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時計仕掛けのアクターズ  作者: 卯月兎夢
黄泉帰りの扉
21/26

一週間後 三神

 死神・千駄ヶ谷とブラックプレイ・チハヤとの取引から一週間が過ぎた。

 先の新月の夜には黄泉帰りの扉は開かれていない。



 三神は、ひとり夕暮れの廊下を歩いていた。その腕のなかには日直日誌。あと、担任が色々うるさくて、なかなか解放してくれなかったからこんな時間になってしまった。最近の成績とか、遅刻のこととか。あと髪の毛のことも。色々言われて心は満身創痍である。


 (日直なんて……最悪)


 (七瀬は目が覚めてもう動けるけど、まだ傷は完全に癒えてないし、悟と千駄ヶ谷は働かないし、残りの二人は消息不明だし、黄泉帰りの扉はどーやって壊せば良いのか分からないらしいし)


 さらには散らかされた事務所の整理も積み重なる。今まで料理全般を仕切ってくれていた八重も不在。カップラーメンとお茶菓子ばっかりじゃ、さすがに体をこわす。


「あたしがしっかりしなきゃ……」


 今日は頑張ってカップラーメン以外の晩飯を作ろう。スーパーに寄って、コンビニに寄って……。


 ───決意を胸に、三神はそっと教室の扉を開けた。もう帰らなくてはならない。


「三神さん!」


「ハブっ!?」


 いきなり女子生徒に飛び付かれて、三神は体制を崩して仰向けに倒れる。ちょうど良い感じに日誌の角が顎に食い込んで痛い。


「三神さん!私を助けてほしいんです!」


「……その前に、降りてくれると嬉しい」


 上に乗った、やたら鼻息の荒いクラスメイト……入間 悠里は、「あ、ごめんなさい」と言ってすぐに三神の上からどく。


 入間 悠里。それほど親しくもなければ、疎遠すぎるというわけでもない。彼女自身それほど派手で社交的というわけでもない。おはようとか、さよならとか、必要最低限のことだけ話して、あとはお互いに干渉しない。そんな関係だ。


 そもそも、部活動もやっているわけではないらしいし、体育祭関係の仕事もしていなかったはず。授業が終わったら目立たないようにすぐに帰っている彼女だ。あたしになにか用でもあって、それでずっとここで待っていたらしい。


 なんとか起き上がった三神は、顎をさすりながら「なんか用ですか……」とつぶやいた。


「あ、えっと、まず。日直お疲れ様です」


「あーはいどうも……」


 お辞儀をされ、反射的にこちらもお辞儀。



「三神さん!確か、三神さんの家って探偵事務所でしたよね!?」


 表向きは、まぁそうだ。


「そうだけど……」


「私、探偵さんの力を借りたいんです!」


「……はぁ。」



 目の前まで迫って鼻息を荒くする悠里に、三神はそう答えるしかできなかった。


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