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時計仕掛けのアクターズ  作者: 卯月兎夢
黄泉帰りの扉
25/26

作戦

「待てよ」


 怒気を含んだ声に、七瀬は立ち止まる。事務所を出てすぐの角を曲がったところだった。


「パッキンてめぇ、どこ行くつもりだ」


 振り向く。千駄ヶ谷が七瀬を思い切り睨んでいた。


「……お前なら、聞かなくてもわかるだろ」


 懐の銃に手を伸ばす。それを、千駄ヶ谷は見逃さない。

「あぁ分かるな。お前の思考は読みやすい」


 七瀬は銃口を千駄ヶ谷に向ける。安全装置を解除、いつでも引き金は引ける状態だ。


「おいおい。ここ、住宅街だぞ」


「関係ないな。人はいない」


 夕暮れ。人はいない。いたとしても、この暗がりではまともにこちらを見れもしないだろう。


「それに、言ってることとやってることが矛盾してるぞ、千駄ヶ谷。なぜ、こうなることが分かっていて、俺に銃を持たせた」


「……」


 その通りだ。七瀬が八重の監禁されているアジトまで乗り込もうとする、その未来を安易に予測できるにも拘わらず。

 開けば警報のなる窓。軟禁状態。

 なのに、銃を持たせる。

 詰めが甘い。そう、言いたい。


 それをおそらく、千駄ヶ谷も理解している。


「なぁ千駄ヶ谷。お前、わざと、だよな?」


 千駄ヶ谷は答えない。


「おそらく、悟もお前の計画に協力している。わざわざ窓だけに仕掛けた警報器。扉には仕掛けられていないし、本当に軟禁するって言うんなら、お前らのことだ、あの部屋に何個も監視カメラがあったっておかしくない」


 あの部屋は、七瀬が簡単に逃げられるように設定された部屋だ。扉に鍵は掛かっているものの、そんなもの、銃で蝶番を破壊すればいい。

 だが、それじゃあ銃弾が勿体ない。


 だから、窓をわざわざ開けて、警報を鳴らした。

「あの警報は、いわば作戦開始の合図でもある。お前らは、俺が不用意に銃を撃たないことも知ってる。かといって、扉の鍵が空いていれば、三神が気づくかもしれない。そして、もしも俺が扉を破壊して出るにしても、必ず発砲音が鳴る。まぁどちらにせよ、でかい音が鳴ったときが作戦開始の合図ってか」


「てめぇ……そこまで読んでやがったのか」


「そこまで読むことを、お前らだって読んでたんだろ?」


 相変わらずムカつくぜ、と千駄ヶ谷は失笑。

 七瀬も、銃をおろした。


「あの優秀な悟クンのことだ、もうとっくに、八重ちゃんの居場所、掴んでたりするんだろ」


「……たりめーだろ。お前が逃げ出せる体力培ってんのを待ってたんだよこっちは」


「……三神には、内緒だろうね?」

 

 この作戦の意味。それは、三神にいかに心配をかけさせないか、にかかっていた。


「あぁ。今頃たぶん、悟が寝かせてる。だろ? 悟」


 インカムに手を伸ばし、忘れてたと言って七瀬にもインカムを投げて寄越す。


『寝てるよ。安心して。てゆーかさー、やるならやるって言ってよね。ラーメン食べにいくとこだったんだよ? この空気読めない奴め』


 三神を巻き込むわけにはいかない。戦闘には勿論、病み上がりの七瀬が出向いたとなれば、きっとあの子は怒って止めに来る。

 心配をかけさせたくない。


「だが、黄泉帰りの扉についてはさっぱりだ。正直、どうすればいいのか分からねぇ」


「……そうだな。八重ちゃんが教えてくれたことと文献……それ以上の情報はやっぱり入らなかったんだろ?」


『あぁ。信頼できるものから都市伝説まで全部調べてみたけど……正直、そっちは手詰まりかな』


「じゃあ、八重ちゃんを監禁してくれちゃってるアイツらを殺す? なんか、場所が穢れたらダメなんだろ? で、その場所にずっと置いとけよ」


 七瀬の鶴の一声に、二人は押し黙る。


 全くもってその通りじゃんか、と。


「鬱憤もはらせるし……」


「パッキンより強い奴と戦えるし……」


『おい、世界の平和はどうしたのさ』


 そんな死神共に大層呆れる悟であった。


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