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悪魔の烙印

 何分……何秒、経ったのだろうか。


 仰向けに倒れ伏すジゼルは腕を付いて起き上がる。

 しかし腕に力が入らない。ステータスを確認する。ステータス欄には『麻痺』があった。


「……ぐッ……」


 『正義の天秤』の効果だろうか。あるいはなんらかの干渉による副次効果だろうか。

 どちらにせよ、『正義の天秤』を生き残った。なによりも先に、このことに驚愕した。


 HPは半分を切っている。七割は持っていかれた。

 一撃で七割だ。前回は全て持って行かれたが、どうやら威力の減衰が行われたのだろうか。


 それとも前回が負けイベントだったか。

 此方の方が現実性高そうだし、本番である今は前回の負けイベントよりも大幅に弱体化されているのだろう。


「ふぅ〜……」


 倒れるジゼルの頭上に立つ迷宮の主を見上げるように、ジゼルは上目でアストライアを睨む。

 息を吸い込み、そして吐き出す。


「……遂に、ヒトは我が神殿にまで足を伸ばすようになったのか」


 迷宮内に凛とした声が響く。

 アストライアの声だ。その声は機械的でも、神秘的でもない。しかし鳥肌が立つのを感じる凄みがある。

 そして威圧感がある。思わず二度見して目を見開いてしまうほどの何かがある。


 目は虚で曇っている。

 顔は暗くてよく見えない。

 醸し出される雰囲気は鬱そのもの。


 マイナス要素しかない女神は、それでも圧倒的な威圧感を持ってダンジョンに降臨し、倒れ伏すプレイヤー達を誰よりも高い位置から見下ろした。


「神の領域に入るとは……やはり無礼な生き物。上を見て主の顔を確認することも出来ないの?」


 続けて出る人間への非難。

 怖いほどに冷たい視線。恐いほどに傲慢な言葉。

 カナデから教えてもらった、最後まで人間を信じ続けた女神とは打って変わった


「大方、知的好奇心に唆られてやって来たのだろうが…………む?」


 その瞬間、ジゼルの背筋が凍る。

 絶対零度なんて生易しい。氷点下よりも寒々しい、沸騰したお湯も凍る冷徹な視線。


「不撓の放浪者ノマド……ジゼル。此処に、足を踏み入れたか」

「……覚えられてるのか」


 あの森での一幕。確かにジゼルの剣はアストライアに届いた。

 機械風に言うならば、ジゼル達と出会った時の記録を今も保持しているのだろう。

 不撓のノマド……という言葉の意味はよくわからないが。きっとアストライア独自の呼び名か何かだろう。


「久しぶり……やっと会えたよ。あの時のこと、覚えられてたら嬉しいな」

「……忘れない。貴方達は我が最大の障壁にして、最後の希望。忘れるわけには、いかない」


 ……言葉の意味は理解出来ないけれど。

 アストライアがわたしを……わたし達(ギガントレオ)を意識しているのはわかった。

 そして、そこらのプレイヤーみたいに足蹴にするのではなく、きちんと敵認定していることも。


 どうやら最初から、わたしは本気で行かなければならないようだ。


 身体は痺れ、思うように動かない。

 巨人を倒した後で、少し疲労感が出てきている。

 対等に戦えるかなんて分からない……けれど。


「来れ、人類最後の希望。貴方の行く末が善き物であるか、我が手中の秤にて裁定しよう」


 その言葉に呼応するように、ジゼルの身体が動き始める。

 与えられたバッドステータスを乗り越えて、

 腕を床に突きながら這いつくばって、

 ジゼルはかつてないほど赤くしながら、己を鼓舞する遠吠えのように吠える。


「本気上等。覚悟しろよ、アストライアァ!」

「…………」


 ゴォォ、と風に揺らされる窓のような音。

 認識できる限りギリシア建築がなくなっていき、視界に映る風景が切り替わる。


 ポーン、と鳴って透明なウィンドウが開かれる。

 そこには一通の依頼。きっとこの戦いの、いや、彼女と対峙するプレイヤーが彼女と戦う意味。




 《UQ(ユニーククエスト)『悪魔の烙印』発生》

 失意の女神『Astraea』を倒せ。


 この戦闘中、状況異常『秤の上』が発生します。

 ・『秤の上』発生中、アストライアから受ける攻撃の威力が二倍になります。

 ・『秤の上』発生中、プレイヤーの攻撃力が50%低下します。

 ・『秤の上』はアストライアから離れると無くなりますが、代わりに『麻痺』が発生します。



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