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「ねえ友希那。さっき言ってたアレって何なの?」
「行けば解るよ。見る前にネタばらししちゃってもつまんないでしょ?」
「別に私は今聞いても構わないんだけど――――」
「ま~ま~。そうこう言ってる内に格納庫についちゃったし、続きは中でっと」
友希那はカードキーを取り出して格納庫入り口の端末にスライドさせると、ピッと音がした後に赤いランプが緑へと変わり、格納庫に入る為の扉がゆっくりと開いていった。
「さ。時間も無いし早く行こ」
「うん」
私は頷いて格納庫の中に入っていくと、私達がこれから搭乗するF-2が2機と全体が布で覆われた機体が1機運び込まれていた。
「…………3機?」
「本当は3人でやる予定だったからね~。2人が急用で来れなくなったから、私の未来の2機あればじゅうぶんになっちゃったけど」
友希那は布で隠れた機体まで歩いていくと布の端っこを持ちながら、はがす準備にとりかかった。
「それじゃこれを取るから未来も反対側を持って手伝って」
「わかった。――――けど、わざわざ布で隠してる必要なんて無かったんじゃない?」
「本当は他の2人を驚かせようと思ってたんだけどね~。だから代わりに未来に驚いてもらおうかと思ってさ」
私達はタイミングをあわせて機体に覆いかぶさっている布を取り去ると。
「じゃあいくよ~。せ~の!」
――――隠れていた機体が姿を現す事になる。それは真っ白な胴体に主翼と尾翼に赤と青のラインがでカラーリングされた少し古さを感じる機体だった。
「なっ!? これって」
「ふっふっふ。そう、これはF-15 S/MTD アジャイル・イーグル。F-22とかの開発に使われた実験機だよ。2次元の排気ノズルと通常の翼の他にカナード翼を追加した事による高い旋回能力が特徴の機体かな。知ってる人に1機だけ格安で売ってもらえる機会があったからちょっと無理して買っちゃったんだ。これなら性能的にも相手のF-14に負けてないと思う」
…………つまりこれを衝動買いしちゃったせいで同好会の予算がピンチになった訳ですか。
「――――けど、これって実験機だから武装とかって何も搭載されてないんじゃなかった?」
「本来はね。けど、20mmのバルカン砲とAIM-120中距離ミサイルを積んで、すぐにでも実戦投入できるようにしておいた。まあ相手の方が射程は長いから距離は詰めないといけないんだけど、そこは腕次第。――――って事でどう?」
「…………どう。って? 何が?」
私は小首をかしげてみると、要領を得ない私に友希那はじれったそうに言い放つ。
「だから~。これを使ってみないかって事だよっ」
私は機体を見上げてみると、そこには自身の持つ圧倒的な戦闘力を示すかのようにアジャイル・イーグルが存在感を放っていた。
「ええっ!? でもこれって同好会のでしょ? 私なんかが使っちゃ駄目なんじゃ――――」
「――――まあ隣のF-4も同好会のなんだけどね」
「それはそうなんだけど、見た感じまだ1度も飛ばして無いよね?」
「そだね~。本来はこれなかった2人のどちらかにテストフライトして貰う予定だったんだけど、その席があいちゃった訳だし誰かが代わりに乗らないと」
「なら友希那が乗ればいいんじゃない?」
「それでもいんだけど、私はどっちかって言うと操縦より機体整備とかのサポートがメインだからね~。だから操縦が上手い未来の方が適任かな~って思ったんだけど」
「…………そもそも友希那は私の操縦の腕とか知らなくない?」
「――――まぁ、私のカンかなぁ?」
「…………カン?」
「そ、こう見えて結構当たるんだよ、私のカン。だから私より未来の方が適任だと確信したって訳」
…………カン、か。
確かに私は航空機の扱いにはそこそこの自信がある。…………まあ正確にはあったって言ったほうが正しいんだけど、それでも1対1の対戦ではお姉ちゃん以外には負けた事はなかったと思う。
まあ友希那と初めてあった時に私の事は知らなかったみたいだから私の事は本当にカンだけでそう思ったんだとは思うけど。
「―――――それで、未来。改めて聞くけど―――――どう?」
――――おそらくこのアジャイル・イーグルの性能はかなりの物だと思う。
前に乗ってたラプターほどじゃ無いにせよ、負けないくらいのスピードであの景色がまた見れるかもしれない――――。
「うん。じゃあ、この子は私が乗る事にする」
友希那はうんうんと笑顔でうなずき、アジャイル・イーグルの搭乗ハッチを開いた。
「はい。そうと決まったら乗った、乗ったぁ~」
「ちょ、ちょっと友希那ぁ――――」
私は友希那に背中を押されるままに、そのままアジャイル・イーグルのコックピットに乗り込む事になった。
シートに座り操縦桿を握ると、しばらく戦闘機は動かして無いはずなのに操作のイメージが頭の中に流れ込んできた。
……………しばらく触ってなかったから操作なんて忘れたと思ってたけど体が覚えてたみたい。
「…………懐かしいな、この感覚」
「――――ん? 未来、何かいった?」
「ううん。ちょっと昔を思い出してただけ」
ぽたりと手の甲に何か水滴の様なものが落ちてきた。
なんだろうと確かめてみようとしたら、再び雫が手に触れる。
――――雨? ううん。今日は晴れてるし、上には重厚な屋根があるからそれは有り得ない事は自分が一番しってる。
まさかコックピットに座っただけでここまで思いがこみ上げてくるなんて自分でも思わなかった。
「じゃあ最終チェックするからエンジン入れてみて」
友希那の言葉で我に返った私は急いで目の付近を拭って、エンジンを起動させる事にした。
――――友希那にさっきの事は見られてないはず…………たぶん。
「うん。それじゃあ行くね」
私はボタンを操作すると甲高い音を出しながらエンジンが回りだし、心地よい振動が機体全体を包み込んだ。
「お~。いい感じだね~」
「そうだね。特に問題も無いみた―――――あっ!?」
「ん? 未来、どうかした?」
「――――燃料がほとんど入って無いみたい」
「あ、ホントだ。まあ給油すれば問題無いし早速――――」
友希那が給油の準備を始めようとした瞬間、ドッグ内に設置されているスピーカーからブザー音と一緒にまりん艦長の声が聞こえてきた。
「5分後に演習開始するから総員戦闘準備してくれぃ」
「えっ!? もう始まるの?」
「あちゃ~。これは給油してる時間は無いみたいだね」
「友希那どうするの?」
「どうするも何も今入ってる燃料だけだと10分が限度って感じだし、今回はF-4だけで何とかしてこれのお披露目は次の機会にするしかないかな~」
「燃料が無いなら仕方ない――――か」
私はちょっとだけ残念な気持ちを胸に抱えながらコックピットから出ると、隣に置いてあるF-4へと乗り込んだ。
「そっちは大丈夫~?」
いつの間にか反対側に置いてあるもう1機のF-4に乗り込んていた友希那から声がかかる。
「ちょっとまって――――」
私は返事を返しながら機体を起動させると、機体が少し古いせいかワンテンポ遅れてエンジンが回り始めた。
「うん。特に問題は無いみたい。燃料もじゅうぶんある」
「そっか。じゃあ出撃を急ごう」
私達はそのまま戦闘機をカタパルトまで移動させ、まりん艦長の指示が来るまで待機する。
――――そして、少し時間が経過してからスピーカーからまりん艦長の声が聞こえてきた。
「おぅ。準備はどうでい?」
「問題ないです」
「同じく、こっちも問題ないよ」
私と友希那は親指を立ててお互いに合図を送ると、まりん艦長の声が続けざまに聞こえてきた。
「おめぇらはこの演習の間、当艦所属の小隊になってもらう。名前ははるかぜ小隊で良かったな?」
「うん。そうだよ~」
「――――はるかぜ小隊?」
「うちの同好会が助っ人に行ってる時の小隊の名前だよ。とりあえず今回の作戦中は未来がはるかぜ1で私がはるかぜ2って事でいい?」
「うん。いいよ」
「こっちも了解でぃ」
まりん艦長が威勢よく返事を返すと、カタパルトの前のハッチがゆっくりと開いていった。
「離陸を許可するから派手にやって来てくれ。――――そんじゃまあ、状況開始でぃ!!!」
離陸許可を受けた私はスロットルを全開にしてフルスロットルで機体を発進させた。
「はるかぜ1 F-4 ファントム2 出撃します」
「同じく、はるかぜ2 F-4ファントム2も一緒に出るね~」
カタパルトの後ろから凄い力で無理やり前に押し出されるような力で、機体はぐんぐん速度を上げて進んでいき、タイミングを合わせて機体を持ち上げると、眼の前に青と白だけの広大な景色が広がっていた。
「…………やっぱり、空はいい」
―――――――私は再び空へと戻ってきた。




