妹が出来ていなくない話
時間は有限である、限りあるからもったいなく思う。
お金もおんなじ、限りなくあれば粗末に扱うでしょう?
半覚醒の俺の寝ぼけた耳に叩きつけるような目覚まし音、その発生源はつい最近出来た機械系の妹の左足の付け根にあるアラーム機能だ。
俺はセットした覚えはないが。
「ブラザー! あっ、朝でぇっ、朝で……あーっ!! もう! うるさいですわたし! いつアラームをセットしたのですか!?」
六番目の妹、ルーソラは自分の内側に文句を言いながら俺の頭にしがみついて二度寝を決めようとする。
当然うるさいし、暑苦しい。
というかルーソラもセットした覚えがないということはあれか、この前、お仕置きに一番磁力の強い磁石を四六時中いじめ倒したから近くの電子機器に影響がでたのか。
「いえ、ブラザー、わたしは電子機器なんて一ミリも使われていませんので磁石なんて敵ではありません」
「ネオジム」
「ひゃひいっ! ブラザー! そんなもんポイしてくださいモード起動します!?」
磁石を口元に持っていくと嫌がる口振りとは逆に、ルーソラは磁石から目が離せなくなる。
目元は金属系で出来ているらしい。
それはそうとこんなに朝早くに目覚めても今日は特にやる事はない。
昨日空が落ちてきてからここ三日やる事がなくなってしまったからだ。
急に開いたスケジュールの狭間に足を滑らせ、奈落のそこでサンドイッチとスコーンとおいしい紅茶でティータイム。
そんな昼下がりに俺は背を向けて寝たい、切実に。
あーらよっと。
「ブラザー!!!! ギャアアアアアアアアア!! 歓喜大爆発自重自爆モードを起動します」
たまや……ってそんな店は昨今見ねえ、させるか、という意味でとりあえずルーソラを抱きしめる。
「は、離れてくださいブラザー、爆発に巻き込まれたら約101パーセントでお茶の間に惨劇が走ります、ついでに今、お風呂が沸きました」
「ちょうどいいな、朝シャワーと洒落込もうぜ」
「機械系に水はいけないと思います」
「耐水性はあるだろ?」
というか何故一緒に入るの前提なんだ?
まあまあな古代文明。
とりあえず爆発してる最中のルーソラと共に朝シャワーを浴びに近くの温泉まで行くことになった。
もちろん混浴ではないがルーソラは機械なので問題なし。
だからと言って俺の入浴シーンを一々見せるワケねえだろ? 何言ってるんだ俺、前回も言ったような……前回ってなんだよ。
「朝から温泉でご飯とは贅沢ですね、ブラザー」
「お前は飯食える系のロボットか?」
「いえ、ロボットではなくアンドロイドです、そんなに変わりませんが」
「変わるだろ!! そこの雰囲気は一番大切な所だろうが!!」
これだから最近のロボットは、と言える年にはなりたくねえよな。
温かいジェットバスで肩と腰と手首をほぐしながら心底そう思う。
それはそうとしてルーソラは人工衛星を介して宇宙を見上げる事が出来るらしい。
「兄さん、ここって混浴らしいわよ」
「じゃあ問題ないな」
いつの間にか来ていた二番目の妹のしいつが髪をまとめてタオルを頭に巻いたスタイルで隣に寄り添ってきた。
ジェットバスは一人用なのに隣に行かずに俺のスペースに身をねじ込んで来たので狭さがMt.富士。
いつの間に混浴になったのか、定かじゃないが、家族と風呂に入るのは特に問題ないだろう。
それにしても、しいつの体はすごい。柔らかい。噛んで道端にはきたてのガムか、練りに練ったケシカスのようだ。
肌は北方、髪は空、今何時だっけ?
壁についている日時計を確認すると空の影が二つ。
見上げれば輝く星、今は朝食。つまりはキラリんスターズ邂逅。
「ブラザー、ヤバめです、逃げません?」
「急いであがると風邪引くぞ、百数えるまであがるなよ」
「わたしは百年入ったわ、先に行くわね」
「上がったらよく搾れよ」
ルーソラと浴槽床の鉄格子を磁石で固定して、しいつを見送る。
ただでさえ柔らかいしいつの体は柔らかさコンテストで低反発マットに勝ち、逆恨みで大会後に刺される。
血で汚れるからやめておけ。
それはそうと空が堕ちてきたのに空があるという矛盾を俺は許せなかったりする。
発車スタンバイ、車輪のついていない自動車のキーを回そう。
「ブラザー、わたしに翼というロケットがあります、自動車よりもわたしをご利用下さい」
「うるせえ、人類の努力の結晶をなめるな!!!」
「わたしもその結晶の一欠片です!!!」
「……それもそうだな」
危なかった、赤い、緑だ。
ロケットを二の腕の前に出しながらルーソラは叡智のビーとなるとついでに二の腕から先が爆発して、ロケットパンチよろしくお願いいたします。
「結局車が一番って事だな」
「ブラザー、ごめんなさい、この世の磁石全てにわたしは牙を剥き出しにして叫びたいアンドロイドとなります」
「解約するか?それとも乗るか?」
「大波小浪で流れるのは海亀の赤子で十分に二分と観測結果が出ました」
専門家の言うことはよくわからん、もっと一般人にもわかるように言ってくれよ。
まあそういう奴に限ってわかろうと努力しねえが。
何もないに飛び立とうと始動キーをひねりにひねろうとしたところで辺りに爆音響きわたった。
隕石と地球シールドバリアの衝突の音だ。
この世界が他の多重世界と融合を起こした際に導入した様々な技術の粋で、その性能は鋭敏にして、鬼畜。
よく考えなくても隕石なんて花火だな。
「ブラザー、今、人類ってすげーって言いたそうですね」
「別にそうでもないからルーソラに譲ってやるよ」
「人類ってすげーっ!!!! ブラザーって太っ腹ああああああ!!!!」
「公共施設で騒ぐんじゃねぇよ、合成磁石で人類ってすげー!? にするぞ?」
「テンション張りすぎました、すいません、感情回路のヒューズも3つ飛びました」
だから言わんこっちゃないらを、ん?そんな事より何か聞こえて来たな、どこからだ?
「あだだだだだだ! なんじゃこりゃ!! 目下に兄貴、眼前に何かがあるじゃねえか! ふざけるのも大概にしやがれ! せっかく母星が爆発してお役目がなくなったから妹っていう繋がりを心待ちにしてたのによお! おらあ!! 通せや!! 通せって! 通して、通し……兄貴助けてええええええ!」
きらりんスターズは人型で、しかも泣いていた。
というかスターズって言っているくせに一つだな。
「ブラザー、あの隕石、解析によると人ですよ」
「いいや、人じゃねえ妹だ、人類の粋も星から出たらちっぽけだな」
「くっ、でもまだ人は進化の歩みを止めません自己学習プログラムを強化しますです」
「反省するのはいい事だ」
とりあえずは今にも人類の技術の粋を粉砕しそうな光る妹の名前を考えなくちゃあな。
「うえええええええええええんん!!!! わあああああああああんん!!」
だ、駄目だ、声がうるさすぎて捗らない。
さすが惑星規模の号泣、ついでとばかりに声で周辺のビルをなぎ倒してドミノしてるだけはある。
と、乱されていたら、浴場のドアをスライドする音が聞こえてきた。
見ればそこには四番目の妹のですがいた。
「なんや、あんちゃんも朝風呂かいな、ってなんやあの星!?あれもまさかあんちゃんの妹かいな!?ということはまたうちの妹が増えてまうなあ、おこづかいとかどないしよ、っじゃなくて!墜落しとるやん!壁にぎゅーってなっとるやん!何とかせな、あんちゃん、名前なんかつけとる暇ないで」
タオルを体に巻いていないですは素っ裸だが、驚きのエロスのなさ、健康的とは言いがたい、確実に言えるのは毎日しっかり飯を作ってやらなければ。
「うちの蘇生は背中でプロペラ、音がうるさいならちょうどここは温泉なんやからそこに潜ればましになるで」
「スイミングスクールは悪の組織だぞ?」
「人なんて気にしなくてええ、湯船のマナーより妹の命やろ?」
「そう、だな、社会的に死んでも俺の命はリビングに置きっぱなしだ」
ですが手に持った大火力着火マンで俺の覚悟は真っ青になる。
「ルーソラ、ガソリンは?」
「ハイオク満タンモードに切り替えました、まさかブラザー、スカイハイですか?空の山は既に落ちているのに」
「それでも入れば秘湯はある、行くぜ、ついてくるか?」
ここから先の領域は防空壕から尻が出ている、俺の身は守れるが、妹は守られない。
はっきり言って危険だ、だが、村長の石像はみりん。
鍵を燃やす。
そして思いっきり地球シールドを突き抜ける。
あの空で泣いている妹の為に。
「ブラザー、こういう時はあれです……すみません、データベースに言葉が載っていなかったので代替の言葉で失礼します、ランドセルはみんなで背負うもの」
「そうやで、小学校は卒業してもランドセルはみんなで背負えるんや、やから……うちらもつれてってーなっ!」
「……ラッパは吹かれたな」
二人と一台、裸でがっぷり組み合って空を見下げ果て、鍵に火をつけた、するすると燃えて俺達は飛び立つ。
大気の壁に当たり、空の露天風呂に飛び込みを仕掛けた。
そこにあったのは光る空、涙、シールド、そして妹。
近づくシールドと妹の泣き顔の前で俺は思い付いた。
「お前の名前はハウトだああっっ!!」
「兄貴いいいいい!!」
叫び名前を張り付けたと同時に俺はシールドにぶち当たる。
そしてぶち破る。
最後に八番目の妹、ハウトにぶち当たり、昨日の空のように落ちていった。
「ということがあったんすねえ、いやあ、大変でした、死にかけましたっす、なんせナモーはあの時あにさんの影の中にいたんすから、命からがらって感じっす、でもでも、あにさんと一緒だったから全然怖くなかったっす、これが愛の力っすう~いやん」
「そんな事はいいから手を動かしなさい、というかあなた誰?」
「しいつあねさんひどいっす! 七番目の妹のナモーっすよ! 確かに行間で妹になって本文には影も形も出なかったっすけどそれは朝だったからあにさんの陰に入って寝てたからっす、ナモーは吸血鬼的な奴っすから」
ハウトの影響で壊れた家の片づけをして、俺は一つ息を吐く。
結局あの後、シールドの弁償費と温泉の出禁を同時に食らって表を出歩くと犯罪者を見る目で見られるようになってしまって、しかも家も壊れた、散々な目にあった。
増え続ける妹、増える罰金、ついに俺の貯金はほとんど尽きてしまった。
ついでに警察的組織からの監視をつけられたようで、今も雲の上から俺を見る目を感じる。
困った、困り果てた、果ての果てまで行くしかないか。
という事で俺達は辺境に引っ越しをする事になった。
世話になったこの街奴らはみんな手を義手に付け替えたのでもう俺はこの街で金を作る事は出来ないしな。
「ごめんな、俺のせいで大変な事になった、もし、もしこの街に残りたいというなら俺は止めない、止めないぞいもみ」
「ぬっ! っ! ぶほおっ! げほっげほっ、いきなり話を振らないでほしい兄様、てっきりセリフがないモノと思って油断していたぞ」
「武人たるものいかなる時も油断はしない方がいいぞ」
「そうだな、ありがとう兄様、これからもまだまだ精進していく、そしてわたしは兄様について行く」
「そうか」
いもみは側頭部をバッサリ言った。
強いな、俺の妹は。
さて、もう一息、荷造りを続けよう、そして新しい場所に辿り着くんだ。
俺には心強い妹達がいる、困難があろうと乗り越えられるさ。
行間を読んでナモーとの出会いを自分の中で保管しましょう。
もしよかったら描いて投稿してもいいのでは?