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「――――友希那? 今日の部活は休みだったと思ったけど?」
「うん。活動は休みだけど、まりん艦長と助っ人の約束してた日だよ」
「うげ。助っ人って今日だった?」
「そ、今日だった。だから準備するから急いで部室まで―――――――」
「ゴメン、友希那。今日はちょっと無理かも」
「…………えっ?」
「実は今から赤点の補修があるから、ちょっと遅れる」
「ちょっとってどれくらい?」
「――――ん~~と。10教科だから10時間くらい?」
「部活終わっちゃうじゃん!」
「――――だから今日は無理かも。助っ人の件は彩奈と2人で何とかしといて」
「えっ!? でも彩奈は――――」
遠くから先生らしき人物が注意する声が聞こえる。
「こら~。補修始めるから早く教室に戻りなさ~い!!」
「あっ。先生が呼んでるからもう行かないと。―――んじゃ」
「ちょ、ちょっと有沙まっ――――――」
………………友希那の電話からは、無慈悲にもツーツーと通話終了の音が永遠と鳴り響くのでした。
――――なんだか2人共用事があって参加出来ないみたいだけど、友希那どうするんだろ。
凄く困ってて何とかしてあげたいけど、部外者の私ではどうしようも無いのがもどかしい。
「ああ~っ。ここままだと部費がぁ~」
友希那はその場にうずくまり、頭を抱えて青い顔をしているみたい。
「部費?」
私はふと疑問に思った事を口にすると、友希那はそのままの体制で説明を始めた。
「戦闘機を使うのってすっごくお金がかかるんだよね。それで同好会だと、ど~しても予算的に厳しいから普段は学校の雑用や他の部の手伝いをして何とかやりくりしてるんだけど…………。実はちょっと前に掘り出し物があって少し無理して買っちゃったから今回の助っ人で部費を稼がないと機体のメンテナンスするお金が無くなっちゃう…………」
――――掘り出し物?
それってもしかして1機だけ布が被せてあったあの機体の事なのかな?
「けど、人数が足りないなら仕方ないよ。それに部費の事は先生に相談すれば何とかしてくれるんじゃないかな?」
「う~ん。どこかに戦闘機の操縦が出来る人がいれば臨時の助っ人を頼める――の――――に?」
「――――ん? 友希那、どうかした?」
何かに気がついた友希那は突然ぱあっと明るい顔をして立ち上がり、私の肩をガッチリと掴んで逃げられないようにロックした。
「ねえ、未来。もしかして戦闘機の操縦とか出来たりしない? てか出来るよね? ね? ねぇ?」
「そ、それは……………」
友希那は有無を言わせない必死の剣幕でまくしたててきた。
これは下手な嘘を言ってもすぐにバレちゃいそうだし、正直に答えるしかなさそう…………。
「――――う、うん。す……少しくらいなら動かせる…………かな」
「じゃ、じゃあ未来。1回だけ、ね? 1回だけ臨時で助っ人お願い出来ない? このままじゃ同好会が無くなっちゃうよぉ」
「え、えっと…………」
――――――友希那の助っ人の手伝いをする。
すなわちそれは、私がもう一度戦闘機に乗るって事を意味している。
私はまた空に戻ってもいいんだろうか………。
けど、さっき格納庫で友希那にF-4を見せてもらった時に私の心が高まったのも否定出来ない。
…………ま、まあ、1回くらいなら乗ってもいいかな?
そう。これはあくまで友希那の為。困ってる友希那を助ける為に仕方ない事なんだ。
「…………じゃあ今回だけだよ?」
「ほ、本当!? うんうん。やっぱり未来は同士になってくれると思ってたよ~」
同士になった記憶は無いんだけどなぁ…………。
「――――えっと、別に私は同好会に入るのを決めたわけじゃ無いんだけど。それに、私は少しブランクがあるし友希那の機体は乗った事が無いから上手く扱えないかもしれないけど…………それでもいい?」
「うんうん。空を飛んでくれるだけで問題ないない」
…………友希那は私にマトになれと言ってるんだろうか。
「おっと。そんな事よりもう時間が無いよ。早くまりん艦長のところに向かわないと」
「向かうって、どこに?」
「決まってるじゃん。海岸で演習をやってた戦艦、シロウサ丸だよ」
――――気がつくと、海岸で撃ち合いをしていた音がはいつの間にか聞こえなくなっていて、戦艦は浜辺に作られたドックに戻って補給を受けているみたいだった。
――――そして、私は海の向こうへ目をやると、遥か水平線の彼方から1隻の戦艦とそれを護衛するかのように飛んで来る戦闘機の集団が少しづつこちらへと近づいて来ているのがうっすらと見えたのでした。




