夢のような扉、きっと悪魔が見せた夢
昔々、まだ、世界が世界の全てを知らず、世界がまだ、宇宙の中心だと信じられていた頃。
とある扉が作られた。
戦や病気で愛する人を亡くした若き研究者が、当時にはもう蔓延っていたアンデッドたちから着想を得て、その扉は作られた。
この世とあの世をつなぐ、死者を呼び戻す扉。
愛したひとにもう一度会いたい。
戦で亡くした息子と暮らしたい。
もう、死など怖いものではない。
だって、この扉は死んだものと会わせてくれるのだから。
だが、そんな夢を叶えてくれる扉は、世間に公表されることはなかった。
簡単な話だ。この扉は、誰だって生き返らせてくれる。
国を救って死んだ英雄も、みんなに愛された歌姫も………。
でも、それだけじゃない。
この扉が、闇の手に落ちればどうなる。
世を震撼させた大悪党や、国を苦しめた悪逆の主だって。そうしてまた、世間は混沌に飲み込まれるかもしれない。
これを重んじた裏のもの───死神たちは、この扉の開発者、並びに扉の存在をひた隠しにした。
だが、彼らのなかにひとり、扉を試したいものがあった。
彼は、死んだ友達に会いたかった。
彼は、開発者の言うとおり、生と死の境目が朧気になるといわれる新月の夜に扉を開いた。
だが、彼は友達に会うことができなかった。
結局、扉を開いた本人、並びにそのとき近くにいた十一人が扉を閉じるまでに死亡。
開発者は追求されたが、彼は死人が出たこと、長く軟禁状態にあったことから錯乱状態に陥る。
死んだものにもう一度会いたいという純粋な願いが、悲劇を引き起こしてしまった。
きっと、それが一番、彼は苦しかったのだろう。その三日後には舌を噛んで自害してしまった。
重んじた死神たちは、扉の研究をすることにした。これから先、誰かが自分たちの目を掻い潜って開けてしまうかもしれない。そのとき、この扉に無知な自分達は、どう対応をとればいいか分からなかったからだ。
そうして、決して人道的とは言えない実験が執り行われる。
捕らえたアンデッドたちに研究の内容は伏せて、実験させた。
世界のためにと正義のためにと。死神の特権【葬送】が使われずに人体実験を行ったとして、後に強く非難された、実験の結果はこうだ。
まず、扉を開くには十二の魂を用意しなくてはならない。このとき魂は、肉体の生死を問わない。
そして、呼び出した魂を受け入れる器。これは、吸血鬼でなくてはならない。理由は未だに解らず、人狼や魔女など、他のアンデッドや人間では、すぐに双方の魂が死んでしまう。
吸血鬼の、元々入っていた魂は、十二の魂を引き連れて扉の向こう側へ連れ去られる。
計十三の魂が向こう側へ入ったその瞬間に、扉は閉じられてしまう。
死神たちの間では、勿論この扉を壊そうという意見も挙がった。だが、扉を破壊したことによるその代償。その被害が未知数だった。
よって、扉は彼らの手によって地中深くに埋められた。なかなか攻め込まれることのない、遠い遠い島へ。
こうして、扉は深い地中に埋められた。
千年後、とある組織が扉を見つけるまでの時間。なんの解決策も見当たらなかった時間。開かれることのないその扉は、『黄泉帰りの扉』と呼ばれた。




