12.こどもの日と「端午節」とちまき
たまには時事ネタをいれましょう。中国では、今年は6月9日から11日までの3日間が『端午節』という祝日でした。いや確かに中国在住の友人の『微信』(=中国版LINEのようなもの。中国ではLINEやFacebookは規制を受けていて、基本的にアクセスできません)を見ていて、ことごとくみんな旅行やイベントに参加しているなあとは思ったんですよ。あちらは三連休だったんですね。
「今年は」というのは、中国では陰暦を採用しているため毎年法定休日の日付が変わるためです。したがって、1年の法定休日の正式日程は毎年恒例の政府発表を待たねばなりません。大体予想通りの日程になることが多いですが、たまに国民の予想が外れることもあり(例えば連休になるだろうと思ったら飛び石連休になっていたなど)、結婚式のお客様が来れなくなって阿鼻叫喚と言った光景も見られるようです。そういうニュースは、昨年も目にしました。
しかも、今回の『端午節』は木曜日、金曜日、土曜日とお休みなので、日曜日と合わせて4連休になるのかと思いきや、そうは問屋がというか、政府が許さないようです。なぜか連休後の日曜日は平日扱いです。日本人的には全くもって不思議な慣習です。4連休にすればいいじゃんねえ。ここらへんの仕組みは、何回先生に説明してもらっても、さっぱり理解できません。
さて『端午節』というと日本にもありますね。そう5月5日は、端午の節句。祝日名はこどもの日です。ゴールデンウィークを構成する貴重な存在ですね。まあ私は、男の子の端午の節句は祝日なのに、女の子の桃の節句は祝日じゃないなんて不公平だと小学生の頃、本気で思っていました(笑) そんな端午の節句ですが、中国の『端午節』はちょっとばかり日本とは違います。
中国でこどもの日と言うと、6月1日の『儿童节』です。そう、『端午節』とは別日程なのです。そもそも6月1日は国際児童デーということですが、一体どのあたりまで国際なのでしょうか。陰暦を使っているところはそうなのか、それとも母の日や父の日のように欧米由来のものなのでしょうか。さっぱりわかりません。先生も知らないそうです(笑)
とりあえず家庭教師の先生いわく、現状としては幼稚園や小学校がお休みになったり、学校があっても授業ではなく特別活動や運動会をしたりするそうです。さらに多くの子どもたちが、プレゼントをもらうのだとか。プレゼントをもらうなんてクリスマスみたいですが、先生に言わせると、クリスマスは新しい文化だそうで、この『儿童节』にプレゼントをもらう方がずっと身近だったのだとか。へええ。個人的にこどもの日にプレゼントって羨ましいのですが、日本ではどんな感じが一般的なんでしょうね。
さて日本のこどもの日は、鯉のぼりや武者人形を飾りますが、中国の『儿童节』ではそういう風習はないようです。ただ日本の端午の節句でも、中国の『端午節』でも『粽子』(=ちまき)を食べるのは同じみたいでした。
今回は先生に2種類の手作り『粽子』をいただきましたので、それを蒸している間に『粽子』の由来について聞いてみました。中国の『粽子』は食べる直前に蒸して温め直してから食べるのが一般的です。北方では中になつめや小豆の入った甘い『粽子』、南方では肉や卵の入ったしょっぱい『粽子』を食べますが、今回はありがたいことに2種類の『粽子』を食べ比べることになりました。わくわく、ドキドキ。
「先生、どうしてこの時期に『粽子』をたべるんですか?」
「そうですね。古代人、つまりうんと昔々の人の風習によりますねえ。」
「え、古代? 古代人ってどれくらい昔の人のことですか?!ま、まさか猿人のこととか?」
「石河さん、それ古代すぎるでしょ。中国の昔の王朝である、楚の時代が始まりだと思います」
そうですよね、すみません。でもいきなり「古代とはとっても昔々の出来事」って言われたら、ネアンデルタール人しかでててこなかったんです。ネアンデルタール人が『粽子』作るはずないですよね。恥ずかしい。
「死体を魚が食べないように、『粽子』を川に投げたはずです」
「ええ?!死体?! 川に死体を流したんですか?!」
「いいえ。有名な詩人が川で自殺したのです」
先生のお話がさっぱりわからなかったのですが、繰り返しお伺いした説明を要約すると、どうやら屈原という有名な詩人兼政治家だった方が、当時の国の将来を憂いて『汨羅江』という川に入水自殺したそうなのです。何と「べきらこう」と打つと、一発で変換できるところを見る限り、相当有名な川のようです。そしてその遺体を魚が食べないように、民衆がちまきを川に投げたのが始まりだそうです。
法定休日でみんな浮かれた連休を過ごしているのに、まさかの由来が全然めでたくなかったというオチ! 何なんすか、どうしてこれが日本では無病息災を祝う行事になったんでしょうか。
まあこの由来には諸説あるようなのですが、確認してみたら私の古い中国語の教科書にもこのお話が載っていました。そうか……。もともとこんなお話だったとは、『粽子』が伝来したときに、日本人には話が伝わらなくて良かったと思います。
その後はもしゃもしゃと先生の手作り『粽子』を食べました。しょっぱいほうの『粽子』は炊き込みご飯とおこわの親戚という感じで、とってもおいしかったです。あれはがっつり食事になりますね。甘い『粽子』は好みがわかれるでしょう。なつめともち米の組み合わせ、さらにそこに砂糖をかけるというのは、私の出身地のちまきに似ていて感動しました。地元のちまきの起源は、やはり中国だったのだなあ。
実は私の地元のちまきはどうやらちょっと変わっているようなのです。
『唐あくちまき』というのですが、色々と施して無味にしたもち米に、黒蜜やきな粉をかけていただきます。砂糖をかけて食べても美味しいのですが、他の地方出身の主人からは非難轟々です。いわく、ちまきに砂糖なんて狂気の沙汰なのだとか。この取り合わせは全国的にはどうなんでしょうか。
今回はわりと破茶滅茶な『端午節』のお話でした。
第12話で出てきた中国語
『微信』(wei1 xin/ウェイシン)=中国で人気のSNS(中国版LINEのようなもの)、英語表記では『We Chat』
『端午節』(duan1 wu3 jie2/ドゥアンウージエ)=端午の節句
『儿童节(児童節)』(er2 tong2 jie2/アルトンジエ)=こどもの日
『粽子』(zong4 zi/ゾンズ)=ちまき
カタカナで記載している発音は、作者にはこう聞こえるという音です。実際の発音とは乖離がある場合があります。あらかじめご了承ください。