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運気0と天才プログラマー

 時は更に遡り、ヴォーディガーン強襲後。

 【正義の天秤】の光によって陰へと消えたヴォーディガーンとの戦いの後には、その戦いの後処理が待っていた。

 ジゼルがした事は無い。しかしZDO運営からの注意喚起と、この件に関しての説明を受けた。


 その説明の中で理解した事は二つ。

 あのヴォーディガーンはZDO本来のN()P()C()()()()()

 そしてこの件に関しては他言無用で頼む、と。

 簡単に言うとそんな感じの事だろう。


 他にも色々と言っていたが、頭がこんがらがって理解できないけど他に覚える事はあるか、と問うた時に他は大丈夫だからその二つは覚えておいてくれ、と言われた。


 そしてこの場に何故リィアンがいるのか。

 それは今度会った時に説明すると言われた。

 複雑な説明はないけど、この場で話すには状況が適していないのだという。


 一体わたしは何に巻き込まれているんだ……と思いながらZDOをログアウトした。



ーーー



「――それで、新しいハードの調子はどう、月花ちゃん。慣れたかしら?」

「はい。少し感度が良すぎるので調整機能は欲しいですけど」

「そう。流石に早いわね。なら後で10%程引き下げとくから、休憩に入っていいわよ」


 一羽にそう言われ、月花は休憩時間を貰った。

 今調整しているハードは新機種のハード。つまり世に出ていない最新機種という事である。

 月花はそのαテスターに選ばれた。というよりもアスラ社専属のテスターを頼まれたのだ。


 これから月花はアスラ社のテスターを三カ月契約の下働かせてもらう事になっている。

 しかし三カ月の間ずっとゲームを出し続けられる訳ではない。そうなると月花の仕事は無くなってしまう。



 それを名目として、本来の仕事を任された。



 月花の仕事はエレクトロニクスホワイトハッカー。EWHと略される、歴とした仕事である。

 外部から侵入したウイルス……つまり今回のヴォーディガーンのような外部AIやブラックハッカーを内部から討伐する傭兵のような職業だ。


 故に、今度調整したゲームハードは、ただのゲームハードではない。


 月花の脳信号波に合わせて作られた物。

 つまり他の人が使うとなると、かなり難しい、というよりも使うのが無理な代物である世に出す予定のない機種だ。

 アスラ社が月花を雇うための事前準備として従来のハードを改良……いや、月花しか扱えないのだから改悪したものである。


 莉愛さんから言われたが、月花はアスラ社からかなり期待されているらしい。

 高校生を期待している一企業という構図は、当事者からするとなかなか面白い。少し気分が良くなるのは傲慢ではないだろう。



ーーー



 休憩時間を貰って調整室から出て、向かうのは一直線にラウンジだ。

 職員がゆったりと過ごせるようにWi-Fi環境は設備され、ドリンクコーナーやイートイン、漫画や小説等の娯楽も完備されている。


 月花はカフェラテの入った紙コップを持ってテーブルに座る。

 スマホを弄り、時にコップに付けながらゆったりとしていると、前方から男性が1人近付いてくるのがわかった。

 スマホから視線を上げて、上目遣いになりながら確認すると、これまた見たことのある人だった。


「久しぶりっスね……ていうのも変か。初めましてっス、月花さん。自分のこと覚えてます?」

「ああ、はい。えー、っと……」

「広輝っス広輝。山郷広輝やまさとひろきっス」

「……一羽と一緒にいた人!」

「たはは……覚えられ方が雑っスね。まぁでも覚えられてるだけでも良しっス!」


 見事なポジティブシンキングを披露するこの男。

 山郷広輝はアスラ社でも指折りの天才プログラマーである。

 ZDOに於ける脳から運動神経に送られる光信号を機械で読み取る仕組みを学び、それをフルダイブ型VRゲームとして応用したプログラマー達の内の一人だ。


(すごい人なんだけど……なんか影が薄いんだよなぁ)


 持ってきたカルボナーラを美味しそうに咀嚼する広輝を見ながら月花はカフェラテを啜る。


「で、どうっスか? 馴染めそうっスか?」

「まぁ……山郷さんも含めて知り合いはいるので」

「そうっスか。自分が役に立ってるなら嬉しいっス」

「本当にありがたいですよ。なんせ右も左もわからないと困りますから」

「ははは。この業界はかなり専門的ですからね。助けてくれる人がいないと底なし沼に沈んでいってしまうんスよ」

「でしょうねぇ」


 実際、月花がジゼルとしてゲームを始めたばかりの頃は、本当に慣れることが困難だった。

 初めて知る新しい単語や略語。普段よりも軽い身体の動かし方。敵を倒せば簡単に上がる癖に、上がるほど上がりにくくなるレベル。

 今では深く考えなくても出てくる戦略も、始めたての頃は熟考してから行動に移していたのだったか。


 懐かしい。懐かしいが、二度とあの頃には戻りたくない。不幸にも運が絡むゲームを買いすぎた。


「理屈は同じなんだろうなぁ……」

「……? 何がっスか?」

「いえ、なんでもないですよ」


 大した話じゃないしね。

 月花はカップに口を付ける。


「これは自分の経験談なんすけどね、月花さん」

「ふぁい」

「人生ってのは楽しんだもん勝ちっスから。茨の道があっても、そこしか道がないなら喜んで進んだ方がいいっスよ。そうすれば自然と道ってのは出来上がるもんっス」


 山郷さんの声が強張っている。

 見ると鋭い視線を自分の手に向けている。かなり真剣な表情だ。何かあったのだろうか。


「…………」


 ……まぁ、聞く気も興味もないのだが。

 人のタブーに触れる必要は一切ない。だからわたしは無言のまま山郷さんを見た。


「ちょ、無言はやめてほしいっス! めちゃハズイんスから!」

「あ、ああ……ごめんなさい。なんかすごい、らしくないなって思って……」

「会ったの今日が初めてっスよね! もしかして自分、いじられキャラだと思われてます!?」


 まったく! とそっぽを向いてしまった。

 悪いことをしてしまっただろうか。今度何か奢ってあげよう。女子高生が大の男に奢る構図もなかなかだが。


「……あ、時間だ。それじゃあ山郷さん、わたし戻りますね」

「りょーかいっス! 頑張ってくださいね!」

「はい」


 月花は一つ頷くと口にクリームを付けた広輝に背を向けた。



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