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魔法に支配された世界で~The name of magic~  作者: かんのやはこ
第一章カフェ・レコロ
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カフェ・レコロ

 ミーティングが終わり、少しだけ家で休息を取った後に、午前四時に駅前集合という予定だ。

 それまで涼斗は、足りない睡眠時間を継ぎ足す。


 家に帰り涼斗は誰もいない家にただいまを言った。

 マンションの四階に住む涼斗の部屋には、物がほとんど置かれていない。

 人が隠れられるような物は置かない為だ。その為、涼斗の家にはベッドすらない。


 そんな殺風景な部屋に入り、涼斗は制服から私服へと着替え、床に敷いてあった布団に潜り、眠りに着いた。

 夢は見ずに、ただ機械的に寝る。こうして体力が持つように、いつも少しの空き時間も惜しんでいるのだ。


 アラームによって起された時刻は、午前三時四十分

 駅までは十五分で行ける。

 涼斗は布団から出るとすぐに駅を目指し、そこで待っていた前田と合流した。彼は全身黒ずくめの衣装をしていた。いかにもスパイだ。


「こんばんは。店長はいないんですか?」

「ああ。それが、杉本のやつ帰ってこなかったんだ。店の鍵は閉めたが、どこにいるのだろうか……」

「もしかしたらこの中にいるかもしれないですね。急ぎましょう」

「待て」


 焦りだす涼斗を止めるのは、大人である前田の仕事だった。


「杉本を信じろ。あいつはプロだ。簡単に死ぬ奴ではない」

「そうですね…………ところで前田さん、なんとなくカフェでは聞かなかったのですが、どちらの作戦で乗り込みますか?」

「なんとなくということなら、おおよその予想はできるということだね?」


 涼斗の含みを入れた質問に、前田はやはり敏感に反応を示した。

 その為、涼斗は額を押さえたい気持ちを静めながら、返事をする。きっとただの馬鹿げた質問ではなく、涼斗の気分を解すため前田の気づかいなのだろうと、強く自分に言い聞かせた。


「はい。最近、前田さんの考えていることが、少しだけ分かるようになってきました」

「そうか。成長したな、涼斗君。察しの通り、廃墟から飛び移るぞ」

「やっぱりですか。一応理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「理由は簡単……カッコいいからだ」

「ああーあ……」


 いつも通りだが、いまいち慣れることのできない前田リズムに、涼斗は今日も呆れていた。

 前田の性格は、少しナルシストに近いものなのだ。涼斗がそのことに気が付いたのは、ここ数日間、頻繁に仕事を共にしたからであった。

 毎度毎度、かっこよさを優先しているものなので、涼斗もすぐに気づくことができた。


 そんな会話を、小規模基地の隣、殺風景な廃墟の中で二人は繰り広げていた。

 廃墟には瓦礫の一つも落ちておらず、窓ガラスは取り外されている為、飛び移ることは容易であった。

 準備は万端。会話が途切れると同時に、二人は気持ちを改めて隣の汚れた小ビルを睨んだ。


 月光に照らされる二人は合図をし、同時に隣のみすぼらしい小ビルの屋上へと、飛び移った。

 華麗に着地をした後は、屋上から室内へとつながる階段を利用し、決して物音を立てずに建物内へと侵入した。


 基地にいる敵を、一人残らずノックダウンして、クリアリングを進める。

 それから二人は、他に人がいないことを確認し、難なく資料が置いてある小部屋へとあり付く。ここで涼斗が初めて声を出した。


「おかしいですね。人が少ない上に、なんだか奴らは落ち着きが無さそうでした」

「ああそうだな。それにいつも以上に罠が少ない」

「はい。重要な資料も置いてない感じですし、ここはダミーかもしれません……」

「いや。その可能性は極めて低いと思う。何せ、杉本と一緒に探り当てた場所だ。ダミーではないはずだ」


 憶測だが、と付け加える前田は、涼斗との会話を終えた途端に、姿勢を低くし、鋭い視線で周囲を見渡す。

 その姿勢は、彼の経験と勘が危険を察知した時の、警戒をあらわにしたときのものであった。

 一瞬の間に形成された、緊張が走る重い沈黙。


 しかし前田が態度を豹変させた刹那、前田の背後から低い声が聞こえ、同時に前田の眉間に、黒い小型の銃器が付きつけられた。


「誰だ?」


 そう前田が問うと、謎の男は黒いマスクを外した。

 涼斗は黒い男に銃口を向けて、威嚇をしていたが、その必要もすぐになくなった。


「撃つんじゃねえぞ。俺だ」


 前田の背後、先程まで銃器を手にしていた男は、次の瞬間には武器を捨てて手を上げた。

 そして徐にマスクを外すと、そこには涼斗と前田の仲間、レコロの店長である杉本の顔があった。


「なんのマネだ、杉本」

「ちと試しただけだ。それにしても背後を警戒しないとは、とんだ間抜け者だな、前田」

「年だから仕方ないだろ」

「年なんて関係ねえ。死んでしまえばそこまでだ。今後は気をつけろよ」


 相変わらずクレイジーで、人を試すことが好きな杉本は、黒光りする瞳をキッと前田と涼斗へと向けた。

 その視線によって、前田も自らの未熟さを自覚した。


「ああそうだな……ところでその資料はなんだ?」

「ああこれか。この部屋にいた奴が急に逃げ出したせいで、俺は港まで追う羽目になっちまったわけだ」

「それよりも店長、その怪我はなんですか?」

「これはまあ、撃たれただけだ。気にすんな」


 にんまりと笑い誤魔化す杉本に、前田は溜め息をつく。


「はあ……で、なんで一人で突っ込んだ? 何もそんなに焦る必要はないだろ?」

「ああ。実は買い出しに行ったときに、中学生くらいの不良共がそこの廃墟に入ってなあ。それでそいつらを連れ出そうとしたら、案の定そこにいた研究所の奴らに見られたわけだ。そしてそのままの流れで基地に乗り込んだ。警戒されて警備が固められても困るからな」


 このように、店長の杉本は誰よりも人の命を大切にし、平和を求める男だ。

 職業的には矛盾した信念だったが、それでもこの年齢まで生き抜き、何人もの命を救い、時には奪った。

 そんな杉本を尊敬している涼斗は、杉本の腹部の傷から視線が離れなかった。


「それにしてもなぜこんな時間まで仕事をしていだんですか?」

「質問の多い奴らだな」

「すいません。ですが1人でアジトに突撃するのは見過ごせません」

「心配してくれなくても大丈夫だ。その不良共を病院まで送ってから港に行って、そこにあった、奴らの船とかコンテナを調べていたらこんな時間になっただけだ」


 そんな発言に、二人は驚きもしなかった。

 結局杉本は資料を調べて考え事をしている内に、周りの事が目に入らなくなったらしい。


「資料散策にこれだけの時間を要するお前も、とんだ間抜け者だ」

「わっとる。わっとる」


 後頭部をばつが悪そうにかき乱す杉本は、分かっていると砕けた調子で言っていた。

 そんな杉本の返事に、前田も慣れているのか、あまり気にしている様子もなかった。


 それにしても、これだけ時間をかけて杉本はどんな資料を見つけ出したのだろうか。

 それは涼斗が問うまでもなく、説明が始まった。


「さてこの資料だが、何だと思う?」

「敵の計画とかか?」

「いいや違う。年は16歳。桜坂学園に通う二年男子。学年十五位にしてプライベートは不明。これだーれだ?」

「俺……ですか?」


 まさしく涼斗のデータが載った資料であった。

 杉本は驚きもせずにその詳細を明らかにする。


「実はこの資料は市民のデータを全て記録したものだ。ちなみにどうでもいいデータは全部海に捨てた」

「もしかしてその中には店長や前田さんのデータも?」

「ああそうだ」


 敵に手の内が知られているという事実。

 それだけでも彼らの間では、鳥肌が立った。


「まずいな。どこまで知られていたんだ?」

「ここにあった資料には、まだカフェ・レコロとしての職業と、偽物の家の住所だけだ。ただ油断はできない。これからはプライベートでも気をつけろ」

「ああ。そうだな」

「はい。わかりました」

「ただ、悪いニュースだけじゃない。グッドニュースも掴んできたぜ」


 そう言って、歯をギラつかせる杉本は、資料片手に涼斗に向かって親指を立てた。

 そんな杉本の態度に、涼斗はハッとして興味を示した。


「それはもしかして……」

「ああそうだ。桜坂学園二年五組、奏多日菜乃。部活は今年の二月に退部。住所も載ってるぞ。いつでも家に行けるわけだ。で、どうする涼斗?」


 今までずっと探していたもう一人の生存者。

 その所在を知り、涼斗は笑みを浮かべる。悪だくみをする子供のような、好奇心と自信に満ち溢れた笑みであった。


「決まってます。早速、学校で接近して連れてきます」


 そう言い、涼斗は長年探し求めていた大切な仲間を、必ず仲間にすると誓った。

 最後の「決まってます。明日接近して連れてきます」の明日は、実質今日ということになりますね。

午前3時頃の段階で言ったことなので明日ではなく今日ですね。


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