駄犬
アンデッドの殺人集団、ブラックプレイ。主に欧州を拠点として動き、裏表を問わずに仕事をしている。らしい。
その組織に関わったものは、首筋にマイクロチップを埋められて衛星で追跡され、万が一裏切り者がいた場合、そのチップに電流を流して裏切り者を殺す。
チップは電流を放ったあと粉々に壊れてしまうため、何も情報を得ることができない。それもあって、なかなかブラックプレイの情報は入ってこない。
チップを埋められたら、死ぬまで組織の犬。
そんな都市伝説クラスの組織にかかった厚いベールの中を、誰もよく知らない。
「こっち側の世界では有名な話よね。人間界でも、たまに変死として扱われるらしいわ」
「困った話ですね。情報統制も取れてないとは、組織としてあるまじき行為……。まぁ、その方々には死をもって償わせました。今後、そういったことの無いように祈るばかりですねぇ」
チハヤは口に手を当てて小さく笑った。何が面白いのかはイマイチ理解できない。
「どこも大変ね。で?そんな組織の畜生が、なぜこの国に?しかも、こーんなだだっ広い地下都市を拠点にしちゃって!」
強調して発せられた畜生、という言葉にチハヤはぎり、と歯を食い縛る。我慢をして一つ、咳払い。
「……お姫様、私があなたに情報を与える、そして、死神の治療管理……。こちらの不利以上の犠牲をあなたは払えるんですか?」
「払えなかったら、どうするの?」
八重の瞳がいたずらを考えている子供のように、輝く。
「七瀬さんと共に死んでもらいます。勿論、全面協力してもらったうえで、ですがね」
「……あーそう。わかったわかったオーケーオーケー。じゃあ、払えるか払えないかは一回置いておいて、どうして黄泉帰りの扉を開きたいの?あれは、術者も危険なの。知ってるでしょ?」
七瀬の話はされたくないらしい。話を変えた。
二人の顔が、険しくなる。目は真剣みを帯び、殺気に近いものが部屋を覆い尽くす。アムベルは肩を震わせながら奥に引っ込んだ。
「危険は承知ですよ。扉を開いて一人だけの死者を引きずりだすことが難しいということも」
「……そう。誰を生き返らせたいわけ?」
八重にとってはただ、気になっただけの質問に過ぎなかった。
だが、千早はそうではなかったようで。
「……これ以上、あなたが知る権利はない」
さすがに喋り過ぎたのかと思ったのだろうか。千早は席を立って急いで部屋を出る。その後ろ姿を、八重が楽しそうに見ていた。
「……やっぱり、バカね」




