後日談3話 カルタ 野望と企て
計画は順調そのものだ。
まだ誰も僕の思い描く野望には気が付いていないはずだ。
きっとあのドゲドー殿ですら。
「ふふふ。
僕の思い描く未来の実現は……そう遠く無いだろうな。
ふふふふ。」
ろうそくの明かりだけが灯る薄暗い部屋の中、ドゲドーに聖人狐耳君と呼ばれているカルタが、一人で薄く笑っている。
その目には強い意志が宿っている事が分かる。
「おっと、いけないいけない。今はもっと知識を蓄えないと。
……ここに集まったタネ達を育てる為に……ね。
ふふふふ。」
カルタはニヤつく顔を押さえ、素面へと戻し、読書へと戻っていく。
***
「おはようございます。ミレーヌさん」
「これはカルタ殿。おはようございます。」
「もう聞き飽きてしまったかもしれませんが、僕に殿なんて付ける必要はありませんよ。
かえって恐縮してしまいますので、どうぞ呼び捨ててください。」
「こちらこそ聞き飽きてしまったかもしれませんが、ご主人様が君付けで呼ばれる方に対して呼び捨てなど、とてもできません。」
そう言い合ってから。お互い笑顔を向ける。
このやり取りはミレーヌさんと、朝に顔を合わせた時の一連の挨拶のような物だ。
ミレーヌさんはメリザンドさんが朝昼逆転等、変則的な動きをする事があり、それにつられているせいか決まった時間に動くことは無い。
逆に僕は毎日定時に動くので、僕とミレーヌさんは朝はたまにしか顔を合わせない。
なので、たまに顔を合わせた際にはこのようなやり取りをする。
昼以降は顔を合わせる事も多いので、その時にはこのような面倒な事はしない。朝だけだ。
こういった特別なやり取りもある種の親睦を深める為の道具といっても良いだろう。
「おー。カルターおはよー。」
「おはようございます。メリザンドさん。
……朝早くから珍しいですね。今日は一雨来るんでしょうか。」
「何言ってるの?
この天気で雨が降るわけないじゃない。」
フンと胸をはるメリザンド。その姿に呆れるミレーヌ。
「皮肉よ……バカね。」
「なっ!? うそ!?」
動揺するメリザンドの姿に思わず軽く失笑する。
「ふふふ。
ええ、すみません。軽い皮肉です」
少し怒る様なメリザンドと、それを諌めるミレーヌ。
メリザンドさんはタネの一人だけあって頭が足りないな。
まぁ……その分動かしやすくはあるか。
この2人とは仲を良くしておくに越したことはない。
多分僕が戦っても1対1ならわからないが2人が一緒になると……まず勝てない程に強い。
2人がタッグを組んだ状態だと、きっとタネが3人同時にかかっても勝てないだろう。
彼女達の単独時とタッグ時の戦績や活躍とそれにかかる所要時間、損傷の具合などから考えればすぐにわかる。
僕の計画の為においても、手元においていた方が間違いなく良い。
「そうだ! カルタっ!
今日はご主人様が来るけど、前みたいにご主人様を独り占めするんじゃないよっ!
……もし今日もやったら……引っ掻くからね!」
と、メリザンドが爪を伸ばして脅しをかけてくる。
小さく手を前に出して怯えて見せる。
チラリとミレーヌを見ると、止めようか止めまいかを悩んでいるような仕草をしている。
という事は、彼女も同じ気持ちと言う事だろう。
であれば、それには沿うような回答をしておいた方が心象は良いだろう。
「ええ。わかりました。
メリザンドさんの爪で引っかかれるのは怖いですからね。」
ニヤリと笑い、胸を張ってみせるメリザンド。
そしてどこかそわそわと嬉しそうなミレーヌ。
あまりに素直な反応で鼻がなりそうになるのを堪えつつ言葉を続ける。
「ただ、すみませんがドゲドー殿は少しお借りしますよ。
先日ドゲドー殿をお借りしたのも、ドゲド―殿が今進めておられる施設建造の為の打ち合わせなのですから……ドゲドー殿の願いを基にしての動きなので、少しばかりお借りするのはどうかご容赦くださいね。」
『ドゲドー殿が頼むから仕方なくしている』という事を過剰に伝えておく。
「そうよメリーザ。あまりご主人様の邪魔をしてはダメよ。」
「……邪魔したら睨んでくれるかな?」
どことなくワクワクしているような顔で問い掛けるメリザンド。
「嫌われると思う」
「それはヤダーーーーっ!!」
二人はしぶしぶ了承し自室にだろうか帰って行った。
なんともわかりやすく動かしやすい二人だろう。
彼女達には是非とも計画の一端を担ってもらおう。
思わず顔がにやける。
さぁ今日はドゲドー殿が来たら、要の計画を押し通し、承認をもらわなければな。
***
「ようこそドゲドー殿。」
「おう、聖人狐耳君。久しぶり。」
「毎度ですが、その聖人云々という呼び名は何とかなりませんか?」
「なんともならんなぁ。」
苦笑いをしながら部屋へと案内し、部屋のテーブルに図面を広げて話を始める。
「このような形でいかがでしょうか?
この形であれば、男湯、女湯、混浴。
それだけではなく、小規模の家族湯などにも対応できます。
そして、脱衣所と宴会場の距離を少し持たせました。
宿泊をされるような方のコテージは周辺に点在させる形で順次建造をする形です。」
ドゲドー殿は説明を聞いてはうんうん。と頷いている。
僕はその様子から自分の計画を差し込めると判断し話を追加して続ける。
「それと、この区画にすこし大き目の2階建ての建物と空地を作りたいと思っています。」
「ん? その意図は?」
「多目的スペースです。
大勢で雑魚寝が出来たり集会が出来たりします。
こういった建物が一つあるだけで意外と有用だと思いまして。
また空地がある事で、お祭りのような行事も行えるかと。」
「うん。いいんじゃない?
いや、いいじゃない! やろうやろう!」
「では、これは承認頂いたという事で進めますね。」
僕は内心で喜ぶ。
これで僕の計画が大きく進められる。
その後は少しだけ話を詰める。
「ではドゲドー殿、今日はこれくらいにしておきましょうか。
メリザンドさんにあまり独占するなと言われておりますので。」
「ん。ありがとう。じゃあ引き続き温泉施設の建造を宜しくねっ!
混浴だけじゃなくて家族風呂まで思いつくとか聖人狐耳くんは流石だわ!
……に比べて、あんのバカ猫………お仕置きだな。うへへ。」
「それでは、次にお越し頂いた時には予算等も全体を見通せる形で考えておきますので、またお時間をください。」
「うんうん。いいよー。
まぁ、金は幾らになっても気にしないけどね。」
「そこは気にしてください。倹約や節約は一日にしてならずです。」
「へーい。んじゃー。行ってきます!」
「いってらっしゃい。」
ドゲドー殿を見送り、僕は承認のおりた2階建ての建物予定地を見る。
思わず笑いがこぼれる。
「……ふふふふ。いいぞ。
これで自然な形で労働力と予算が計上できる。
これさえできればタネ達にミレーヌさん達主導の戦闘訓練をさせたり、教育を施す『学校』を作れる。
野望成就にまた一歩前進だ!」
……僕の野望は、
災厄の種達がもっともっと強く、そして賢くなり。
世に必要とされる存在へと押し上げる事。
その野望の達成は、そう遠くない。
後日談もお付き合いを有難うございました。
別作品として、サラの外伝を投稿しました。
もしよろしければドゲドーで検索くださいませませ。
サラ外伝……幼女のイラスト入りでっせ(罠)




