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11.「老婆」と「愛人」はOKで、「小三」はアウトです。

 世間話として、先生に最近はどんなテレビを見ていますかと聞かれたのですが、今回も間違ったチョイスをしてしまったようです。今季私ががっつり見ているドラマ、それはN◯Kの「コントレ◯ル」というドラマです。ご存知のかたも多いのではないでしょうか。


 英語で飛行機雲を意味するタイトルなのですが、そんな爽やかなタイトルとは裏腹に、中身は民放の昼ドラも真っ青な内容でございます。


 主人公は過去に無差別殺人で夫を亡くした女性。夫の死後に子どもが生まれ、亡き夫の残した客の来ないドライブインを切り盛りしながら、シングルマザーとして貧しいながらも必死に子どもを育てています。

 そこに現れる謎のトラック運転手。彼は数年前まで、エリート弁護士だったのですが、無差別殺人犯と格闘した際に、現場にいた主人公の夫を過失により刺殺してしまっていたのです……。お互いの正体を知らぬまま惹かれ合う二人。そしてこの二人を取り巻くのは、事件を担当した後も主人公を支える刑事に、事件に立ち会った夫の愛人、癖の強い姑などなど、登場人物紹介だけでもうお腹いっぱいになるような内容なのです。


 先生に内容を説明したいのですが、ハードルが高すぎます。そもそもまず愛人ってなんて言うのでしょうか。仕方がないので相関図を書いてみましたら、先生が混乱してしまいました。


「石河さん、彼は妻が二人いますね。重婚ってことでしょうか?」


「え、先生、1人は彼の『老婆(laopo)』(=妻)ですが、もう1人はそこに書いてある通り、夫の『愛人(あいじん)』なんです。なんて言うんでしょう、問題のある関係と言いますか、違法な関係と言いますか……」


 うんうんうなる私を見て、先生は閃いたのでしょう。ニヤリと笑って、説明を始めました。


「石河さん、中国では結婚相手の性別を明示する場合には、『老公(laogong)』(=夫)、『老婆(laopo)』(=妻)と言いますが、特に明示しない場合には『愛人(airen)』(=配偶者)と言います。決して結婚相手ではない、親密な関係の相手のことを指しているわけではないんです。石河さんが言いたいのは、『小三(xiaosan)』のことですよね?」


 『小三(xiaosan)』と言われて、私の頭にはランドセルを背負った小学生が出てきましたが、もちろんそういう意味ではありません。ここでいう『小三(xiaosan)』とは、浮気相手のことでございます。ちなみにこれは、男女問わずに使えます。間男も『小三(xiaosan)』な訳です。先生曰く、中国でも『小三(xiaosan)』関係で失脚する方は多いのだとか。古今東西、不適切な関係はスキャンダルなのですねえ。


 ちなみに『小三(xiaosan)』のもともとの語源は、『(di)三者(sanzhe)』なのだそうです。この時点で日本語の『第三者(だいさんしゃ)』とは意味が異なるわけですね。さらにさらに、特にお手当てをもらう愛人さんの場合は、『情妇(qinqfu)』(=情婦)というのだそうです。これは『小三(xiaosan)』と違って昔からある言葉だそうで、日本の『お妾さん』というイメージに近いのかもしれません。


 頭に『(xiao)』とつけると、可愛く聞こえたり、目下の人間だとわかります。「さん」呼びではなく、「ちゃん」呼びみたいなものでしょうか。例えば同じ会社に王さんという方がいて、自分より年下の場合には『小王(xiaowang)』と呼ぶと親しみを持って聞こえるようです。ただし場合によりけりで、格下の相手としてバカにするときにも使います。今回の場合は軽蔑を込めて、『(xiao)』をつけているのでしょう。


 さらに先生曰く、愛人は本妻よりも格下のマンションや場所に住まねばならず、車のランクもグレードが低いものにしなくてはならないのだとか。例えば先生のご存知のパターンですと、本妻がベンツで、愛人がBMWという感じらしいのですが、いやいや十分なのではないでしょうか。私なんか、そもそも車持ってないですよ。もう何年、ペーパードライバーのままゴールド免許を更新していることか。もはや身分証明書としての役割しかありません。


「ところで石河さん、日本だと『小三(xiaosan)』が出てきたらどうなるんです?」


「いやあ、リアルではお目にかかったことはありません。テレビを見る限りでは、悩み、耐える方が多いみたいですよ。特にこのドラマでは、主人公の女性は耐え忍ぶんですよね。愛人はお前が言うなよってことを何度も主人公の前に現れては言い捨ててきますけどね。それにお姑さんに罵られても、絶対にご主人の浮気の事実は言いません。観ていて私が辛いくらいです」


 すると先生は、「信じられない!」と叫びました。


「どうして日本の女性はそんなに耐えるんですか?相手は『小三(xiaosan)』ですよ。人の家庭を壊すような女ですよ。彼女たちは、わざわざ何も知らない奥さんに電話をかけてきたりするようなとっても良くない人たちです! 中国なら『小三(xiaosan)』に対抗して、奥さんも『小三(xiaosan)』の職場に乗り込みますよ。夫と同じ職場に勤めていようが、関係ありません! 大体そんな浮気するような男なんて、こっちから願い下げですよ! 離婚です、離婚! 」


 ぷりぷりと怒り出す先生。

 どうやら中国の女性は、『小三(xiaosan)』に限らず、奥様の方もかなりアグレッシブなようです。まあこのドラマの場合、元凶のご主人はすでに亡くなってますしねえ。このドラマも次回が最終回。もやもやしないラストは難しそうですが、主人公さんにもコマンド「耐える」以外を披露していただき、良い結末になればと思っております。


 というわけで本日の単語は、『老婆(laopo)』、『愛人(airen)』、『小三(xiaosan)』なのでした。漢字だけで見ると、わけがわかりませんね(笑)


第11話で出てきた中国語

『老公』(lao3 gong1/ラオゴン)=夫、ご主人

『老婆』(lao3 po/ラオポー)=妻、奥さん

『愛人』(ai4 ren/アイレン)=(男女問わず)配偶者

『小三』(xiao3 san1/シャオサン)=(夫もしくは妻の)浮気相手  [最近の言葉]

『第三者』(di4 san1 zhe3/ディサンジャア)=(夫もしくは妻の)浮気相手 

『情妇』(qing2 fu4/チンフウ)=愛人、特にお手当をもらう場合に使う [昔からある言葉]


※カタカナ表記は、作者にはこう聞こえますという音です。実際の音とは乖離がある可能性があります。

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