratulations》の横文字が。
ジゼルは、ボスをたった一人で倒してしまったのだろうか。
カナデは恐怖する。ジゼルの圧倒的なバトルセンスに。この娘は確実に生まれてくる時代を、あるいは世界を、その極度の不幸体質で乗り越え、間違えて来たのではないかと。
「……」
「あ、カナデ! 危ないから動かないで! 【ヒール】で数値的には回復させたけど、精神的には弱ってるでしょ! ほら、背中借してあげるから!」
ジゼルは無理やりカナデを背中に乗せる。STR値強化魔法【パワード】で筋力を上げているとはいえ、魔法職の筋力で人を一人を持ち上げるのは困難だった。
「よいせ、よいせ」と最近は聞かない掛け声を上げながら、ジゼルはボス部屋の隅に設置されてあるリスポーンパットへと向かった。
 




