運気0の水瓶攻略《3》
壁に刺さる松明には青い炎が灯っている。チョロチョロと小さな音を立てて流れる水の上流を目指し、コツコツと簡素な音を立てて二人の女冒険者は進む。
一人はボロボロのローブに身を包み、砂金のように細やかな金髪を青く染めて、翠玉のように綺麗な緑色の瞳で周りを警戒する女剣士。
もう一人も同じボロボロのローブに身を包み、白金のようにきめ細やかな長い白髪をフードの下に隠し、怯えたような金眼で目の前を見据える魔法使い。
二人が進む先にはあるのは、縁に様々な細工が施された黒い門。プレイヤー達の間では『ボスポータル』と呼ばれている、強制転移装置だ。
これを開いた瞬間、開いたプレイヤーとその周りにいるプレイヤー達がボス部屋へと強制転移させられる仕組みになっている。
「……よし、ジゼル。準備はいい?」
「もちろんだよ!」
「行っくよぉ……お、重っ……」
STR値補正を受けているカナデの筋力によって押されて、ギィイイ……と耳障りな音を立て開く門。中にあるのは真っ黒な闇。何もない空洞だった。
青いポリゴンが、ジゼルとカナデの体を包んでいく。
「うわあ!」
次の瞬間、シャッターが切られるような眩い光とともに、体が浮くのがわかった。
ジゼルは閉じた目を再び開くと、目の前には巨大な玉座に座った、漆黒のマントを羽織っている巨大な首無し。左手に王冠を持ち、右手に杖を持った佇まいは、騎士というよりかは王のように見える。
《よくぞここまで辿り着いた、ノルドの者共よ》
「……ノルド?」
「この世界では、プレイヤー達は『ノルド』って呼ばれてるの。ノルド自体の意味は『放浪者』ね。詳しい話は後で」
カナデはそう言うと、前を向く。
《ここへ客人がやって来るのは何時振りか。目的は何だ? 金か? 名誉か? 栄光か? ……いいや。そんなことはどうでもいい。ここへと赴く者達の目的は一つに限られているのだからな》
水瓶座のボスは玉座から立ち上がって、立てかけてあった大きな杖を右手に取る。巨大な杖を横に一薙ぎして、王は口上を述べる。
《ならば為すべきことは一つのみ。我が名はグゥラ! 宝瓶宮の主にして神色自若の不動の王! 貴様らが我を動かせる逸材か、我が直々に見定めてやろう!》
他のモンスターとは違う、四本のHPバーを頭上に浮かべ、グゥラは王の威厳を示した。
「行くよジゼル!」
「りょーかい!」
カナデは走り出し、ジゼルは魔導書を構える。
ZDOで初のボス戦の火蓋が切られた――!




