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魔法に支配された世界で~The name of magic~  作者: かんのやはこ
第一章カフェ・レコロ
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クリスマスの午後

 あれから日菜乃は、再びレコロに顔を出すようになり、以前のように活動を行っていた。杉本と前田にも挨拶をし、前田とクロッカス、そして田中は日菜乃を歓迎した。


 しかし杉本は「中途半端な思いでいるならば、いないほうがましだ」と云って、日菜乃を叱った。それでも日菜乃が挫けることはなかった。

 杉本に叱咤されようが、日菜乃は自分の意見をはっきり伝え、杉本が満足するまで、強い意志を見せ続けた。日菜乃の根気強さもあり、半信半疑ながらも、杉本は日菜乃を受け入れた。

 それから日菜乃も無事に合流し、レコロ一同は新たなスタートを切るのであった。


 そして時はクリスマスのことであった。涼斗は約束通り日菜乃の家に居た。前回の掃除の成果もあり、綺麗になった部屋の中で、涼斗は日菜乃と一緒に勉強をしていた。日菜乃はあまり乗り気ではなかったが。


「ところで涼斗君、私たちは店長たちに付いて行く必要はなかったのかな?」

「大丈夫だ。あの2人で行く方が、楽な時だってあるんだ」

「そうなんだ……」


 ここ数日間は、前田も杉本もテレビ局の調査を行っており、レコロを不在にしていたのだ。その間は、クロッカスと田中と共に、営業をした。


 その為、2人だけで任務に行くのは、心配でたまらなかった。それは日菜乃以外の人間も、同様のことを思っていた。


 それに日菜乃には、前回の件も相まって、出来れば2人の力になりたいと思っていた。しかし当の2人が拒絶するのならば、日菜乃は嫌でも留守番をするしかなかった。それは一度失敗した日菜乃にとっては、とても気掛かりになる要素であった。


 しかし涼斗はそんな日菜乃の悲しむ姿を見て、口端を吊り上げてみせた。


「そんなに悲しむ必要はない。俺たちが足手まといになるとか、そういうことではないからな」

「それじゃあ何で……」

「それはだな……俺たちには任せられない仕事、正確に云うと前田さんや店長が、俺たちには任せたくはないと思っている仕事だからだ。あの2人は調査の為に、尋問をしているんだ。その過程で、相手から酷い言葉を掛けられる。そんな仕事を、俺たちにはこなせないだろ?」

「そうだね……」


 エキスパートの2人の仕事内容を告げる涼斗は、実は過去に日菜乃と同じように、2人の力になりたいと思っていたのだ。

 しかし2人からその真実を教えられ、涼斗は諦めざるをえなかったのだ。

 日菜乃に事実を教える際も、涼斗の表情は険しいものであった。


 そして日菜乃も涼斗と同様、険しい表情で自身の実力不足と、2人の苦労を受け止めていた。それは若い2人にとっては、頭を掻きまわされるような思いであった。


「とりあえず店長と前田さんのことは置いておこう。あの2人ならきっと大丈夫だ」

「そうだね……私たちが気にしたところで、状況は良くならない。今はあの2人の無事を祈るだけだね」

「そうだな。店長と前田さんの無事を……」


 それから涼斗は俯きがちに、不安の色を見せた。なので日菜乃は、涼斗を気遣ってホットコーヒーを作った。そしてコーヒーを涼斗にそっと差し出すと、涼斗は一息ついて落ち着いた様子になった。


 涼斗の憂いが消え、安堵する日菜乃は再び手元の問題集へと視線を落とした。それから涼斗と日菜乃は勉強を再開し、数時間が経過した。

 日菜乃が涼斗に質問をし、涼斗がそれらに答えて勉強は進められた。


 順調に問題を解いていき、涼斗と日菜乃は学校からの課題を、一通り片付けてしまった。それから勉強に飽き飽きしていた日菜乃は、涼斗へと外へ出かけようと、遊びに誘った。日菜乃の提案を涼斗は快く受け入れ、2人は都内へと羽を伸ばすのであった。


「今日はどこに行くんだ?」


 日菜乃に連れられるがままになって、涼斗は電車へと乗せられるのであった。その電車の中で、涼斗はふと気になっていたことを、日菜乃に問い掛けた。


 すると日菜乃は無邪気な笑みを浮かべて、自身の考えるプランを披露する。


「今日は晩ご飯の材料を、涼斗君と一緒に選ぶつもり。それで帰る頃には、多分ちょうどいい時間になっていると思うから、帰ったらすぐに晩ご飯の支度をする予定でいるよ」

「そうか。それじゃあスーパーに行くのか?」


 涼斗がそう問いかけると、日菜乃は笑って首を振っていた。どうやら日菜乃との意識のズレから生じる、考えの差異なのであろう。


 つまり涼斗はただ買い物に出掛けている気でいるが、一方で日菜乃は軽い遊び気分で外出しているのだ。そんな考えの違いから、涼斗も少し変わった発言をしてしまったわけだ。


「いいや。今日は折角だからモールに行こうと思うの。それで材料を買う前に、少しだけお茶しよう」

「そうか。それじゃあカフェにでも行くか?」

「うん」


 会話のズレもなくなり、日菜乃と涼斗の意見も一致し、彼ら2人は無事にショッピングモールへと到着した。

 そしてカフェへと向かって、2人肩を並べて歩いた。その際に、涼斗はただ今晩の食材を頭の中で整理し、日菜乃はデート気分で涼斗の隣を歩いていた。


 それから2人は何事もなく、オシャレなカフェへと到着した。その見た目は、レコロと比較して新しく綺麗なものであった。

 そんな内装を見て、涼斗は本気でレコロの改装を検討した。涼斗は本気でレコロの不況を気にしていたのだ。


 それから涼斗と日菜乃は、各自コーヒーやらカフェオレやらを注文して、店内でくつろいだ。


「今度はテレビ局に行くことになっているが、大丈夫か?」

「うん。準備万端だよ」

「良かった。それにしてもここ数日間、クロッカスが仕事に付いて行きたいと云っているんだ」


 涼斗は日菜乃の調子を覗った後に、自身の最近の悩みを打ち明けた。その内容には、日菜乃も悩まざるをえないものであった。

 

 先日、涼斗と杉本たちで打ち合わせを行っていた時の事であった。

 彼らの会話を聞いていたクロッカスは、遠慮がちに近寄って、自分も任務に行きたいと、そう申し出たのであった。

 その時には当然、杉本は怒鳴った。子供を任務に連れて行くわけにはいかないと。

 しかしクロッカスは杉本の説教に屈することなく、寧ろ反抗的な態度を取っていた。その為、ここ数日間はクロッカスと杉本は、親子喧嘩をしているような状態であった。


 しかしクロッカスが、任務に行きたいといっているのは、それだけの覚悟があり、杉本たちの役に立ちたいと思っているからであろう。故にクロッカスを説得するのは難しいだろうと、涼斗たちは感じていたのであった。


「そこで、日菜乃にクロッカスを説得してもらおうって、わけだ。できそうか?」


 クロッカスの扱い方を心得ており、歳も近く性別も同じ日菜乃なら、頑固なクロッカスも説得可能だろうと考えたのだ。そして思惑通り、涼斗の頼みを、日菜乃は素直に応じた。

 日菜乃はクロッカスを放っておけないのだ。涼斗は日菜乃の協力的な態度に、笑顔で応じた。


 しかし涼斗は直後に、背後に嫌な気配がある事に気が付いた。とても黒く、今すぐにでも呑み込まれてしまいそうなほどの、闇であった。

 そんな背筋に触る嫌な予感に反応し、涼斗は背後を見た。そこにはスーツの上にコートを羽織った、いかにも怪しい、マフィアのような大男が立っていた。


 その男が放つ禍々しいオーラに、涼斗は強い嫌悪感を覚え、鋭い視線で睨んだ。

 そんな視線を受けて、大男はニヤリと笑い、涼斗の肩へと手を掛けた。


「クロッカス……その名を口にしたな? 迂闊だったな。ふははははは……まあいい。いつかそちらに迎えの者を送るつもりだ。その時まで待っておくことだな」

「そうですか。好きにしてください。ただしお前達には、後悔が必須です。今の内に覚悟のほうをお願いします」


 怪しげな男が、涼斗と日菜乃の会話を基に、嫌な発言をした。挑発するような、涼斗の失態を指摘するような、負の感情を含んだ物言いであった。

 そのことに涼斗は、腹を立てたように鋭い目つきで睨んだ。威嚇をして、相手の行動を制限したかったのだ。

 しかしその男は逆に笑い、涼斗を面白がっていた。


「ふふふ……そうか。その忠告、身に沁み込ませておこう。それと、今頃あの2人はどうなっているかな? 確か名前は、前田と杉本だったな。昔、共に仕事をしたことがあるから、知っているぞ」

「……店長たちに何を……」

「それは自分の目で確かめるがよい」

「……!!」


 男から意味深な言葉が発せられた。前田と杉本の身に危険が迫っている。或いはもう手遅れか。

 どちらにせよ、涼斗の逆鱗に触れるには十分すぎる情報であった。机を強く叩いて、涼斗は勢いよく立ちあがった。

 その際に周囲からの視線を貰うが、両者気にした様子はなかった。周囲の人間に目もくれず、互いに睨み合っていた。


 それから怪しげな男が、涼斗を鼻で笑って、その場を立ち去った。こうして二人の睨み合いは終わったが、もはや涼斗には落ち着きがなかった。そのままの勢いで男を追いかけ、店のドアをあけ放つ。

 しかし先程の男の姿は見当たらず、涼斗は思わず地団駄を踏んだ。


「クソが!!」


 その場で叫び、半狂乱になる涼斗は、我を見失って、あの男を探した。しかしどこを見てもあの男はおらず、涼斗は拳に力を込めて、自らの失態を悔しがった。


 そんな涼斗だったが、ふと肩に人の重みが加わった事に気が付いて、先刻の怒りは少し和らいだ。そして涼斗の肩を持つ者の正体は、日菜乃であった。歯を食いしばる様子の日菜乃を、涼斗は空虚な間抜けな表情で見つめた。


「とりあえずレコロに向かおう。それから田中さんに連絡しよう。今こそレコロ一同力を合わせて、奴らに立ち向かう時だよ」

「ああ……そうだ。そうだよな。レコロに行こう。それから反逆の開始だ」


 額を押さえて、正気に戻れないらしい涼斗は、尚も悔しさで苛立っていた。

 その姿は、さながら怒りに奮わされる鬼であった。

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