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時計仕掛けのアクターズ  作者: 卯月兎夢
黄泉帰りの扉
15/26

残り三十九時間。事務所にて

 規則的な機械音が鉄の部屋中に響き渡っている。ベッドには金髪の青年が横たわっており、その体からはたくさんの管が走っていた。


 その傍らには沢山の医療器具が佇んでおり、中央の青年を無機質に見守っている。青年の横たわるベッドシーツには赤い血が染み付いていて、青年の深手が伺える。


ーーー儀式まで残り三十九時間を切っていた。



 一方、死神・千駄ヶ谷は欠伸をしながら事務所の扉を開いて、嵐の過ぎさったような光景を目にしていた。


「……おいおい。これ見たらパッキンが発狂するぞ……きったね」


 ご丁寧にも、がらくたを退けて作ってくれたのであろう道を歩く。物という物がひっくり返り、 パソコンやファイルなどの事務用品もことごとく破壊されている。


 なんだこれ。金目当てか?


 テレビのドキュメンタリーで見るような、空き巣に入られたあとの惨状。


 電話を寄越してきた三神や、引きこもりの悟すらいない。奥にいるのか?

千駄ヶ谷は悟にあてがわれている部屋の扉をゆっくり開けた。


「……おい、三神?悟?」


 返事はない。何かあったか?千駄ヶ谷の目は険を帯びて、何が起こってもいいように気配を巡らす。腰に装着しているダガーナイフを構える。


 足で扉を思い切り開け放ち、ナイフを投げる。

 空気を切り裂き、ナイフは一直線に、回転しながら部屋にカットイン。

「ひいっ!?」


 恐怖の声が聞こえて、千駄ヶ谷はそこで初めて部屋の中を覗く。

 怯える悟と、その横で何事もなかったように右手でナイフを掴む三神。柄を握っているため怪我はしていないようだ。


「千駄ヶ谷……。あんたね、なんで凶器を投げてくるのよ。ここに立ってたのがあたしじゃなくて悟だったら、死んでたわよ」


「……お前も素手で掴むたぁ、成長したな……」


「感心するとこじゃないでしょ……?千駄ヶ谷がナイフを投げてくるのが悪いわ」


 うんうん、と千駄ヶ谷は顎に手を当てて感慨深そうに目を閉じる。

 だが、すぐに三神に呆れ顔を向けてため息をついた。


「てめーなぁ。一回名前呼んだだろ。それで気付けよ、この鈍感オンナ」


「あんたが気配消して小声で言うと聞こえないのよ!!」


 三神はすっかり頭に血が上っているらしい。三神はナイフを千駄ヶ谷に投げて寄越す。頭に血を上らせた本人、千駄ヶ谷は片手でそれを掴んで元の場所に収めた。


「ま、お前の特訓は後でパッキンに押し付けるとして……、で?パッキンとお嬢はどうなってんの」


 パッキンとお嬢、つまり七瀬と八重が失踪した。それだけ聞いていた千駄ヶ谷、詳細は知らない。


 新米の死神が、べそをかきながら死にそうになっているという話は、その手の界隈ではよく聞く話だが、七瀬も八重も、それなりの場数は踏んでいる。だから、失踪、行方不明といった類の言葉は、千駄ヶ谷にはあまり聞きなれないものだった。


「……ブラックプレイって知ってる?」

「あぁ。人殺し集団の奴らか。俺が潜入してた組織がその傘下だった。頭おかしかったわー」

「……どうやら、穏便には行かなかったみたいだね」

 悟がやっとそこで口を開く。彼の着ている黒パーカーには濃い染みがついている。パーカーだけではない。髪、ブーツ、手袋にも。


「……よくもそんな、今にもコナン君が飛び込んできそうな格好で街を歩けたわね……」

「まぁ、夜だからばれなかっただけだ」


 千駄ヶ谷は特に気にしているわけではないらしい。

 洗濯が大変そう。だが、そんなことを考えている場合ではない。三神は首を横に振って悟の座っている椅子に手をかけた。


「今日、七瀬たちは依頼人と会う予定だったの。でもね、出掛けたらしくって……」










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