3
友希那につられるまま外に出た瞬間、ドゴンと何かを発射する音が海岸の方から聞こえてきた。
私の通っている星丘高校は海岸沿いに建っていて、耳を澄ませば波の音が微かに聞こえて――――――って、今はそんな事はどうでもよくて。
「――――な、何の音?」
「あ~。ちょうど始まったみたいだね。ほらあそこ、11時の方向」
「――――11時?」
私は言われるままに11時の方角を見ると、多数の戦艦が2組に別れて艦隊を組んで砲撃を撃ち合っているのが見えた。
「あれは?」
「海戦競技部の活動だね。星丘高校の強豪の1つだから部費も多めでかなり良い戦艦を使えるから羨ましいよ~」
目を凝らして友希那が羨ましそうに見ている戦艦を私も見てみると、半分以上が最新鋭のイージス艦で艦対空ミサイルも搭載しているみたい。
友希那が格納庫で見せてくれた骨董品を見た後だと、一瞬でこの学校があの部活に力を入れている事がわかるくらい圧倒的な光景だ。
「それにしても………………」
戦艦が砲撃をする度にドゴンと地面を揺らすような音が風に乗ってここまで聞こえてくる。
「かなり近くで演習してるみたいだけど…………大丈夫?」
お互いにかなり派手に撃ち合っているから見ている分には大迫力ではあるんだけど、ここまで砲弾が飛んできそうな感じもして少し怖い。
「あ~。心配しなくても、この辺の建物は全部特殊な素材で作られてるから壊れたりしないよ」
「えっ!? じゃあなんで私達は格納庫から出たの?」
「あはは~。実は建て替える予算が無くてあそこだけは古い建物のまま使ってて、屋根に直撃したら穴があいちゃうかもしれないんだ。建物の耐久性もそこまで高くないから最悪崩れちゃう可能性もあったから退避する必要があるってわけ」
「…………な、なんなのそれ!?」
周りを見てみると、さっきまでグラウンドで走っていた運動部の人達は1人もいなくなっていて、代わりに体育館から掛け声みたいなのが聞こえてる。
「他の皆はもう避難が終わったみたいだね。私達も校舎に急がないと」
「途中で流れ弾に当たらないか少し心配かも…………」
「だいじょぶ、だいじょぶ。砲弾は全部特殊なカーボンでコーティングされてるから当たっても大丈夫だよ。それに少し前に私も流れ弾に直撃しちゃったけど、全治1週間ですんだから」
「…………えっと、それ全然大丈夫じゃないよね?」
私達は何とか校舎に避難すると外での砲撃戦は更に激しさを増して撃ち合いを始めたみたい。
「――――だいぶ派手にやってるね」
「まあ、あそこの部長がかなり豪快な人だからね~。――――おっと、部長じゃなくて艦長だった」
「…………それ重要なの?」
「さ~ねぇ。別に私はどっちでもいいと思うんだけど、部員が全員そう呼んでるからこの学校の生徒もみんなそう呼ばないといけないのかな? って思ってる感じかな~」
「――――ふ~ん」
おそらく今後その艦長さんと関わる事なんて無いだろうし、私は適当に聞き流す事にした。
―――――戦闘機、戦艦、戦車。
私の高校生活でこれらの乗り物に乗る事はもう無いと思う。
未練がないと言えば嘘になるけど、もう決めた事なんだ。
「それじゃあ外の演習が終わるまで暇だし、せっかくだから私の整備したF-4について教えてあげるね~」
「う、うん。よろしく」
鳴り響く轟音の中、友希那はウキウキとした表情で話し始めた。
驚いた事に友希那の戦闘機に関する知識はかなりの物で、少し前までほとんど毎日戦闘機に乗っていた私も知らない知識が聞くことが出来て結構楽しい時間を過ごす事が出来た。
――――けど、こんなに詳しいなら空戦競技の強い学校に入れば良かったのに、なんでこの学校で同好会なんてやってるんだろ?
まあ、その辺の事は詮索しても仕方がないか。友希那も私の事は詮索しないでくれたんだし
「それでね。現役のF-4乗りは凄い人が―――――――」
まだまだ話を続けたいみたいな感じの友希那だけど、突然友希那のカバンからの着信音で友希那のF-4講座は終わりを告げた。
「…………あれ? 電話だ。ゴメン未来、ちょっと出てもいい?」
私はどうぞと手を差し伸べると、友希那はゴメンと片目をつむりながら左手で合図をしてカバンから電話を取り出した。
通話音が大きいのか、友希那の電話からかすかに相手の声が聞こえてくる。
「もしも~し。あれ? まりん艦長? なんか用事?」
「おう。そっちの準備はそろそろ終わったかい?」
「――――準備? …………え~っと、準備って何の準備だっけ?」
「おいおい、寝ぼけてねぇでしっかりしてくれよ。今日は対空戦の練習に付き合ってくれるってぇ約束だったじゃねぇかい」
「…………あれ? 今日って15日だっけ?」
友希那が今日が何日か知りたそうにしているので、私はカバンからスマホを取り出してカレンダーを見せると、友希那はしまったと言いたげな顔をしながら電話の相手に謝り始めた。
「ごめ~ん。忘れてた。すぐに準備してくからちょ~っとだけ待っててもらえるかな?」
「いいぜ。どうやら相手さんも来るのが遅れてるみてぇだし、開始まで少しは余裕があるみてぇだ。けど、なるべく急いでくれよ?」
「オッケー。他の2人もすぐに行くように言っとくから。それじゃ、また後で」
「おうよ。期待して待ってるぜ」
通話の終わった友希那は少しだけバツの悪そうな顔をして。
「ごめん、未来。ちょっと部活の手伝い頼まれてたの忘れてた~」
「ううん。私の事は別にいいから、早く向かったら?」
「そうするね。―――――っと、その前に他の部員にも連絡しないと」
私は同好会のメンバーも部員でいいのかな? などと、どうでもいい事を思っているうちに友希那はスマホで他の部員に連絡を始めたみたい。
「あ~、もしもし彩奈?」
「ズドラーストヴィチェ。同士、友希那。どうした? 敵襲か?」
――――ど、同士? それに敵襲って。
「そだよ。龍星座高校が攻めてくるから、助っ人に行かないと」
「――――む? 演習の日にちは今日だったか?」
「そうだけど、…………もしかして、何か用事があったりしちゃったりなんかする?」
「実はどうしても外せない生徒会の要件が入って、今から行くのは少し厳しい。すまないが、今回は有沙と2人で行ってくれないか?」
「う~ん。生徒会の仕事なら仕方ないか………。りょ~かい、本当は3人欲しかったけど、まぁ2人いれば何とか形にはなると思うしいいよ」
「すまない。この埋め合わせは後で必ずする」
「それは別にいいよ」
「そうか? ではすぐに向かわないと行けないので、これで失礼する。それでは同士友希那、ダスビダーニャ」
「うん。バイバ~イ」
友希那は残念そうな顔をした後すぐにもう1人の部員へと電話をかけ始めた。
「う~ん。彩奈は駄目かぁ~」
「なんか忙しいみたいだね?」
「なんたって彩奈はこの学校の会長だからね~。おっと、有沙に繋がった~。もしもし有沙~?」
どうやらもう1人の部員に電話が繋がったみたいで、友希那は再び通話をし始めた。




