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魔法に支配された世界で~The name of magic~  作者: かんのやはこ
第一章カフェ・レコロ
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桜坂学園

 バンカーにて日菜乃の訓練を始める前に、前田と杉本から会議を始める。例の桜坂学園の裏の活動を調査した今回の任務に、涼斗は些か興味を持っていた。なにせ結果によっては日菜乃はいじめられることがなくなり、苦しみから解放されるのだ。そのためなら涼斗は全力を尽くすつもりでいた。

 バンカーの一画でPCを用いて会議は開かれた。

「今回の調査の結果、やはり桜坂学園は最悪の施設ということが判明した」

 そう言い杉本はスクリーンに画像を映す。それは桜坂学園の校長が、人体実験に携わっている写真と見て取れた。

「なんですかこれは?」

「これは桜坂学園の校長が研究所と繋がっている決定的な証拠だ。校長は研究所の連中と契約をし、研究データや実験材料を提供する代わりに、金と最高の生活を約束するというものを、研究所と取引している」

 画像には実験に失敗した死体の姿もあった。その写真を目にし、日菜乃は顔を青くし気分を悪くしていた。

「大丈夫か?」

「大丈夫……ちょっとだけ席を外すね」

「ああ」

 顔色の悪い日菜乃は気分を落ち着かせるために離席する。それに構わず杉本は話を進めた。

「校長はどうやら死体を使って精度の高い実験を試しているみたいだ。多分液体の効果を調べたり人体実験をしているだろうな。もっともその実験の大半を行うのは学園の生徒だがな」

 杉本の発言に涼斗は顔をひきつらせる。そして何かに勘付いたように目を見開く。

「もしかして科学部に研究させているってことですか?」

「その通りだ。勿論生徒はその事実を知らない。そして桜坂学園の生物化学研究が発展しているのは、人体実験のデータと莫大な死体を利用しているからだ」

 事実を聞いて涼斗は怒りがこみ上げてくる。桜坂学園上層部の人間も研究所自体の存在も、その暗く深い闇が許せなかったのだ。

 それでも尚杉本の説明は続く。

「それだけじゃあない。桜坂学園の最大の問題は生徒を実験体として利用していることだ」

 その言葉に涼斗の動きは固まる。理解が追い付かないのだ。声も出せないまま杉本の説明は進む。そして同時に日菜乃も戻ってき、真実は告げられる。

「成績が悪く、そして社会から道を外した人間は、一家丸ごと研究所送りにしておさらばだ。ついにあいつらは最悪の手段を取ったわけだ」

 それを聞けば涼斗すら寒気を感じた。そして日菜乃は口を押さえ、体調を崩していた。

「あり得ない……でもこんなことをすればいつかバレるはず」

「ああ。いつかはな。ただ4年に一度、それは行われる。だから生徒たちも教員たちも気が付かないみたいだ。いずれにせよバレたところでそいつを口留めするか、研究所送りにすれば問題ないことだがな」

 信じがたい事実に涼斗と日菜乃は2人して黙り込み、暗い面持ちになっていた。

「これが今回分かった真実の一部だ。これ以外にも見過ごせない部分はあるが、今は止めておく。だが1ヶ月を費やして得た情報はこんなバットニュースだけじゃない。涼斗が言っていた日菜乃が他人の鞄をあさっている写真だが、あれは加工だ。しかも学園は日菜乃がいじめを受けるように対馬家、つまり対馬広居の一家を襲った。父親は失踪という名の実験所送りになり、そのショックで母親が自殺したことになった。家に残ったのは広居と幼い妹で、母は夫の失踪と学校での盗難に苦しめられ、自殺してもおかしくない状況を作り出してから母親を実験場に使った。つまり全部あいつらの自作自演ってわけだ」

 告げられる対馬広居の悲劇に、日菜乃はショックからか涙を流す。涼斗は怒りを抑えて平静を保とうと努めていた。

「つまり、あいつらを地獄に落とす準備はできたということですか?」

 涼斗の確認に杉本は静かに頷く。

「俺と前田で学園を洗いざらい調べた結果、あいつらはお前らを殺す準備は事前に済ませているみたいだ

。普段からお前たちを監視しておいて、怪しい行動に出たら捕まえる気らしい。ちなみにお前らの監視を担っているのは5人の教師だけだ」

 桜坂学園には日菜乃と涼斗を監視する5人の教師が配置されており、唯一の成功品である2人を観察しているらしい。

「まず一人目が日菜乃の加工写真でクラスをかき回した山内孝だ。奴は過去に問題を起こし、校長に弱みを握られている。そして他の4人が、3年2組の担任の片山と副担任の井崎。それと1年4組担当の岡谷、そして教頭の釜崎だ。この5人はお前らの監視の任務を背負っている。多分それぞれ弱みを握られていて動いているんだろうな」

「つまりその5人を避けて行動しろということですね?」

「ああそういうことだ」

 弱みを握られて動いているということは、人の監視等の汚れ仕事は慣れていない可能性が高い。したがって訓練を積んだ涼斗なら5人の目を避けて行動することは容易であった。しかも日菜乃は経験値が浅いとは言え、魔法を使ったこともないので目をつけられる要素もないであろう。

「しかしなぜやつらは俺たちを捕まえないんでしょうか? わざわざやつらに危険を冒す必要はないはずですが」

「下手に近づけば大ごとになるからだろうな。そのことが海外にでも知れ渡ったら大変だからな」

 魔術の研究は世界的視野で見ても重要視されている。だから魔術の反応があればどんな手を使ってでも手に入れようとするだろうな」

「つまりやつらは下手に動けない、ということですか」

「そういうことだ。それにお前たちが上手く動けば、逆に俺たちが学園を利用することもできる」

 そう言って杉本は銃が入った木箱に腰を下ろす。一方で日菜乃は杉本の発言を飲み込めずにいた。対する涼斗は容易に理解した様子でいる。

「上の連中に誤情報を流せ、ということですか?」

「そうだ。奴らはお前たちに対してあまり興味がという事が分かった。おそらくお前たち以外の成功者が出たか、お前たちのデータを基に反強制的に魔術を完成させたからだろう。いずれにせよ奴らはお前たちを本気で捕まえる気はないらしい」

 研究所は自身の警備システムに自信があるらしく、これまでもレジスタンス組織が結成されても大きく動いた例はなかった。そして涼斗と日菜乃以外に実験の成功例が出たとすれば、研究所が彼らに構わないのも納得できる。

「それじゃあ奴らにも、魔法を使える人材がいる可能性が高いということですね……厄介なことになってきましたね」

「いいや一概にはそう言えないぞ」

 涼斗の理解に否定を入れる杉本に、涼斗は不思議と言わんばかりに注目する。

「魔術研究に関係する奴が、自分から好き好んで実験を受けるはずがないだろ? ということは実験に成功したのは、外から仕入れた人間ということになるだろ?」

 杉本がそこまで説明すれば、新人の2人でも十分に理解することができた。

「説得しろと?」

「ああそうだ。それにお前は対馬広居も説得する気なんだろ? だったら一回くらい説得を経験しとけ」

「ナンパみたいな感覚で言いますね……」

「俺はそんなつもりで言ってねえよ」

 どちらともとれない杉本の反応に日菜乃は苦笑するしかなかった。

「分かりました……」

 杉本の提案に涼斗は渋々といった様子で承諾する。

 そして杉本の報告は一通り終わったらしく、次は前田が説明を始める。

「杉本の言った通り、我々の現状は不利とも有利とも言えない状況だ。勿論初めから権力差があるので天秤は不利に傾いているが、それもこれからの活動次第だ。ということで私からは次の任務の作戦を説明する」

 コントローラーでPCを操作し、画面に新しい資料を映し出す。画面には桜坂学園高等部の見取り図が表示されていた。

「今度の任務はまず桜坂学園に侵入し、校長室に向かう」

 前田の説明に伴い、画面も校長室の部分に注目される。それを日菜乃は見逃さまいと凝視する。

「校長室に侵入したらまずデスクや棚を調べる。怪しい資料や手がかりになりそうなものを探す。その中に桜坂町中央支部に関するデータがあるはずだ。運が良ければ合鍵が見つかるかもしれない。校長はそこに頻繁に出入りしているからな」

 レコロ一同の次の目標は桜坂町中央支部らしく、その施設に侵入するための材料集めといったところだ。

「そして次の任務に日菜乃ちゃんを連れて行こうと思う。だから今から日菜乃ちゃんをテストしようと思う」

 前田から告げられる言葉に、涼斗は反射的に反論を述べる。

「日菜乃には早すぎます。もう少し時間をください」

「ダメだ。時は待ってくれない。一刻も早く日菜乃ちゃんを任務に出せる状況にしなければならないんだ」

 前田の言葉に反論しようとしても、涼斗から言葉が発せられる事はなかった。そして杉本が涼斗の肩を掴み、静かに優しく語り掛ける。

「お前の言いたいことは分かる。だがもう時間は掛けられないんだ」

「ですがそれで日菜乃に何かあれば……」

 日菜乃の身を案じている涼斗は言葉を途中で途切れさせる。そしてハッとしたように目を見開く。

「まさか何か問題でも?」

 恐る恐る尋ねれば、杉本は遠くを見て口を開きだす。

「奴らの計画を知ったんだ。あくまでも予定だが、これが順序良く叶ってしまえばこの先は苦しくなる一方だろうな」

 いつもに増して暗い眼差しを向ける杉本に、涼斗は肩の力が抜ける。

「奴らは1年後には完全に魔術の研究を完成させ、アメリカに宣戦布告する」

「っ!!」

 杉本が告げた発言の恐ろしさは日菜乃にも十分に理解できた。もうレコロ一同には時間が残されていないのであった。

「あと半年もすればお前らを本気で対処し、その後にじっくり世界征服をするつもりなんだろうな」

「……分かりました。私も付いて行きます」

「ひな……」

「大丈夫。私も任務に出られるから」

 そう日菜乃が空元気に微笑むから、涼斗には余計に心配に感じられた。

「それじゃあ日菜乃のテストを開始するぞ。準備はいいか?」

「はい。いつでも」

 先の涼斗に向けた笑みは消え、その視線は杉本と前田へと一直線に向けられていた。

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