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魔法に支配された世界で~The name of magic~  作者: かんのやはこ
第一章カフェ・レコロ
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夜間警備

「ぐ……う……ハッ! ここは?」


 温かい毛布に包まれて目を覚ました涼斗は、見慣れない天井に動揺する。それと同時に激しい頭痛を感じ、涼斗はまたしても布団の中に潜り込んだ。


 どうしてこんな事になったのか、涼斗は昨晩の記憶を遡った。

 任務の後、前田と日菜乃とも別れた後、涼斗は病院付近にて警備を行っていた。怪我人の前田に危険が及ばないようにだ。しかしどうやら途中で眠ってしまったらしく、あまり記憶がない。

 おそらく涼斗が眠っていた間に、誰かがここへ連れてきたのであろう。


 それにしても見覚えのない、綺麗で可愛らしい内装に、涼斗は少しばかり部屋の主の予想が着いた。

 それから頭痛を我慢して起き上がり、涼斗は部屋を出て家主を探した。


 部屋を出た途端、そこには涼斗の見覚えのある景色が広がっていた。

 クリスマスで日菜乃と共に過ごした部屋であった。そして中央の机の上には涼斗の教材も置かれていた。

 どうやら家主は日菜乃で間違いないらしい。


 それにしても先程から日菜乃の姿が見えないのだが、一体どうやってここへと連れてきたのか、そして助けてくれたのであろう日菜乃に、お礼を言う為にも探した。

 幾つもの部屋を手当たり次第にあけ放ち、その作業を繰り返していく内に、涼斗はすぐに日菜乃を見つけるのであった。未だに眠っている、日菜乃を。


 しかし日菜乃が寝ている環境は、床に薄い布を敷いて毛布をかぶるだけという、いかにも寒そうなものであった。

 その為、涼斗はすぐにでもベッドへと日菜乃を移そうとしたが、あまりにも無防備な日菜乃を見て、瞬時に躊躇うのであった。


(このまま放置するのは悪いが、かといってベッドまで連れて行くのもなあ……起きたらきっと身体を触られた事に気付くだろうし、それは嫌がるだろうしな……だからといって放っておくのもいかがなものかと……)


 だとすれば涼斗に残された選択肢は一つであった。ただ単に日菜乃を起こし、その後は本人に任せる。

 それが涼斗に残されたたった一つの道であった。


「起きろ日菜乃。そんな所じゃ体が冷えるだろ」

「うーん……それじゃあベッドに……連れてって」


 ところが日菜乃はわがままをいった。本人の意思に判断を任せるつもりではあったが、これには従えない。涼斗が運ぶ最中に、目を覚まされでもしたら涼斗にとっては言い訳に困る。

 そんな事態は急けねばと、辛抱強く日菜乃を起こし続けた。


「日菜乃、俺だ。涼斗だ。男の俺が、どうやって日菜乃を運べと云うんだ」

「ううん……お母さん……抱っこ」

「それは……」


 どうやら激務の連続で、日菜乃は相当疲れているのであろう。未だ寝ぼけて可笑しなことを言っている。そんな意識が朧げな日菜乃に、涼斗は変な気を起こしそうになった。いっそ日菜乃のお気に召すまま、抱っこしようかとすら思えた。

 しかしそれは踏み止まり、涼斗は溜め息をついて日菜乃の肩に触れた。


「しっかりしろ。寝るのは良いが、ここじゃ体が冷える。それに日菜乃はただの仲間じゃないんだ。女の子なんだから、警戒くらいはしてくれ。それに俺だって日菜乃のことが……いや、よそう」


 まだ頭が覚醒しない日菜乃を起こす為に、涼斗は肩を揺さぶり続けた。揺さぶるついでに言い訳を並べて、日菜乃の覚醒を待った。

 そんな涼斗の期待に応えてか、日菜乃は目を擦りながらも、目を覚ました。


 しかしその直後に腕を摩って、寒そうな仕草をした。なので涼斗は日菜乃の手を引いて、リビングへと連れ出してお茶でも出そうと思ったが、対する日菜乃はその場にキョトンとして座っていた。


「涼斗……くん……? なんでここに?」

「それは俺が聞きたい」

「そうだね……そういえば、そうだった。それと私、変なこと言ってなかった?」

「それは……大丈夫だ。何も言っていなかったぞ」

「良かった……」


 日菜乃が目覚めたので、涼斗はすぐにリビングへと出た。リビングには日菜乃が気を利かしてか、暖房が一晩中つけられており、気温が高くなっていた。だから一刻も早く日菜乃を身体を温めなければと思ったのだ。

 そんな日菜乃だが、先刻の行動を気にしていたが、涼斗は知らぬ存ぜぬを通しきった。すると日菜乃は安心したように頬を緩め、笑顔になった。それは些か罪悪感を感じる笑顔であった。


 温かい部屋に出ると、日菜乃も先程よりはマシな状態になり、涼斗と一緒に朝ごはんの支度をした。

 それはレコロでバイトをする時のような、ありふれた日常で涼斗は落ち着いた。しかしなぜだろうか。落ち着くだけではなく、涼斗は違和感も感じた。


 普段ならば感じていなかったであろう感覚、なんだか日菜乃との距離間がやけに気になり、少しソワソワした。しかし近くにいても、嫌な気分はちっとも感じない。そんな事が気になって、涼斗は目の前の作業がおぼつかなかった。


 そんなどこか落ち着くようで、落ち着かない涼斗を余所に、日菜乃はどこか嬉しそうな顔で作業を進めていた。


「なあ……どうして俺は日菜乃の家にいるんだ?」


 涼斗は自身のソワソワした気持ちを隠すように、日菜乃へと素朴な疑問を投げかける。すると日菜乃はテキパキと作業をこなしながら、やおらと涼斗の質問に答えた。

 そんな姿はさながら妻のようであった。


「涼斗君が駐車場で寝てたから、私の家まで運んだの」

「恥ずかしいとこを見られたな……それにしてもなんで俺が駐車場にいる事が、分かっていたんだ?」


 涼斗はあらかじめ日菜乃を家に帰し、独りで警備をしていたはずだ。それなのに日菜乃は涼斗の存在に気付いてた。その事が不思議でならなかったのだ。

 すると日菜乃は少しムスッとして、咎めるような目で涼斗を見ていた。


「だって、涼斗君なら前田さんのことを心配して、病院に残るだろうなって思ったから。だから涼斗君に気付かれないようにずっと蔭から見てたんだよ」

「……そうだったのか」


 どうやら涼斗は日菜乃に心配されていたらしい。

 そして考えがすべて見透かされてしまい、涼斗が無茶をしようとしていることさえ、分かっていたみたいだ。

 それを知った涼斗は恥ずかしさで俯き、同時に日菜乃に迷惑を掛けたと思い、自らの行動を反省した。


 それから日菜乃は手を休め、少し疲れたているような声で、涼斗に言葉を送った。


「でもね、涼斗君。私は涼斗君やレコロの人達が助けを求めたら、絶対に協力するんだからね。だから私は涼斗君をここまで連れてきたし、その後も前田さんの安全を確認し続けた」

「……すまない」


 涼斗が眠り、日菜乃に保護された後も、日菜乃は警備を続けていたらしかった。日菜乃も前田のことが心配でいてもたってもいられなかったのだろう。


 そう考えると、涼斗は今度からはしっかり日菜乃を頼りにしようと思った。

 もう日菜乃は指導するだけの、新人ではないのだ。しっかり涼斗の背中を守り、自身の信念を貫けるレコロの仲間なのだ。


「わかった。今度からは絶対に無茶はしない。それに助けが必要な時は日菜乃や、店長たちを頼る。約束だ」

「うん! それじゃあ約束を破ったら私の云う事を一つ聞いてよね」

「分かったよ……破らないように気を付けるよ」


 日菜乃が条件提示をして涼斗の動きを制約した。

 日菜乃の小悪魔的な笑みに、涼斗は渋々といった様子で日菜乃と約束を結んだ。結んだというよりかは、結ばされたと云ったほうが適切である。

 対する日菜乃は、涼斗の承諾する声を聞いて、安心するように微笑んでいた。


 少々やり方は強引であったが、これも日菜乃からの気づかいなのだろうと思い、涼斗は日菜乃を見直した。

 少し前までは涼斗が日菜乃のことを見定め、本当にレコロに必要な人材かを分析していた。しかし今では日菜乃も自立し、涼斗の背中を守るに足る存在となっていた。


 そんな事に気が付くと、涼斗としても油断はしていられないなと、日菜乃を一ライバルのような存在に捉えた。そうするとレコロの先輩である意地が、「日菜乃には絶対に負けるな」と訴えかけてくる。そんな新たなモチベーションを、涼斗は素直に喜ぶのであった。


「ごちそうさまでした。なあ日菜乃、俺はこれから前田さんのお見舞いに行きたいのだが、一緒に来るか?」

「うん。それじゃあ今すぐ行こう」


 朝食を食べ終わった2人は、それからすぐに病院へと向かった。そこで入院している前田のお見舞いに行くのだ。

 きっと誰もいない病室で、前田も暇を持て余しているであろう。誰かが遊びに行かなければ、前田は暇さで死んでしまう。前田とはそんな男なのだ。


 それが終われば次は杉本の家庭訪問をしなければならない。クロッカスと杉本を放っておくわけにはいかないのだ。

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