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時計仕掛けのアクターズ  作者: 卯月兎夢
黄泉帰りの扉
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不審者の行動

 パーカーのフードを目深に被り、サングラスにマスクを装備、こんなに暑いのに肌を出さないように長袖長ズボン。すらりとした高身長からおそらくは男と推定される。


 典型的な不審人物が、玄関の鍵を暴いているのだ。


 しゃがみこんでショルダーバッグから透明なケースを出した男は道具を取り出して鍵をいじる。


「これ、ピッキングツールだね。かなりの手練れだ」


 画面を凝視する悟が感心した声を出す。


「あんた、なんでそーゆーのには詳しいのよ」


「なんでだろーね。ほら、開いちゃった。セキュリティの見直しをお薦めするよ」


 事務所内部に侵入した男は、靴を脱いで辺りを物色しはじめる。まず標的となったのは七瀬のラップトップだ。男は電源を入れてキーボードをたたく。手袋をしているから指紋採取は望めなさそうだ。三神は舌打ちをする。


「まぁ、素人にしては慣れてるね」


「アイツ、なにしてるの?」


「さぁ。ま、でもなんか探してるっぽい」


 ここから男が操作するパソコン画面は見えない死角になっている。


 そして、男は着ているジャケットから出したUSBメモリを接続。数分後、それを抜き取ってラップトップをぶん投げた。音声は抽出されないため静かだが、相当の音がしたはずだ。


「うわ、七瀬に殺されるよアイツ。あの中に考え中のデザイン図も詰まってんのに!」


 前に間違ってデータを消してしまったら、めちゃくちゃ怒られた。


「まー、心臓部が壊れてなかったらデータ戻してあげるけどね。壊れてなかったら。このチョコうまっ」


 悟は脇に置いてあったチョコレート菓子を頬張る。画面の中の男は周囲を警戒しつつ、隣のデスクの書類をばらまきはじめた。


 それに続いて、古い型のパソコン、ペン、引き出しも開けてひっくり返した。ロッカーとテーブルをけとばし、近くにあったハサミでソファーを裂く。


 花瓶を落とし、カーテンを裂き、そして、ハサミを壁に向かって投げた。


「空き巣に見せかけたかったんだろうね」


 悟がぽつりとつぶやいた。


 男は気がすんだのか、肩を上下させながら、何もないまっさらなデスクの上に一枚のメモを置く。


 そして部屋の酷い状況を見渡したのち、玄関から出ていき、またピッキングの道具で鍵を閉める。

 男は階段を足早にかけおりて姿を消した。


「ねぇ、あんたこの男追跡できる?」


「なに言ってんの?僕はよくできたハッカーだよ?」


 言い終わらないうちに悟は目にも止まらぬ速さでキーボードを叩く。沢山のカメラ画像が他にも出現、そして、男の容姿、背丈、歩幅、歩き方、特徴をすべて洗い出してセンサーにかける。


 近辺のマップとカメラ映像を照らし合わせながら、悟は呆けた顔の三神を無視して男を探した。


「さと……」


「話しかけないで。姉貴はデスクの上のメモ用紙を確認してきて」


 気迫立つおとうとに気圧されて、三神は踵を返して散らかった事務所に小走りで向かう。


 デスクの上のメモ用紙を掴みとって内容を確認。


「……やばい、なんて読むの」


 国語、特に漢字を苦手とする三神には、難しい「黄昏時、明後日、犠牲」の全ての漢字が読めなかった。『犠牲』の次には何か書かれているのだが、インクがかすれて判読することができない。


「これ書いたやつ馬鹿なのかな。全然意味わかんないんだけど」


 メモの裏を見る。黒髪の女性が目を閉じて祈るイラストが描かれている。この商品売れるのだろうか。


 床に落ちた七瀬のラップトップを拾う。部品の一部がかけて、液晶にはヒビが入っている。電源ボタンを押すが、反応がない。


 悟の言うことでは、コンピューターの心臓部が破損していなければ直せるとのことだが、もし壊れていたら。七瀬の考えていた服のデザインのデータが消えなければいいのだが……。ラップトップを抱きしめて、三神は七瀬の椅子に腰かけ、ため息をついた。




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