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「おっと、やっとご到着かい」
私達が戦艦のブリッジに入っていくと、赤いキャプテンコートを袖を通さずマント状にして制服の上から羽織っている少女が出迎えた。
身長は150センチあるか無いかくらいの小さめだけど自信に満ちた顔つきをしていて、とても頼もしく感じる。
くせっ毛の強い栗色の髪の毛の上にキャプテンハットを被っているので、多分この子が私達を呼んだ人物なんだと思う。
「ごめん。待たせちゃった?」
「いや。まだ相手さんも到着してねぇし構わねぇよ」
「ふぅ。ギリギリセーフって感じかぁ」
「――――――どうやら報告であった人数とは違うようなのですが?」
安堵した友希那が胸を撫で下ろそうとした瞬間、キャプテンハットの子の後ろに控えていた人物から声がかかり、ビクッと姿勢を正して直立姿勢を取った。
長い髪の毛をリボンで1つに束ねたポニーテールをした凛々しい感じの人物で、右手には数枚の紙束を持っていた。
――――何かの資料なのかな。
「そ、その………これは不可抗力というか…………ちょっと止む終えない事情が色々とあって…………」
「こちらは3人だと聞いていて相手校にもそう伝えてあります。――――それに、どうやらそこにいる生徒は資料にある人物とは別人では無いですか? これは今回の助っ人の件は無かった事に―――――」
「まぁいいじゃね~か」
キャプテンハットを被った子が資料を持った子を右手で制して前に歩いて来た。
「それに今から相手さんに無理だって帰ってもらう訳にもいかねぇだろう? なら今ある分だけでなんとかするしかあるめぇよ」
「…………そ、それはそうなのですが」
「それに、そっちの新顔もそれなりの腕持ってんだろ?」
急に話を振られた私は友希那のように直立不動状態になってしまい、少し裏返った声で答えてしまうのでした。
「は、はい。そ、それなりの腕は持ってます」
「ほら。こう言ってるし大丈夫だろ。――――それじゃあ、よろしく頼むぜ」
そのまま右手を差し出して握手を求められたので応じる事にした。
「はい。よろしくお願いします。――――えっと、まりん船長でいいんですよね?」
突如、前から刃物で切りつけられるようなプレッシャーを感じた私は後ろに身を引くと、目の前には帽子の下から鋭い眼光で私を睨みつける少女の姿があった。
「やいやいやい。オイラは船長じゃあねえ艦長だ。高校最強戦艦シロウサ丸の艦長を船長呼びするたぁふてぇ野郎だ」
「ご、ごめんなさい」
「――――ふぅ。今回は仕方ねぇけど次からは間違えねぇでくれよ?」
「は、はいっ!!!」
まりん艦長の気迫に押された私は、何故か直立したまま敬礼のポーズをしながら答えてしまったのでした。
そのまま私はまりん艦長とぎこちない握手を交わして、何とかその場を収める事が出来たのでした。
「――――では、艦長。時間もないので作戦会議に入りましょう」
「おう。2人共、色々とめんどーな事はこの副長から聞いてくれい」
――――やっぱりこの人が副長だったんだ。
まりん艦長の脇に控えていた副長と呼ばれた人物は懐に忍ばせたリモコンを取り出してスイッチを押すと、ブリッジの中央に設置されているモニター画面に真っ黒な戦艦の画像とデータが表示された。
「これが今回の対戦相手の母艦、クロウサ丸です」
「――――クロウサ?」
私が疑問を口にすると、戦艦の画像の隣に新しく真っ白な戦艦の画像が表示された。
「名前から解るかもしれませんが、このシロウサ丸の姉妹艦です。細かな違いはありますが性能、兵装共にほぼ同じ艦と思っていただいて構いません」
「あえて違いを上げるなら、クルーの質ってぇ所だな」
「…………艦長。前回の対戦ではこちらが勝利出来ましたが、くれぐれも油断はしないでください」
「わ~ってるって」
まりん艦長は右手をぷらぷらさせて説明を続けろと促すと、副長はやれやれといった感じで説明を続ける。
「全長175メートル、最大戦速30ノット。主な武装は艦首方向にある速射砲が1基と機銃が2基、そして対空ミサイルを2基積んでいて対艦ミサイルと魚雷の使用は今回は禁止となっています」
「つまり、お前さん達には相手戦闘機からのこの船の護衛と相手戦艦の武装の無力化を頼みてぇってわけでい」
「そして、相手の航空戦力ですが――――こちらは友希那さんに説明をお願いした方がいいですね」
「りょ~か~い」
副長に変わり友希那がモニターの前に立つと、画面が切り替わり戦闘機の画像と詳細データが映し出された。
「F-14D スーパートムキャット。私達が使うF-4 ファントム2の後継機として開発された機体だね。とりあえず基本性能はあっちが上だから注意しないと。
早いスピードを生かした格闘戦と超長距離ミサイルでの牽制が特徴的な機体かな~。
だた、長距離ミサイルの誘導性能はあんまり強くないから注意してれば避けるのは難しくないと思うよ。
後は飛行速度によって形が変わる可変翼がカッコいい、まさにスーパーって感じの機体だねっ。
う~ん。うちの部に配備されてたら、機体カラーを赤く塗って角を付けるカスタマイズをしてスーパートムキャットレッドビートルにしたのになぁ」
「――――ねえ、友希那。最後の方の説明って必要?」
「ん。わりと必要」
「…………そ、そうなんだ」
友希那は胸を張り凄く満足気に言い放った。
きっと友希那なりに何かこだわりみたいな物があるんだと思う。
「それと今回対戦する場所は晴天の海上だから渓谷とかに機体が隠れたり霧で視認しずらいとかは無いから、正真正銘、真正面からのガチンコバトルだね~」
「おう。ガチンコ上等。雨や霧だと敵機が見ずれぇからな」
「――――けど友希那。実力はともかく性能で負けてるのはちょっと厳しいかもしれないね」
「ふっふっふ~。大丈夫だよ未来。こっちには秘密兵器が用意してあるんだから」
「…………秘密兵器?」
「そ。まりん艦長、アレは運んどいてくれた?」
「搬入はそろそろ終わってると思うんだが――――副長、作業はどうなってる?」
「はい。先程連絡があり搬入作業はちょうど終了したようです」
「そうか。そんじゃまあ、お前さん達は始まる前に様子を見に行って来たらどうでい?」
「そだね。じゃあ行こっか未来」
「う。うん」
私は友希那と一緒にこの戦艦の格納庫へと向かう事になった。




