18.「小米」とお米
日本語と中国語、漢字が使われていて互換性がある分、時として失敗することがあります。中国語が話せずとも、メールの文章を直訳すれば大体の意味は何となくわかるものなのですが、時としてそれが思わぬ失敗を招くこととなるのです。
以前、友人から「小さいお米があるんだけど、良かったらどう?」と声をかけられたことがあります。貰えるものはなんでも嬉しい性分ですから、もちろんウェルカムです。小さいお米っていうから、規格外品かな? まあ古米や古々米でも調理の仕方によっては問題ないし、家計が助かるわぁと思っておりました。
当日、どでかく「有機小米」と書かれた布袋を2つぶら下げて、友人が訪ねてきました。総量10キロ。思っていた以上の量にこちらもびっくりです。なんだか持ち上げた感じも、想定していたよりもみっちり。ちょっとした凶器です。ブラックジャック……なんてちょっと思ったことは内緒です。
「いやあ日本人はさ、あんまり小さいお米って食べないでしょ? もらってくれて嬉しいわあ」
「う……うん? お米はみんな食べると思うけれど……」
何でしょう、この頂いた袋を開ける前からすでに漂う不穏な空気は。私は生粋の日本人のはずですが、一体何を貰ってしまったのでしょうか。その日、友人が帰宅した直後に袋の中を確認した私は思わず叫んでしまいました。そうもうお分かりの方もいらっしゃるでしょうが、袋の中身は米ではありませんでした。まさかの大量の粟だったのです。
そう、『小米(xiao mi/シャオミイ)』は決して『小的米(xiaode mi/シャオダミイ)』(小さいお米)と同義語ではないのです。「的」はしょっちゅう省略されますから、勝手に今回もそうだと思い込んだのが失敗の原因です。ちなみに普通に食べる白米のことは、中国では『大米(da mi/ダアミイ)』と呼ばれています。
みっちりと5キロずつ詰め込まれた粟は、まさに鳥のエサ状態(粟を作ってくださる農家さま、粟がお好きな皆様不快な表現で申し訳ありません)でした。うっかり横倒しにしてしまったので、布袋の口からさらさらと黄色い砂のように粟が溢れてきます。まさにカオス。
思わず家族にメールを打ちました。
「もらった米の中身、米じゃなかった! 粟だった! 黄色い!」
「へえ、栗もらったの。黄色いって、もう剥いてあるの?」
この鳥頭め! 携帯を私が思わず投げつけそうになったのは言うまでもありません。正直舌打ちしたことは認めます。あまりの量と、粟という未知の食材に私の心はパニックです。友人に声をかけますが、みんな一瞬固まります。
「え、粟……? ごめん、うち鳥とか飼ってないし……」
「ですよねー」
「お米に混ぜて食べたら? 雑穀は身体にいいよ?」
「10キロもあるの……」
「うわあ……」
ちなみにネットでレシピを拾ってみて、粟だけで作るお粥も作ってみました。と言いますのも、中国ではこの粟だけで作る『小米粥(xiao mi zhou/シャオミイジョウ)』はとてもメジャーな朝御飯なのです。味もさっぱりとして美味しいのですが、いかんせんもともとの粟の量が多いのです。計量カップ2分の1カップの粟に対して、水は6カップも入ります。まったく減りません。
結局近所の中国の方にお譲りすることになりました。食材が無駄にならずに一安心。今度は人から何かをいただく前に、もう少しきちんと確認しようと思った出来事なのでした。