俺の妄想する至高のヤンデレ
朝が始まる--。
今日は高校の始業式。遂に2学年となる。
ベットから颯爽と降り立った俺は、すぐさま側のタンスにかけてある制服に着替え、洗面台へ向かう。
「お、寝癖がない。ラッキー!! 昨日、ちゃんと手入れしといて良かったぁ〜」
余計な手間をかけずに済むことを喜び、入念に歯を磨く。ぺぺッっと口の中の歯磨き粉を吐き出した後に口を濯ぐ。
この調子なら、ご飯を食べる時間も十分にありそうだ。急がずに行こう。
そう思考しながら、家族の待つ台所へ向かう。
--辺りは一面、赤の世界であった。鉄の不愉快な匂いが鼻を突く。意識を飛ばして、呆然としている俺の後ろから、唐突に声が聞こえた。
「やっほー、おはよー。元気してたー? 私は絶好調の絶好調だよー」
体が小刻みに震える。この甘ったらしい話し方の人物には心当たりがない。
一体、何故、知りもしない人がここにいて、周りはこれほど悲惨な状態に陥っているのだろうか?
振り返ることもできず、暫くの間、ただ眼球をグルグルと動かしていると、視界の端に髪の毛が見えた。視線はそこに釘付けになり、また時間が過ぎる。
ふと、また声が掛かった。
「あーやっぱそれ、気になる? 気になるー?
ま、想像の通りだよー。私見ると直ぐに警察に電話しようとするんだもーん。仕方ないよねー。あれは男で、他にも女の子が1、あの仕切りの向こうにいるよー」
なんだこいつは。なんだこいつは。訳が分からない。話している内容も認めようがない。狂ってる。狂人だ。キチガイだ。逃げないと--。
「どうしたの? 何処かに行こうとしてるの? ダメだよ、それじゃあ」
背中を掴まれ。無理やりに後ろの悪と向き合うことになる。
そこで、初めて姿を認識する。
美しい妙齢の女性だ。いや、少女かもしれない。年齢を察することのできない容貌をしている。
鮮血で濡れた手が、やわら俺の首に添えられる。
「ああ、可愛いなー。食べちゃいたいなぁー」
そういうと、即座に手の指先を首に突き刺した。血が噴き出る。声も出ない。力が出なくなってくる。これは血液が体から抜けていくだけでない、何か直接的に吸い取られているような脱力感がある。
ああ、ここで死ん で い く の --。
意識は途絶えた。この場に存在しているのは魂の抜け殻が3つに血の海。その中心に座る女が1人。
「今日も私のダーリンは美味しかったなー。よし、次、次も行ってみよー」
孤独な空間に声が響き渡るのみである。