表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/140

『獅子なる巨人達』と正義の女神

 ジゼルが消えた。

 私よりも強いジゼルが、目の前に立つ正義の女神に倒された。敗北した。


「……主人様が、負けた?」


 アヤメの顔は怒りとも恐れとも取れる歪な表情になっている。

 喉奥はカラカラに枯れ、息も絶え絶えになり、綯い交ぜになった感情が沸々と沸騰していくのを感じる。

 それは怒りからか。あるいは寂寥からか。

 どちらにせよ、ジゼルの敗北を直で見てしまったアヤメは、アストライアに対して少なくない恐怖を覚えてしまった。


 勝てるわけがない……と。


「……主人様が……」

「おい、くノ一! 何があったァ!」


 背後の入り口……空間を裂く穴から続々と侵入してくるプレイヤー達。

 その中にはアヤメの仲間である《ギガントレオ》の面々の姿もあった。


 右手切断から復活したカナデは、再生した右手で弓を持ち、心配そうに彩女を見ている。

 浮かぶ球体を侍らせるユゥリンは、指揮棒(タクト)のような杖を握り、誰よりも遅く一歩退き、誰よりも後ろから追ってくる。

 一番戦闘を走って来たジェネシスは、腰を抜かすアヤメの背に自分の腕を壁代わりにして支えてくれた。


「い……ぃや……いやあ……!」

「おィ、落ち着けェ!」


 ジェネシスの怒鳴り声が響いた。

 その声に反応するように、アヤメはビクッと肩を震わせる。


 4人の姿を視認し、ジゼルを看取ったアストライアはようやく顔をあげる。


「不屈の放浪者ノマド、ジェネシス。貴公もいたのか」

「ッたり前だろォ。……テメェ……もしかしてジゼルを殺ったンかァ?」

「…………」


 アストライアは答えない。

 しかしこの沈黙を是と捉えたジェネシスは、修羅の形相でアストライアを睨む。


「なるほどなァ。……おい、ユゥリン」

「はい。【パラライズ】」

「……ッ!」


 制圧魔法【パラライズ】。

 第二回イベントでジゼルがアヤメに使った魔法。指定した相手を『麻痺』にする魔法を、ユゥリンは虚数魔導書庫の内から引き出した。


「……っ」

「睨むんじャねェよ、女神サマ。序盤も序盤の()()()()()ってやつだゼ?」


 ジェネシスの心に怒りはない。

 むしろジゼルという強大な敵が倒されたボスに興味がある。故に獲物を前にした猛禽のように強く、鋭く、アストライアを睨んでいる。


「深呼吸しろ、くノ一。テメェは俺らの()()()なんだ。倒れられたら困る」

「……はい。ありがとうございます」


 すぅはぁ。深呼吸を一つ。

 荒れた鼓動と息が少しだけ治まる。


「おいリーダー。掛け声頼まァ」

「OK。こっちも準備できた。それじゃあ……」


 キリ……と弓に番えた矢を引く。

 カナデの視線はアストライアに突き刺さる。その瞳には曇りはない。かつての惨敗と、親友の敵討ちをするという熱い闘志が宿っている。


 矢に纏う水色の淡い光。

 スキル発動の兆候だ。矢を引くが放つことはせず、周りからの視線が集まり切るのを待つ。


 ユゥリン、ジェネシスは大丈夫。

 アヤメも、ジゼルという絶対的存在が倒されたことで多少気が動転したのだろうが、いまではしっかりと立ち直っている。強い精神力だ。


 ふっ、と静かに笑う。

 さすがジゼルに影響されたプレイヤーだ。自分のことでもないのに、心から嬉しくなってしまった。


 ……さて、気を取り直そう。

 いまは宿敵、アストライアの前。油断することは許されない。でなければ、あの時と同じように即殺されてしまう。


「珍しくジゼルの弔い合戦だ」


 その声に小さく笑い、首肯して応える面々。


 みんなの考えは同じなのだろう。

 相手はジゼルを、そしてかつての自分達を倒した宿敵。私達が相手取るには、やっぱり、このくらい強敵じゃなくちゃね。

 そりゃあ怖い。ジゼルがやられた相手なんだから。けど、もしジゼルよりも良い結果を出して倒せるなら、もしかしたらジゼルを越えられるんじゃないか。


 『ジゼルを超える』。その認識が《ギガントレオ》の奮起を高めるのだ。


 ……ジゼル。やっぱアンタはすごいよ。


 カナデは肺いっぱいに息を吸い――


「みんな、行くよ!」


 応、と叫び声がフィールドに響き渡る。

 《ギガントレオ》とアストライアの、最後の衝突が始まる――!



誤字脱字報告、感想、ブクマ待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ