復讐の夜
一応r-15設定にしてありますが、そんなに凄いやばい残酷表現は出ないかと。
ただ、血とか死体とか若干の暴力表現が出てくるので、苦手な方はお気をつけてください。
8月28日改稿しました。
話の流れはそんなに変わっていません。
駄文ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。
何故、ひとは死ぬのだろうか。
何故、自分は死に損ねたのだろうか。
───自問自答の末にあるのは、希望か、絶望か。
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「こちら三班。現在ターゲット、レベル三のターゲット、『緋狐』と交戦中」
黒の襤褸マントを羽織った男、(おそらくリーダーだろう)が、無線機の向こうの相手に話しかける。その応答を、回りの仲間たち四人に手で合図する。
残念ながら、その合図の意味を目の前の制服姿の少女は知らない。
「やれ。骨の髄まで粉々にしてしまえ」
男の命令と共に、四人の男たちは各々の武器を持って、か弱き少女に襲いかかった。
そのやり取りを、通りの廃ビルの上から驚異とも言える視力で見ていたものが一人。
「そろそろかなぁ……。八重ちゃん怒り始めるの」
声音からして男、彼はそう言ってにやりと口角をあげる。被っているフードから金髪が垣間見えた。耳に手を当てながら、ビルとビルの間をとてつもない跳躍力を使い、移動する。
「ハロー!八重ちゃん!あ、今はグッドイブニング?調子どう?そろそろ暴れていいよ?」
『そろそろ、限界よ……色々とね』
元気な青年の声とは裏腹に、疲れたような少女の声がノイズ混じりに聞こえてきた。それに混じって、金属と金属がぶつかり合うような音も。
「はーい。じゃあ、きっかり五分後に迎えに行くね」
少女が襲われているにも関わらず、青年はずいぶん呑気だ。
青年、七瀬は耳のインカムから手を離して腕時計を確認する。時刻は深夜の一時三十四分。迫り来る眠気と戦うべく、自分の頬を引っ張った。
▼▼▼
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
黒ずくめがナイフ───いや、人のものとは思えない己の鉤爪をむき出しにして少女に襲いかかる。
(───人狼かしら)
それを手持ちの傘で軽くいなし、その首筋に手刀を入れ気を失わせる。
間髪入れずにもうひとりが少女の大腿部を狙って発砲。だが、拳銃の弾は発砲音がしてから三秒後に弾丸は到達。
音を聞いてすぐに、少女は血のように赤い目を光らせ、今しがた気絶させた男を盾にする。弾が男の肩を貫通、そのまま少女の右手をかすった。
「くっ……」
少女───八重は、傘の先端を発砲した敵に向けて撃発。三つに分かれた特殊弾丸が、音を置き去りにして黒ずくめの腹に突き刺さる。
「傷、ついたわね?」
腹を押さえてくずおれる黒ずくめに、八重はにたりと笑い、後方と三時の方向にいた残りの黒ずくめに向かって───「【同調開始】」
同時に、残りの黒ずくめも腹を押さえて苦しみ出す。黒衣からは血が滲み出ていた。そして、その場に倒れて動かなくなる。
「……さて、あとはあんただけね」
リーダー格と思われる男にほほえむ。高みの見物で唯一無傷でいられた屈強な黒ずくめは、後ずさり。
「私の噂、知ってるわよね? 【緋狐】って呼んでるってことは」
「どうせ殺すんだけどさー……。私、あんたらに聞きたいことあったの」
八重は一歩、男に近寄る。
「ユリアを殺したの、あんたらよね? 防犯カメラに映ってたのは、あんたらでしょう?」
「……」
「沈黙は、正解と見ていい?」
八重の愛くるしい顔が、修羅のそれへと変わる。冷えるような気配が、男の首筋を舐める。
「死神の真似でもない真似事を、死に損ないがやってるんじゃないよ。……あんたらの都合で、なんでユリアを殺しやがった」
人間の魂は、死に損ねた者たちの傷を癒す。だから、死神を騙るものたちが、本来死ぬ予定のない者たちを殺して回る。
八重の友達も、その被害者だった。
「……死ねよ、偽物野郎」
八重が飛び出す、それと同時に、男は、黒衣の懐から、丸いもの───プラスチック爆弾を取り出した。
(かまうもんか)
八重は目をつむる。傘の先端を前に突き出す。
───閃光。瞼を介しても伝わる眩しさ。
「【同調───!!】」
▼▼▼
直後、大きな爆発音が聞こえた。驚いて音のした方を見やる。七瀬が待機しているところからニ百メートル程離れた辺りだ。そして、七瀬の横に何かが煙を上げながら落ちてきた。よくみると、それは車のタイヤの一部だった。焼け焦げて、ほぼ原型を留めていないが、まぁ、爆風に乗せられてここまで来たのだろう。
とはいえ、今、七瀬がいる所は地上から三十メートル程あるビルの屋上なのだが……。
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ちろちろと、火が廃墟街の一角を焦がしていた。破壊されたコンクリート。隆起したアスファルトに、原型をとどめていない、ひっくり返った車両。
男たちは、大量の血を流して死んでいた。肉体を中心に血だまりができつつあり、如何に酷い仕打ちを受けたかを物語っている。
「死んじゃった。偽者は治癒もままならずにこの程度で……。この程度の奴等にユリアは……」
そんななか、少女は唇をかんで悔しそうに言った。
あれだけの爆発があったというのに、彼女は無事にそこに立っていた。
それもそのはず。彼女は人間ではないのだから。
破れ衣服から見え隠れする白い腕、そこに蔓延る傷跡は、戦いの最中についたものではない。もっと前についたもの。それを、もう片方の手で鷲掴みにして隠す。
「また魔法を使ったの?八重ちゃんはやりすぎなんだよ……。ユリアちゃんを殺した奴らがこいつらだとしても、もどきとはいえ、裏の組織が今どうなってるか聞きたかったのに」
振り向くと、金髪にペリドット色の瞳を持った美形の青年が、手を振りながら近づいてきた。【緋狐】こと八重は、少し顔の筋肉を緩めて、七瀬の胸に体を埋めた。
「こいつらよ、間違いなく。何か文句でも?」
キッと赤い瞳を向けられ、七瀬は何も、と言って目を伏せた。
「ところで、七瀬ぇ……あんた、来るの遅いわよ。眠い」
自分のパーカーに付着、そこから徐々に広がっていく赤に気がついて、ぎょっとする。
「うわっ、血塗れじゃん!もうフラッフラなんじゃないの!?歩ける!?」
だが、その血は八重のものではなく、今倒れている男たちのものである。そんなことは、例え見ていたと言えども、彼は知らなかった。心配そうにおろおろしていると、少女はあきれたように息を吐き出す。
「私の血じゃないわ。眠くって無理だからあんたを呼んだのよ。家まで連れて帰って……あ、変なことしたらただじゃおかないから」
別に少女が怪我をしたわけではないと知り、七瀬は内心ホッとする。そんな胸中を悟ってか、八重は右手を、流血する右手を気づかれないように、自然にそっと自分の服で雑に拭った。傷口から、新たに血が滲む。
「【葬送】を」
七瀬がそう言うと、八重は少し顔をしかめ、七瀬からそっと離れて、勝手にすればと言った。
七瀬は手を合わせ、目を閉じる。そして、集中。
「…【葬送】。冥府の主の名において、我、ここにその御霊を送り届けし……」
死神に与えられた特権、【葬送】。死に損ないの魂を、自然に還すための儀式のようなものだ。
襤褸の男たちの躯は砂のような粒子になって、風に乗って消えていく。
「……本当は、救済なんてしてほしくない」
八重の言葉に、七瀬は目をゆっくりと開く。
「どんな極悪なアンデッドでも、救われるべきだよ、きっと」
「……そう、ね」
ねむい。と言って八重は目をこする。その背後から、七瀬は八重を担ぎ上げた。
「なにすんのよ……」
「タクシーが必要でしょ?」
美形の笑みを向けられ、八重はその眩しさに顔を背けた。真っ赤な顔を見たら、きっとこいつはまた付け上がる。
「……家に帰って、変なことしたらただじゃおかない。警察に連絡して、一生臭い飯でも食ってなさい」
分かってるってば、と言って、七瀬は笑う。首に八重の手が回り、実質お姫様抱っこの状態に七瀬は内心悶えた。いや、確かにお姫様抱っこっぽく担いだけど!
「あ、のー。八重ちゃん。この格好はちょっと」
「すぴ……」
彼女はとっくに夢の中だった。まぁ、あれだけの力を使ったのだ。かなり疲弊しているはずだった。
「……おやすみ」
七瀬の悶えの内容をここに記すのは、余りに不粋な気がするが、要約していうと、七瀬は八重が好きである。まぁ、好きな女の子をお姫様抱っこしているとなると、やはり心が落ち着かなくなるのが男心と言うものである。ロリコンではない。決して。そう七瀬は心の声で言った。
遠くから、爆発の知らせを受けたであろう警察が、サイレンを響かせて近づいてくる音がする。七瀬は我に返って、八重を連れてその場を足早に離れた。