運気0の初ボス戦
グゥラは杖を大薙に振るい、クルクルと回転させてから杖を突く。杖がつかれた部分を中心にして、円形に魔法陣が出来上がっていく。
《風の爪よ! 其の者達を八裂きにせよ!》
ジゼルとカナデは横へと回避するものの、放たれた風圧によって二人は吹き飛ばされる。王が杖を振るうと爪で引っ掻いたような痕が床を辿る。大型モンスターによって裂かれたような爪痕が、生々しく残った。
「くっ……! いきなり広範囲攻撃!?」
「カナデ! 無事!?」
「無事! そっちは!?」
「なんとか!」
HPバーは削られなかったものの、足に麻痺のデバフがかかっていて動けない。
「あの風……デバフ付きか!」
《オォォオオオ!》
「……ッ!」
半透明の風が竜の形を模してカナデに襲いかかる。
「――【アースウォール】!」
ジゼルは即座に土の壁を生成して、カナデを護る。壁は砕け散るものの、カナデのHPの減りは半減される。残り6割弱か……
「……ありがとうジゼル!」
「今のうちに回復して! デカイのは私が引きつける! キュアポーションを……あっ」
アイテム欄を探っていたジゼルから、気の抜ける音が発せられた。ジゼルの目に涙目が溜まっていき半泣き状態で……
「キュアポーション、忘れた……」
「バカ! アホ! 不幸体質! これあげるから早く飲んで!」
そう言ってカナデはジゼルに一本の液体入り瓶を投げ渡す。落としかけそうになりながらも、ジゼルはなんとかキュアポーションを一口で飲み込み、麻痺から解放された脚で駆け出す。ジゼル本来のAGIは低いが、AGI強化魔法【スピーダー】を駆使して縦横無尽に駆け回る。
「【ファイアボール】! 【ファイアボール】! 【ファイアボール】!」
《猪口才な!》
駆け回って撹乱してくる上に、チビチビと火球で削ってくるジゼルに怒ったのか、グゥラは杖を持つ手に力を入れる。
《風の刃よ! 其っ首を落とせ!》
杖の先から放たれた鋭い風は回避したものの、何故曲がってかジゼルの背中に当たり、HPの二割を削った。吹き飛ばされたジゼルは壁に激突する。
「わっ……! きゃあああ!?」
「追尾魔法!? ジゼル!」
《させん!》
グゥラは再び杖を大薙ぎに振るい、クルクルと回して杖を突く。
「あれは……?」
《風の爪よ! 其の命を刈り取れィ!》
ジゼルに向かって風の爪が放たれた。無軌道と言う軌道を沿って辿ってくるそれは、壁を背にして横たわるジゼルに当たった。
「ジゼルッ!」
魔法使いのHPは少ない。モロに二発も食らったジゼルが生きている筈がない。
「あ、あぶなぁ……」
当のジゼルはと言えば、爪痕から少し離れた場所で尻餅をついて呆けていた。
「ジゼル! このボスは攻撃する前にモーションがあって――」
「カナデ! そこ危ない!」
「へっ? ガッ……!?」
ジゼルの無事を安心していたカナデへ、王から無慈悲な攻撃が与えられる。倒れていくカナデを見て、ジゼルは頭が真っ白になった。
「カナデーーッッ!!」
カナデの意識は途切れ、目の前は真っ暗となった。
 




