1エピローグ
――――私は今、空にいた。
私は浮遊感に気持ちよくなりながらトップスピードで雲を抜けると、そこには航空機が1機後ろを向けて飛んでいるのが見えた。
あの機体はなんだったかな? と記憶を辿ると試合前のミーティングで副隊長が見せてくれた資料にあったシルエットと一致した。
――――つまり。あれは今対戦している相手高校の航空機だ。
私はその航空機を真ん中に捉えると、緑色の照準が赤く変わった。ロックオン完了の合図だ。
私はそのままミサイルを2発発射すると、赤外線誘導されたミサイルは相手機を追尾するように飛んでいき、2発とも命中した瞬間に相手機はそのまま下へと落下していった。
落下していった航空機は地面まで2キロほどの高さでパラチュートが開いてゆっくりと地上へと降りて行く。
これは空戦競技。航空機は本物を使ってはいるけど、あくまで競技なので機銃の弾やミサイル、そして航空機の操縦席には特殊なコーティングが施されていて怪我をする事は殆ど無い。
だから私は空を自由に駆け抜ける事が出来るこの競技が大好きだった。
「――――ふう。まずは1機撃破」
「お疲れ様~、未来」
無線を開くと、ちょっとだけ間延びした優しい声が聞こえてきた。
このチームの隊長を務めている私のお姉ちゃんの声だ。
「後何機残ってるっけ?」
「えっ~と。――――残り6機みたいね~。けど、こちらは残り5機だからまだまだ気は抜けないわね~」
私はレーダーを確認するついでに燃料メーターを見ると、いつもより燃料の減りが激しくて1回は給油に戻らないといけないみたいだった。
――――決勝戦だからってちょっと無理しすぎちゃったかもしれない。
「お姉ちゃん。いったん補給に行ってくる」
「りょ~かい。けど、まだ機体は余裕あるんじゃない?」
「そうだけど、相手の大将が出てくる前に補給は終わらせておきたいから」
「なるほど~。じゃあ戻るのを許しちゃいましょ~」
「うん。すぐに戻るから待ってて」
私が機体を反転させようとレバーを引くと急に味方の無線が割り込んできて、大きな怒声が聞こえてきた。
「おい、未来。試合中は隊長の事はお姉ちゃんではなく隊長と呼べと言ってるだろう」
少し不機嫌で凛々しい感じのこの声の主は私のチームの副隊長を努めている人物だ。
「すみません副隊長。いつもの癖で、その…………」
「御託はいい。現在のこちらとあちらの戦力はギリギリ互角といった状況だ。なので士気を下げるような発言は謹んでおけ」
「――――も~、副隊長は硬いな~」
今度は軽い感じの声が無線に新しく割り込んできた。私が補給に戻る予定の空母の船長をやっている先輩の声だ。
「全くお前等は揃いも揃って…………」
「ま~ま~。私は別に構わないんだけどな~」
「隊長はそんな調子では他の部員に示しがつきません!!」
試合の最中だというのに私の機内は無線で凄く騒がしい。
――――けど、これが私達のチームのいつもの光景なので、私自分は特に問題は感じてないのだけど。
「未来ちゃん。そろそろ合流地点だけど、給油方法はどうする?」
「空中給油にする。相手の大将はまだ出てきてないけど、いつ出てくるかわからないし」
「りょーかい。それじゃあ真下について」
「解った」
私はいつも通り母艦の真下に付けて給油ノズルが刺さる位置まだ機体を移動させる事にした。
空中給油は難しい操作だけど、練習通り、いつもと同じようにやれば失敗なんてしない。
私は今大会中に1回も給油でミスをしていないので、今回も問題は無いはずだ。
いつもと同じ機体。いつもと同じ母艦。――――そして、いつもと同じ高度。
うん。何も問題ない。
「それじゃあノズルを下ろすわね」
「うん。お願―――――――あっ!?」
そこにいつもと違う事が起きた。
強風に煽られた私の機体はそのまま母艦に何度も強く叩きつけられしまった。
ガシン、ガシンと揺れ動く機体の中でアラートの音が鳴り止まない。
「未来ちゃん!?」
私は何とか体制を立て直して機体を水平に保つ事に成功したけど、目の前にはでかでかと大破の文字が表示されていて、私の機体はそのまま浮力を無くしてしまい地上へと落下を始める。
落下する機体の中で、状況をアナウンスする声が聞こえてくる。
「――――アサルト高校3番機、給油失敗で大破」
「未来!?」
「未来ちゃん!?」
アナウンスが終わった瞬間、チームメイトが私を心配する無線も続けざまに入ってきた。
「ごめん……ごめん…………みんな」
「大丈夫よ未来。後はお姉ちゃんにまっかせなさ~い」
泣き出してしまいそうになった私にお姉ちゃんがとびきりの笑顔で励まそうとしてくれたけど、その笑顔にはちょっとだけ焦りの色が見えた。
2機も差が開いてしまったのだから、かなり不利な状況に陥ってしまった。
…………私のせいで優勝が危うくなった。
せっかく10連覇がかかった試合でお姉ちゃんが隊長に選ばれたのに、最後の最後で油断をしてしまった。
「チィッ。4機で6機を相手にする事になったか」
「大ピンチっす~」
「たいちょ~。どーする?」
「―――――ふぅ。こうなったら私が3機落とすから、後はお願いするわね」
久しぶりにお姉ちゃんの本気の顔を見たと思った瞬間、私の機体は通信圏外になり通信機からはザーザーと耳障りな雑音だけが永遠と流れ出してきた。