7.日本の花粉症、中国の「花粉过敏」
5月も半ばを過ぎたというのに、いまだに鼻水が止まりません。鼻をかみすぎて、鼻のまわりがひどいことになっています。季節外れの真っ赤なお鼻のトナカイさんになってしまいましたが、化粧で隠すのも辛い状況です。
清水の舞台から飛び降りるつもりで買ったSK◯も使えません。ひりひりしみすぎて、メンソレータムを顔に塗りたくったかと思うくらいの激痛でのたうちまわりました。コスメマニアの友人に、これが染みるとか嘘でしょとびっくりされました。
そんなこんなで、毎日すっぴんで過ごしています。外出するときは大型の白いマスクを愛用しています。先生はそんな私を見て唖然としていましたが、そういえば日本人って『口罩』(=マスク)好きですよねと納得しておりました。
中国で大きな白いマスクをつけて歩くのは大概日本人なんだとか。そもそも中国ではマスクを使う人は少なく、使う場合も布製でカラフルなのが主流だそうです。
どうでもいいですが、『口罩』はマスクです。『口袋』はポケットでして、いつも私はこの単語を取り違えて先生にツッコミを入れられています。
箱ティッシュ片手に鼻をずぴずぴさせながら、中国に行けば花粉症から逃れられますかねえと話を振ると、先生はちょっぴり困ったように首を振りました。
「日本の花粉症は、杉やヒノキが原因ですよね。実は中国にも花粉症ってあるんですよ。『花粉过敏』って言うんです。『过敏』というのは、アレルギーという意味ですから、お薬のアレルギーや食べ物のアレルギーの時にも使う単語ですよ」
なんということでしょう、中国にも花粉症は存在するというのです。絶望です。
「中国は街路樹として、柳やアカシアやポプラの木が植えてあるのですが、それが春になると一斉に綿毛を飛ばすんです。この綿毛のことを中国では『柳絮』っていうんです。春になると雪みたいに綿毛が舞っていて、それがくしゃみと鼻水を誘発するんですよね……」
想像してみてください。春のうららかな昼下がり、優しい風に誘われてふわふわと舞う白い白い綿毛。小学生の頃に真剣に探したケセランパサランのような大量の綿毛に包まれると、そこはもう夢心地。くしゃみと鼻水と目のかゆみがあなたに訪れるのです。
って、最悪じゃないですか! 先生は雪のようにと詩的に表現してくれましたけど、一気に綿ぼこりか、換毛期の犬や猫の抜け毛レベルに思えてきました。
ちょっと調べてみましたら、この『柳絮』という単語はそのまま日本語にもあるんですね。『柳絮』と読むそうで、意味は同じく白い綿毛の付いた柳の種子のことだそうです。これが春になると雪のように飛び漂うことから、何と春の季語だそうです。
そして日本でも北海道あたりでは、春になるとアカシアやポプラが種子を飛ばす光景が見られるようです。いやはや勉強になりました。
杉花粉もヒノキ花粉も、見えなくてもあれだけイライラするのです。それが綿毛としてふわふわ目の前で舞っていたら、それはそれで辛いですよね。可視化されるなんて、耐えられません。とはいえ、『柳絮』で検索しますと、雅な故事などが出てきますので、昔はアレルギーとは関係のない存在だったんでしょう。
「それに中国は今大気汚染がひどいですから。花粉症にならなくても、体には良くないでしょうね。PM2.5の数値が、冬場のひどいときなんか600を超えていましたから」
600って……。日本だと40を超えたら注意喚起するのに、桁が違います。花粉症にならなくても、別の病気になりそうです。それにしても花粉症の私は、どこに行けば春に心安らかに過ごせるのでしょうか。日本人が住みやすくて、花粉症がない国はありませんか?