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永遠の初心者と学ぶ、試験に出ない中国語  作者: 石河 翠@11/12「縁談広告。お飾りの妻を募集いたします」


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13.七夕とホストクラブ

 本日は七夕ですね。私が住んでいる場所では、織姫と彦星は無事に1年に1度のデートを満喫できそうです。雨が降ると、かささぎがとんできて橋の代わりになってくれるんでしたよね。うーん、あんな華奢な鳥を全力で踏んじゃうと、即死しそうで怖いですね。稲葉の白兎が橋にした、サメの方が丈夫そう。でも橋にしたことがバレたら皮を剥がれるという拷問が待っていますから、やっぱりパスですね。


 まあそういうわけで、近所のスーパーも商店街もファミレスも、どこに行っても入り口に笹が飾ってあるのです。スーパーでは、短冊も配布されていました。なんだかクリスマスと勘違いしている短冊が多くて微笑ましい。ところがこの七夕、やはり日本人以外が見るととても奇妙に見えるようです。


「石河さん、あちこちに笹が飾ってありますけれど何です?」


 先生が見せてくれたのはスマホの画面。撮られた写真には、可愛らしい文字で、「プリキュアになりたい」と書いてあります。


「『七夕(qixi)』だから、お願い事を書いて吊るしているんです。それは、たぶん幼稚園くらいのお子さんが書いた短冊ですね。ひらがなで、大きくなったら『光之(guangzhi)美少女(meishaonu)』(=プリキュア)になりたいと書いてますね。これは、日本の女の子に人気の『(xiao)魔仙(moxian)』(=魔女っ娘、女の子の変身もの)のアニメですよ」


 そう、中国語でプリキュアは『光之(guangzhi)美少女(meishaonu)』と言うんです。中国でも『美少女戦士セーラームーン』がかなり人気がありまして、『美少女(meishaonu)战士(zhanshi)』という名前で売れています。おそらくプリキュアも、その派生系なのではないかと予想しています。(ただし『淘宝(taobao)』という中国の有名ネットショップで『光之(guangzhi)美少女(meisgaonu)』で調べると、18禁なグッズが検索されることも多いので、要注意です)


 さて、私の答えに先生はびっくりしたようで、ぽかんとしています。プリキュアになりたいとか、変な願い事かしら?


「ええ?! 何で『七夕(qixi)』で将来なりたいものを書くんです? 全然関係ないですよね?!」


 ………。端午節に引き続き、どうやら中国の『七夕(qixi)』と日本の『七夕(たなばた)』は、これまた全然違うようです。


「中国の『七夕(qixi)』は、今ではチャイニーズバレンタインデーと言って、男性から女性にプレゼントを渡したりします。街中には花束の売り子さんもあふれますね。この時期に合わせて、プレゼント商戦もすごいですよ。それに当日は、カップルがどれだけ長くキスをできるかなんていうキスの持久戦イベントなんかもあったりしますし、あんまり家族で楽しむイベントではないですねえ」


 いやあ、日本のバレンタインデーに負けず劣らず気合の入ったイベントのようです。陰暦に合わせてやるので、イベントは真夏の8月に、ビーチなんかで開催されるのだとか。七夕にかこつけてこんなことになっているとは、織姫も彦星も夢にも思っていないでしょうね。それにしても、イベント参加者が全員美男美女ならいいけど、そうじゃない場合はちょっと見ていて微妙かもしれません……(失礼いたしました)


「ちなみにかなり昔の時代には、機織りがうまくなりたい女の子が織姫にあやかって『七夕(qixi)』をお祝いしていたそうですが、もう今は流行らないですね。機織りなんて必要ない時代ですから」


 ああそういえば、織姫は機織りの名人でしたね。それが彦星と結婚してから、いちゃいちゃしまくってお仕事をおろそかにしたから、天帝に怒られて別居する羽目になったんでしたよね。それじゃあ今は織姫は何してるのでしょうか。もしかして人間国宝的にすごい織物をつくっているのでしょうか。それとももしかしたら、工場を建てて織物を機械で大量生産しているかもしれません。


「そういえば、彦星も働いていましたよね。牛飼いかなにかだったと思うんですけど、彼にあやかった行事はあるんですか?」


 確か彦星の別名は牽牛(けんぎゅう)とも言ったよなあ……なんて考える私を放置して、先生はニヤニヤしながら何故か手元のスマホを操作し始めました。しばらくして、私にスマホの画面を見せてくれましたが、そこには歌舞伎町のホストクラブの広告が……。え?! 先生、こういうのお好きなんですか?!


「石河さん、彦星にまつわるイベントと言えばシャンパンタワーですよ! それからピンドンコールも外せませんね」


 うふふふと笑う先生。一体どういうことでしょう?!


「中国語では、彦星のことは『牛郎(niulang)』と言うんです。でも最近では、『牛郎(niulang)』と言うと、ホストのことを意味するんですよ〜。ホストクラブのことは、『牛郎(niulang)(dian)』ですね。だから、『牛郎(niulang)』のイベントと言えば、大人の遊びですよ」


 ちなみに先生いわく、中国のホストクラブは韓国人男性がホストのことが多いのだとか。以前におちらのエッセイで出てきた『(xiao)鮮肉(xianrou)』ももともとは韓国人のイケメン芸能人を指す言葉だったそうで、中国人女性にとって、韓国人男性といえばイケメンというイメージなんだそうです。ほほう、なるほど〜。


 「私の知識は、韓国ドラマの影響ですからね。本当に行ったことはありませんよ」


 ……さあ、それはどうかな? ちなみに石河もホストクラブに行ったことはありません。本当ですよ、ショーウインドウ内のホストの写真見てたら、速攻営業に来るんですもん。ビビって逃げましたわ。


 というわけで、どうやら最近の彦星は、昼間は牛飼い、夜はホストという二足のわらじを履いているようです。それにしても既婚者なのに大丈夫でしょうか。天帝がさらにお怒りになって、1年に1回の織姫との逢瀬すら禁止になりそうです。

第14話で出てきた中国語


『七夕』(qi xi/チーシー)=たなばた

『光之美少女』(guang zhi mei shao nu/グワンジーメイシャオニウ)=プリキュア

『美少女战士』(mei shao nu zhan shi/メイシャオニウジャンシ)=美少女戦士セーラームーン

『小魔仙』(xiao mo xian/シャオモーシェン)=魔女っ娘、女の子向け返信もの

『淘宝』(tao bao/タオバオ)=中国で大人気の、楽天のようなサイト

『牛郎』(niu lang/ニウラン)=彦星のこと。最近はホストのことを指す

『牛郎店』(niu lang dian/ニウランディエン)=ホストクラブ

『小鮮肉』(xiao xian rou/シャオシェンロウ)=もとは韓国人のイケメン芸能人を指す。最近は、健康的なピチピチの若い年下の男の子を指す。詳しくは第5話を参照ください。


カタカナで記載している発音は、作者にはこう聞こえるという音です。実際の発音とは乖離がある場合があります。あらかじめご了承ください。

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